第51話 今までとこれから
3人が部屋に帰るのに続いて、オレも出ようとしたところを引き留められた。
「・・で、色々と聞きてぇんだが?」
う・・・はい、そうですよね・・。
「まず、お前魔法見せてみろ。あとごはん代わりにフェリティアから・・何て言ってた?神獣のこともだ。」
うわ~カロルス様、聞いてないようでバッチリ聞いてる・・・これは全部説明しなきゃいけないか・・。
もう隠すのも面倒だしちょうどいいか!
「うん!ライトは・・一番強いのはトカゲの目くらましをしたやつで、派手なのは花火!カロルス様も見たでしょう?」
「あー・・あれな。他に何が使える?」
「えっと、色々できるのは土魔法。あとかいふくの魔法、さくてきの魔法、他ははじめのちょびっとだけ。・・あ、あと野盗をやつけた魔法。」
「他はって・・お前全部使えんのか・・・?とりあえずここで見せられる危なくないやつを見せてみろ。」
「えーと、じゃあお鍋とスプーンを作ったのはコレなの。」
手元に鍋とスプーンを作ってみせる。
「・・・・・」
「・・・・・・カロルス様?」
「お前・・色々おかしいが・・・詠唱はどうした。」
「えいしょうって何?」
「魔法を発動する呪文だよ!」
「あ、これは色んなものを作るから呪文ないの。これならあるよ!」
オレは後ろを向いて「ハイ、チーズ!」をやってみせる。
「・・・・・・」
「・・・・?」
「・・・・・それは呪文じゃねぇ。・・・グレイ。」
「・・ええ。」
執事さんが進み出ると、何やらぶつぶつ唱えだした。えーっと、早いし意味の分からない言葉?
「・・・ライト。」
最後にそう言うと、ぽうっと手のひらの上に明かりが灯った。
「わあ!執事さん魔法使いだったんだ!すごーい!!」
大喜びするオレに、執事さんが苦笑して明かりを消す。
「今唱えたのが詠唱ですよ?普通、これがないと魔法が使えません。訓練すれば、短縮はできます。それがさっきユータ様の唱えたものに近いでしょうね。・・・・ライト。」
執事さんが今度は一言だけ呟くと、同じようにぽうっと明かりが灯る。
「無詠唱は相当熟練した魔法使いがいくつか使える程度になりますね・・。」
「そうなの?でも、妖精たちはえいしょうなかったよ?」
「・・・まさか?!・・も、もしや、ユータ様・・・妖精魔法をお使いなのでは・・・?」
「えっ?そうだよ?妖精のチルじいにおしえてもらったって言ったよ?」
カロルス様がテーブルに突っ伏した・・執事さんは難しい顔で眉間を揉んでいる。
「・・・ダメだった?」
「・・・ダメじゃないがダメだな・・。」
おそるおそる問いかけると、突っ伏したまま言われる。
「絶対に人に見せるな。いいか?絶対だぞ。どうしてもの場合は今まで通り管狐が使ったことにしろ。そっちがバレる方がまだマシだ。」
「はい・・。」
「あのな、従魔術師が魔法を使えるのも普通じゃないからな?しかも妖精魔法を使うやつなんて聞いたことはない。お前、バレたら狙われるぞ。・・最悪、国から狙われれば俺も守り切れん・・。」
苦しそうな表情で話すカロルス様に申し訳なくなる。
「はい、オレ、バレないようにする。それに、迷惑かけないようにする。」
「ばーか、こどもは迷惑かけて当然だ。しっかり頼りやがれ。・・出て行ったりするなよ?」
ぎくり、とした。そんなところまで見透かされてしまうなんて。
「・・・はい。」
「お前はすぐ自分でなんとかしようとする・・言ったろ?頼れと。」
思わずまた泣きそうになって堪える。わしわし、と撫でる大きな手が温かい。
「はぁ・・妖精魔法が使えると・・・それで?まだ衝撃の事実が残ってんのか?」
「・・えっと・・フェリティアのこと。食べるものがなくて、ラピスが魔力を食べるって聞いて・・前に魔素をきゅうしゅうできたの、思い出したの。フェリティアからは安全にきゅうしゅうできるから、フェリティアの魔力をもらって、オレの魔力をあげたら、食べなくて大丈夫なんだよ!」
ぐはっと今度は椅子にのけぞるカロルス様。いちいちリアクションの大きい人だ。
「もう・・もうどこを突っ込んでいいか分からん!一応聞いておくが、お前は妖精か何かの血を引いてるのか?」
「ええっ?!そんなことないと思う。」
「まあいい・・・あとは・・・・神獣、か。」
深いため息をついたカロルス様がオレを膝に抱っこした。
「えっと、神獣はルーって呼んでるの。真っ黒で、大きくて、もふもふ!ケガとのろい?をなおしたら、加護をくれて、街のちかくまで乗せてくれたの。」
「黒い、神獣・・・。」
「霊峰キュリオの噂は真実だったようですね・・。」
「きゅりお?」
「ええ、大森林の近くにそびえる大きな山ですよ。昔から、黒き神の御使いがいると噂されてはいたのですが・・調査しても見つからなくて。」
