第43話 ヤクス村へ1


「きゅう!きゅ!」

目を覚ますと目の前に揺れる白いもふもふ。

「ラピス!帰ってきてたんだ~おかえり・・・・・・・??」


ごしごし、と目をこする。

「「・・きゅ?」」


・・・ん?・・んん??

目がおかしくなった?何度目をこすって見ても・・・ラピスが・・もう一匹いる気がする。

いや・・色が違うけど。

白いラピス。横には同じような小さいきつねっぽい姿の生き物。こっちは色も黄色っぽいきつね色だ。


「・・・・ラピス?どうして二匹になってるの??」


成長したの、とラピスは言う。ど・・どういうこと??


横でぐーすか寝ているニースを起こさないようこそこそと事情を聞くと、どうやら天狐は成長して余剰魔力が出てくると、眷属と呼ばれるものを生み出すそうな・・それがこの黄色いきつね。へえ~面白いね!眷属を生み出していくから天狐って呼ばれるのかな?オレに見せに来てくれたらしい。ちなみにラピスの眷属だからオレとの繋がりも当然あるのだそうで・・すごく、名前を求められている気がする・・。うーん、眷属って今後も増える可能性があるんだよね。


「ええーと・・・最初だからアリス!」

ちなみに次に眷属が生まれたらイリスだ。


「アリス、よろしくね!」

「きゅきゅ!」

くるっと宙返りをしたアリスは嬉しそうだ。でも、帰るまではとりあえず隠れていてもらわないとね・・。ラピスはもう一度彼らの場所に帰って、アリスは置いてくるらしい。せっかくなのでたっぷりとアリスをなでなでしておいた。



「んあー・・んん?」

ようやくニースが起きたようだ。ぐーっと伸びをするとうなり声をあげてうっすら目を開けた。と、オレと目が合うとがばっと起き上がって目を見開いた。


「?ニース、おはよ。」

「あ・・・あー・・ユータか。心臓に悪ぃー・・。大丈夫、オレは無実だ。」


何を寝ぼけているのか。オレはさっさとベッドを抜け出すと、ニースを急かして外の井戸で顔を洗った。

1階のカウンター前へ行くと、リリアナを半分引きずりながらルッコが下りてくるところだった。


「おはよーユータ!大丈夫だった?!・・・・あ、これ?リリアナは朝ダメなのよーいつもこう。」

「そ・・そうなの?おはよ。」

「・・・・」

リリアナはまだ3分の2ぐらい夢の中にいるようだ。




「えーっと・・ヤクス村だったか?こっからどのくらいなんだ?」

「あさからゆうがた前ぐらい。」

「そっかーそこそこ距離あるんだ!じゃあ護衛聞いてみよっか?」

乗合馬車の所まで来ると、2人が御者と何やら交渉しだした。オレの横にはまだ目が半分のリリアナがいる。


「おっけーよ!交渉成立!」

「ラッキーラッキー!」

二人が喜んで戻ってきた。どうやら馬車の護衛をする代わりに運賃を安くしてくれるよう頼んでいたみたいだ。ハイカリクに来たときの馬車は小さかったけど箱形のしっかりしたヤツで、今回の馬車はちょっと大きめの幌馬車だ。客が他に数人いるから御者にとってもありがたい話だったのかもしれない。オレはしっかりフードをかぶると、馬車に乗り込んだ。


ガタゴトとゆっくり目に進む馬車。

今はルッコが御者の横、リリアナが馬車の後ろに乗っている。落ちないのかなと思うけど、出発してしばらくは危険もないだろうし目を覚ますためにちょうどいいんだって。

馬車の中にはオレとニース、老夫婦、若い夫婦と6歳くらいの女の子、冒険者っぽい格好の4人グループ。幌馬車は普通、布で覆われているけど、今は天気がいいからか布を上まで巻き上げて骨組みがむき出しになっている。森と違って広い視界のある景色にわくわくして、完全にお尻を向けて外を見ていたら、女の子やおばあさんにくすくす笑われてしまった。

「何見てるの?なんにもないわよ?」

「そう?たのしいよ?」


こっそり魔力操作の練習もできるし、小さな魔物なら風で驚かせて遠くに追いやっておくこともできるし。レーダーを広げる練習にもなるんだよ!・・とは言わずにおいた。


「あたしリリ!あなたはどこにいくの?私はヤクス村の、おばあちゃんとこに行くの!」

おしゃまな女の子はしきりとオレに話しかけてくる。子どもはオレしかいないもんな・・オレは景色を諦めて向き直った。

「オレはユータ。やくす村に いくの。」

「じゃあ着いたらあそべるね!私しばらく村でお泊まりするの!」

女の子のおしゃべりに付き合っていると、ニースは冒険者グループと話し込んでいるみたいだった。ニース達と同じDランクだが、成り立てらしく、ニースが先輩風を吹かせているのがなんだか微笑ましい。



