22.



「珍しいだろぉ!」



 グレイブはスズキの肩を掴み、酒を共に飲むように促す。



「異世界人って初めて見ました!もしかしてあれも持ってるんですか!?」



「ははは、運良くですが持っていますよ~」



「わぁ! どんな力ですか!? 教えて欲しいです!」



 ミーシャがスズキに興味を持ち、席から立ち上がらんとばかりに前のめりになるが、それと比例して両手を挙げながらスズキは後ろに仰け反るが、ミーシャの興味は止まらない。





「スズキ、悪いな。今日はまだいけるのか?」



「今日は1回も使ってないので大丈夫ですよ。でもそんなスゴイものじゃないので期待しないでくださいね?」





 異世界人。別の世界から来たといわれている人種。見た目は人間に統一されているため、ぱっと見ではわからない。


 ごく希にこちらの世界に来る事があるらしい。


 そして、普通とは違う力を持っていることがある。




「ほれ嬢ちゃん。手ぇ出しな」



「はい!」




 グレイブがミーシャに渡したのは銀貨を一枚。



「そいつを机の下ででもいいから、スズキに見えないようにどっちかの手に握って、もう片方の手も同じ形を作ってみ?」



 受け取った銀貨を素直に机の下にもっていき、片方の腕で握りしめる。




「できました!」



「でと、1から3まで数えるから3の時に両手とも開けるんだぞ? わかったか?」



「ははは、グレイブさん。まるで自分がやるみたいに言うんですから~、まぁそれがわかりやすいですかね?」



「だな、ミーシャもわかったか?」



「これって私がする事なの? スズキさんじゃなくて?」



「あぁ、そのかわりしっかりと3の時に両手開いてやってくれよ?」



「は~い! いつでも大丈夫です!」





 何が始まるのかとソワソワと体を動かし、待ち遠しくしているミーシャ。




「ははは、では、いきますね?  今、どちらかの手のヒラには銀貨が握られていますよね? それを知っているのはミーシャさんだけですね?」



「あ、お兄ちゃんには知られちゃってます!」



「ははは、そうでしたね。自分とグレイブさんはわかっていないって事を説明したかったので大丈夫ですよ」



「なら大丈夫です!」



「せっかくなのでジン君、お願いしますね?」



「あぁ、わかった」





 ミーシャは先程まで机の下にあった腕を4人に見える位置に両手をもっとくる。



「じゃぁ、いくぞ。─いーち、にー「右です」い、さーん」





 ミーシャの開かれた手の上には銀貨が一枚乗っている。


 スズキの言っていた通りに右手の上に。




「あれ~? どうしてわかったんです?」



「ははは、握り方ですよ~」



「あ、そっか、握り方か~。ならもう1回! 次こそしっかりとシマス!」



「おぃおぃスズキよー、嬢ちゃんの手もちっけぇけどどっちか分かるような握り方はしてなかったろうが」



「ははは、そうですね~」



「本当ですか? じゃぁ、偶然? もう1回! もう1回お願いします!」



「いいですよ~、ではジン君お願いしますね?」





 2度目も同じく2を言い終わるぐらい「右です」とスズキは答える。





「次も正解! お兄ちゃんスゴイよ! もう1回! もう1回いいですか?」



「ははは、本日はもう終了ですよ~」



「あと1回だけ!」



「ははは、次は確実に当てることはできないんですよー」



「ミーシャ、終わりだってさ」



「嬢ちゃんも欲しがりだなぁ! まぁスズキも打ち止めってとこか!」



「ん~? どういうことですか?」



「こいつの力がそうだって事」



「そうだった! ならこれは……透視の力……とかです?」



「ははは、おしいですよ~」



「おしいのか?」



「スズキの力ってのは、未来の事がわかるって力だ!」



「ぇえ! それってすごくないですか!?」





 異世界の話をスズキに聞いたことがあるが、魔法を使える者が1人もいないなんて言われても想像が付かない。


 普通に魔力なんて俺たちには当然のようにあるのだから、よっぽど風景や身なりが違がっていても最初は俺も信じないだろう。





 そして、異世界人は普通とは少し違う不思議な力を持っている事がある。


 グレイブはスズキ以外に別の異世界人にあったことがあり、そいつは【いつも通りの動きができながら、体積を倍ぐらいにできる】って力を持っていたとの事。





 踏ん張る時や思いっきり振りかぶるような力にモノを言わせる時には役に立つらしい。


 自分では何となく重たくなってるってのがわかるらしく、持続中は魔力と体力の両方を持ってかれるらしい。会った当時はもっと重さを増やせないか試行錯誤の最中だったようだ。





