Lost Maiden

Scene.23

 Lost Maiden


 買い物客で賑わうクリスマスを控えたキッチンストリート。

 フィッシュ店長から貰った、様々な肉の刺さった特性のシュラスコを片手に白いウサ耳コートの少女が、鼻唄混じりにキッチンストリートを闊歩する。彼女の姿を見た数人がそそくさと身を隠す。

 吹雪の和らいだ日のこと。快晴の空にちらほらと白い雪が舞うのみ。

 そんな彼女は面白そうな現場に出くわした。

「あー! 警察官があどけない少女を車に押し込んでるー!」

「バカ! そんなんじゃねーよッ!」

「見損なったぜ、ジャン。お前がそんな趣味だったとは……。お袋さん悲しんでるぞ」

「だから違いますってば!」

「お嬢ちゃん怖かったよねー。お姉さんが来たからもう大丈夫だぞン! はい、シュラスコ。食べかけだけど。因みに、一番下のやつ、ヤギの睾丸なんだって! 珍しいだろン?」

「あ、ありがと……」

「話聞けよ!」

 パトカーの助手席にふてぶてしく白い兎が座る。ダッシュボードの上に黒いショートブーツを一組乗せて。後部座席では、メリッサがシュラスコを黙々と頬張っていた。そんな少女の姿を、イルゼはバックミラーで眺める。地下街のスラム街の住人かな、と彼女は溜め息をついた。

 最近、多いな……。

 ジャンカルロの運転するその車は、キッチンストリートの端に位置するイタリアンレストラン、オニオン・ジャックへと向かっていた。

「盗みくらい見逃してやんな。まだ小さいガキじゃん」

「出来るかよ、俺は警官だ」

「けど、そうしなきゃ生きていけないんだよ。この街じゃ。それに、どうせ捕まえたって安っぽくておいしくなーい食事食わせてやって、地下に放り込むだけだろン? お嬢ちゃん今日は良い物食べれるぞー」

「あ、お構いなく……」

「仕方ないだろ、軍警には保護する施設なんてねーんだから。このまま野放しで大人になったら、売りやるか殺しでしか生きていけなくなるってのは、俺だって知ってるよ」

「だったら、それでやってけばいいだろン。マフィアに気に入られたら儲けものじゃん。ベッドの上で死ねるかもしんない」

「だけどな……。もし、見つかって撃たれでもしたら……」

「なあ、ジャン。この街はお前が考えてるほど優しくねェーよ」

「なら、お前が面倒見てやってくれないか、マッド・バニー。このまま地下のストリート・ギャングに置いとけねェーよ」

「やだ。無理。ダメ。つーか、そんなに気になるんなら、自分で引き取ったら?」

「警察官がストリート・ギャングを匿えってか? 俺だって立場があるし、そんな給料ないし……」

「だから、この街は優しくねェーんだよ……。それに、お嬢ちゃんはどうなのさ? ジャンと二人で暮らす? 死んだ方がマシだと思うけど」

「酷くない?」

「私は……。その……」

「迷ってんならやめときなよ」

「あの、私の両親は、ブラック・エイプリル事件で死にました……。だから私、情報屋になって、私はいつか犯人を見つけて、そして、私が……」

「あの事件ね……。お譲ちゃん。復讐なんてくだらない将来設計だぞン? それに情報屋になってどうするのさ。……いつか殺されるだけだぞン」

「でも、あたしは!」

「ちょっと冷たすぎるぜ、マッド・バニー」

「……お前が言うかよ。しょうがないなァ。保護者、見つけてやるよ」

「保護者?」

「任せときなって」

「怪しい奴はダメだぞ」

「私の知り合いにちゃんとした奴がいると思う?」

 悪魔っぽく、白兎が笑う。


 氷の都トロイカ。

 この街には弱肉強食というルールが染み付いる。時にそれはあどけない少女でさえ、地獄へと引きずり込むのだった。

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