「・・・・ん?」

オレのレーダーに反応が出た。魔物・・?小さいけど・・数が多い。

「ニース、ニース!」

「ん?どうした?」

オレはこそっと耳打ちする。

「あのね、魔物がいっぱい。小さいけど、いっぱい。」

あっち、と進行方向を指すと、ニースが険しい顔になった。ちょっと待ってろと言うと、後ろのリリアナに耳打ちして馬車の中に入れ、御者席へ顔を出す。

しばらくして、馬車が止まった。

突然止まった馬車に不安げな表情の乗客たち。


「オレはこの馬車の護衛をしてるDランクパーティ『草原の牙』のニースだ!ちょっと先の方に小型の魔物の気配があるから、確認する。幌を降ろして待機してくれ。」


客達はDランクパーティ、小型の魔物と聞いて少しホッとしたようだ。ニース、かっこいいぞ!

御者が幌を降ろして、みんなで固定する。まわりが見えなくなっちゃったけど、オレにはレーダーがある。でも、ニース達は大丈夫だろうか?

(・・ラピス。)

(きゅ!)

どうやらちゃんと察したラピスは馬車の上空にぽんっと出てきたみたいだ。

(ニース達が魔物の所へ行くの。危ないかもしれないから、見ていてくれない?必要だったら助けてあげて。)

(きゅきゅ!)

だったらアリスに行ってもらう、と言う。オレも見ておかないと危ないって。そ・・そう?でもアリスってニース達が危ないときに助けられるのかな?

(きゅう!)

・・どうやら問題ないらしい。ラピスほどではないけど魔法が使えるそうだ。



ニースが出て行くと、薄暗い馬車内は緊張に包まれる。


ギャア!ギギー!

離れた所で何かの声がする。


「リリアナっ!援護!!」

息を切らせて戻ってきたルッコが馬車に向かって叫ぶ。リリアナが飛び出して矢を放ち始めた。

「ゴブリンよ!少し多いけどなんとかする!ここにいて!」

ルッコは馬車内に声をかけると、すぐさま足止めしているニースの元へ戻った。

レーダーの反応は・・・1,2,3・・7匹!いや、あとからもう4匹来る。ど・・どうなのかな?3人が勝てる相手?

勝てるでしょ、と気楽にラピスが言う。そりゃまあラピスなら100匹いたって勝てるだろうけど・・。

いざとなったらアリスが助けてくれる・・と思いはするけど、心配だよ・・。

「ゴブリン・・」

「ご、ゴブリンなら私たちでも・・」

「う、うん・・行こう!」

馬車内にいた冒険者グループが加勢してくれるみたいだ。冒険者7人なら勝てるだろう・・ゴブリンの数も7・・あ、6匹まで減っている。

「あれ・・・?」

その時、レーダーが別の反応を捉えた。

馬車の後方から、人の反応が近づいてくる。もしかして加勢に来てくれた人たちかもしれない!・・・でも、しばらく待ってもその人たちはこっちに近づくばかりで加勢に走ったりしない。もうすぐそばまで来ているのに・・なんだろう?そっと幌の隙間をあけて後ろを覗いてみる。

「!!」

バッと幌を閉じた。あからさまに人相の悪い男がむき出しの武器を携えてそろそろと近づいてきていた。ど・・どうしよう?どうしよう?戦ってる冒険者たちに目もくれずに馬車に向かってくる・・絶対悪いやつだ・・馬車には非戦闘員しかいない。・・男達はもうすぐそこだ。


「下がって!」

馬車の後方からは逃げられない。とりあえず御者台の方へみんなを押しやる。

「おやおや、ぼうやどうしたの?」

「ちょっとちょっと、冒険者さんが頑張ってるからもう大丈夫よ?」

「ユータ、なあに?」

「キミ、どうしたんだい?」

戸惑うみんなを端の方へ連れて行った途端、バサッと幌がまくり上げられ大きな刃物と凶悪な顔が覗く。


小さな悲鳴が上がった。

「・・へへ、いいのもいるじゃねえか。・・金目のもんを出せ!女と子どもはこっちに来い。」

丸腰のオレ達を見て、何のためらいもなくずかずか近づいてくる男。その後ろにさらに数人いるのが分かる。

若夫婦の夫が必死に妻と娘を庇おうと前へ立つ。だ・・ダメ!

「男はいらねぇ!」

無造作に振り下ろされる刃に、咄嗟に前へ回り込んで吹き飛ばした。

ドドッ!

馬車から吹っ飛ばされる数人の悪党。

あれ・・?オレの咄嗟の風ではよろめかせて攻撃を止めるくらいしかできないはず。


ホラ!やっぱり危ないじゃない!

そう言わんばかりに目の前で怒りのオーラを噴出しているのは、小さなラピス。オレはへなっと座り込んだ・・。

あーー・・怖かった。


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