 そしてスズキの能力は「すごいって言われるほど先の事はわからないのですよ~、ははは」と。





「あれから変わってないのか?」



「残念ながら、やっぱり無理そうですね~、ははは」



「ぇー、どれくらい先まで見えるんですか?」



「ははは、残念な事に、だいたい2秒ぐらい先ですかねー?」



「2秒って便利……なのかな?」



「ははは、どうでしょ~。まぁそれのおかげで、頭から噛まれそうだったのがこれぐらいで済みましたし、ありがたい事ですよ~、ははは」





 スズキは耳のあった場所、傷跡を軽くなぞる。




「もっと先も見えてたらその怪我もしなくて、バシッと避けれたろうになぁ! しかも1回で結構な魔力も体力も持ってかれるんだから回数制限付きてんだぁ、なかなか使い勝手の難しい力だわな!」




 グレイブはそのスズキの背中をバシバシと叩く。





「ははは、そうですね~。普段で1日2回、体調が万全で3回が限度ってぐらいですね~。そうしないと動けなくなる可能性がありますので~。それでも危ないって時はこの傷の時みたいに自動で発動してくれるってのが唯一の救いですねー、ははは」





 決して万能ではない力。


 2秒でも先を見ることができるなら回避に役立つのは確かである。しかしそいつも自分の運動能力次第。わかっても体が追いつかなければ食らってしまう。


 そして、同じように魔力だけでなく体力も消費してしまうという欠点があるため、どうしても少ない回数になっているようだ。





「ははは、特に最初なんて違和感だらけで感覚がつかめませんでしたしね~」




 そんなスズキを置いてグレイブは持っていた酒がなくなったようで、まだ飲み足りておらず追加の為に店員を呼ぶ。




「うはぁー! 酒がうめぇ! おーい! アリア!」




 アリアと呼ばれて来たのは、先程から幾度と見る女の店員。


 他にも従業員はいるものの、偶然なのか近くにいる時に注文をしている気がする。




「んだよ? 注文か?」



「あぁ、俺とそうだな~。めんどくせぇから全員の酒追加で持ってきてくれ!」



「了解、あんたもう結構飲んでんだろ? うちで寝んなよ? 潰れんなら外で潰れろよ?」





 注文を取った店員はグレイブに向かって強めな口調で対応する。



「んだよおっさん、あの店員と仲悪いのかよ? 相変わらず尻でも追いかけてたんだろ?」



「グレイブさんも大人の人だもんね……女の人好きだよね」



「ははは」



「ちげぇ!……いや、そうか。チビ助も昇級した祝いだ。今日は記念に行っとくか? なんなら先輩として奢ってやるぞ?」



「行っとくって……おいおっさん!」



「ん? あぁ、そうだな! わりぃわりぃ、つい癖でな! でもなぁ~」




 グレイブは対面に座る2人の事を交互に見る。




「旅に出てからずっと一緒なんだろ? お前さんも結構……なぁ?」



「行くってこの後もどこか行くの? わたしも行きたい!」



「駄目だ、ミーシャは絶対に駄目。この後は普通に帰って寝る!」



「えー、どこ行こうとしてたんです?」



「ははは、ミーシャさん。きっと2人は賭博にでも行こうとしてたんですよ~。あ~怖い怖い」



「─そうだな。あんな場所いくら金があっても足りねぇよ。な? ミーシャも絶対にいくなよ?」





 スズキが上手いことはぐらかしてくれたので助かった。


 グレイブが行くと行ったのは、十中八九で娼館だろう。



 普通、人の妹が目の前にいるのに言うか。



 グレイブもそれなりに良い歳をしている、たしか30そこいらだったか。


 嫁がいねぇってのは相変わらず変わってないんだろうな。

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