「ルー、すっごく速いよ。ルーが見つかりたくないと思ってたら多分みつけられない。」
「そうなのですね・・。では、加護も恐らく身体能力に関する物でしょう、心当たりはありますか?」
「えっ?加護ってめじるしのかわりって言ってたよ?おなまえ聞いただけなの。」
「お前っ!神獣の真名をもらったのか!くぁーどこまでも非常識なやつめ!そりゃ普通の加護と違うぞ。もっと強力なやつだ・・・なにも言われなかったのか?」
「お前はあやしいからめじるしをつけるって。ふかしんのつながりって言ってた。」
「ぶはっ!あやしい、か!違いないな!その神獣とは気が合いそうだ!」
わっははと笑うカロルス様。オレの体にも振動が響いてくる。
「うん、ルーはカロルス様にも似てる・・・あ、最初はジフに似てると思ったの。いつも怒ってるみたいだから。」
「ほお、ジフみたいなやつか。そりゃあ信頼できそうだ。危ないときは呼べ、きっとお前を護ってくれるぞ。」
そうかなー半分追い出されてるから呼んでも来てくれそうにはないけどなぁ・・また会いに行きたいな。無事に帰れたことを伝えなきゃ。
「うーむ、真名の加護をいただいたなら繋がり以外にも何か変化があるはずなのですが・・。」
「へんか・・・あ!あのね、歩いても疲れなくなったりする?いっぱい歩けるようになったの。リリアナより歩けるんだよ?」
「冒険者より歩けるって・・そりゃおかしいだろ。間違いなく加護の影響だな。」
「そうですね、加護を持っていることは誇りではありますが・・これもあまり言いふらさない方がいいですね。少なくとも身を守れるようになるまでは。」
そうなのか・・加護自体はめちゃくちゃ珍しい物ではなさそうだけど、これも2歳児がもってるとアヤシイのかもしれないね。
「ふーー、とりあえずこれだけ・・・・あ、違うな。お前だろ?タジルを治したの。あれどうやった?確実に死んでるとこだぞ?」
えっ?オレなにかしたかな??あの時は必死であんまり自分のことは覚えてないんだ・・。
「オレ、なにもしてないと思うけど・・・?」
「そんなわけあるか。・・・ああ、回復薬の小瓶は転がっていたが、それで治るものじゃないぞ。」
「あっ!!それ!えっと・・・・かいふくの瓶に、魔力通したの・・そしたら光ってた。オレ、その瓶をなげたの。」
「あーーまだ出てくるか・・・。それも後で見せてもらおう・・・あーあと魔道具なんて渡した覚えはないんだが?こども達も光る魔石を持っていたが・・あれか?」
「あ、うん!魔法を魔石にこめたら、つかえたの!魔法をつかったらダメだと思って、魔道具ってことにしたの。」
「まーそれ自体は間違っちゃいないが・・・普通できないからな?お前もうちょっと普通のことできないのかよ・・・・もう出てこないだろうな?」
「えーと・・たぶん?」
ふん、と笑ったカロルス様がオレの頭の上にアゴを置いた。
「ちなみに随分流暢に話すようになったじゃねーか。」
「・・・あっ・・。」
「・・はー、俺らと話すときはそれでいいが、他で話すときはそれっぽくやれよ。会話するだけで異常度ががバレるぞ。」
「・・・はーい。」
あーせっかく流暢に話せるようになってきたのに・・。
「こんなちっこいくせによ・・・もうちっと俺の腕の中で大人しくしていてくれたらいいのによ。」
少し寂しげな口調が気になって見上げると、ぎゅっと大きな体に包み込まれる。
「あのな、このままだといつかお前を守り切れなくなる。・・・だから、お前に早く力と常識を身につけてもらわなきゃならんって話でまとまったんだ。・・・マリーは最後まで抵抗していたがな、お前のことを思うと、それが一番いいだろう。」
「・・?」
カロルス様はふう、とため息をつくと、ひょいとオレの向きを変えて座らせた。向かい合わせでカロルス様の青い瞳を見つめる。
「・・・お前、学校・・行くか?」
「えっ・・・行けるの?6歳からって・・・。」
「そうなんだがなぁ・・・飛び級できるだろ、お前。普通入学してからするもんだけどな、貴族の出来のいいヤツが入学を早めることはあるんだ。・・・・それでも小さすぎるがなぁ。」
「オレ、勉強がんばるから!学校いく!」
「そう言うだろうなと思ったぜ・・はー・・もう親離れしちまうのかよ・・・。でもな、さすがにちっさすぎるから、せめて3歳以降だ、そんで4歳って誤魔化せ。早く背が伸びればもうちっと早く入学してもいいがな。」
「はい!・・・あ、そうだ!カロルス様、離れなくても大丈夫です。ラピスがいたらフェアリーサークルでいつでも帰って来られます!」
「・・・・・・」
「・・・?」
「・・・おま・・お前ぇ・・・まだあったのかぁーー!!!」
館には久々に絶叫が響き渡った。
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