2人旅を開始してから3ヶ月ほど過ぎようとしていた。



 毎日依頼をこなす事もなく、休む時はしっかりと休む。




 大きな街にいったり、小さな村にいって依頼をこなしたり、ただ移動の為に休憩として通った村もあったり、移動に時間が掛かった時は野宿もする事もあった。最初は地面が固いとミーシャは嘆いていたが、2回目以降は慣れたようにすぐ眠っていたし。





「ここも久しぶりだな~」




 1年は経たないぐらいだろうが、過去にジンが拠点として過ごしていた街【レコアンブル】。


 依頼も豊富で、大きな街なので生活もする事に不便を感じることもなかった。





「お兄ちゃんの知り合いもいるの?」



「どうだろうなー。連絡も取ってなかったし、どこか違う街にいってるかも知れないな。元々は別のとこで知り合ったけど、いつの間にかしばらく一緒に行動するようになってたからな」




 冒険者として1人で行動してしばらくの間、討伐の依頼でもよく怪我をし、収集の依頼もよく失敗していた。


 自己で動くしかないって思っていたし、仲間を募集していた依頼もあったが、こっちが新人だとわかると相手にしてくれない事が多かったから、とりあえず全力で戦うか、全力で逃げるかしか出来てなかった。




 そんな事を1年近く続けていた時に、偶然依頼を受ける時に一緒になり、冒険者としてのアレコレを教えてくれたヤツだ。





 それからしばらく一緒に行動する……というよりも「いいからしばらく一緒にこいって! お前じゃ危なっかしい!」という理由で無理矢理連れ回されていた。


 おかげで冒険者としての生活は随分とマシになったのだから、文句は言えない。





 あっちは3等級冒険者でこっちは4等級になったばっかりだったな。


 出会った当初の場所じゃ、3等級依頼もあまりなかった為「こんだけできりゃ、大丈夫だろ。なんかあったら頼ってこいよ?」と言い残して移動してからしばらく会うことがなかった。



 依頼で偶然この街に来たら再会したので、ジンも拠点を移して依頼も含め私生活でもよく一緒に行動する仲になっていた。




 結局、お互いに別々の依頼を受けた際に、拠点を移動してしまって、今に至るのだが。





「まぁ、いるならあいつの行きつけだった酒場だと思うから、夜飯はそこに向かうか」



「ならまずは宿の確保だね!」



「だな、しばらくはここで過ごそうと思ってるから、まともな宿探すぞ」



「は~い! どれぐらいの料金のとこにする?」




 大きな街なので、宿も色々とある。


 貧困層が過ごす地域ならかなり格安な宿もあるが、しばらく滞在するならわざわざ悲惨だと分かっている場所で耐える必要もない。




「1ヶ月で風呂付きって考えても2人で金貨7、8枚前後でいいかな」




 まともな宿の2人部屋なら1泊辺り銀貨25枚ぐらいがこの街の規模なら相場だ。



 その代わり、しっかりとベットも2つあり、それなりの広さもあるので普通に生活するには当たって困らない。





 資金面では、旅に出てから稼いだ額では少し滞在するのにも心許ないが、両親から貰ったものや、俺の資金もまだある。


 これまではミーシャの事も考えて等級の低い、安い依頼を受けていたが、そろそろ4等級だけでなく3等級の依頼も受けようと思っていたので、どうにかなりそうだ。





 ミーシャも持ち前の魔法のおかげで4等級で指定されている魔獣の討伐も、相手が単体なら難なくこなせているので、実力的には付き添いありなら3等級も依頼さえ選べば問題ないと思う。



 実際、帰省する前は1人でも達成できていたので、魔法の支援があると思うとなおさら楽になりそうだ。




「ここなんてどうかな?」





 3店舗ほどの宿の前を通り、店頭に飾る金額の書かれた看板と、外観等をミーシャがじっくりと検討した末に決めた場所にする事に。


 部屋が空いているのなら別に中を覗いてからでも良いんだがなと一度言ったこともあるが「せっかく入ったのに泊まらないのか! なんて思われたくなくって……」と、普段と違いなぜかそういった所だけ大人しげな所を見せられたこともあるので、もう任せることにしている。





 部屋はそれなりに広く、窓を開くと街の風景がよく見え、日差しもしっかりと入ってくれる良い部屋を選んでくれたみたいだ。



「わー! 久しぶりにまともな部屋だぁ!」



「3週間ぶりぐらいか。小さい村も多かったし、ほかにもやたらと狭い部屋だったもんな。言ってたとおりしばらくはここを拠点にして依頼を受けていくからな?」



「うん! これからもっと色んな依頼を受けるんだよね、楽しみだな~!」




 荷物をかたづけた後は、夜になるまで街の中を一緒に見ることになった。



 人が多いとやっぱり活気が違う。



 店は様々な商品が並び、普通に買い物をしているものから必死に値引き交渉を行っている者。一般の人から明らかに冒険者といった風貌の者が必ず目に入る。





「あ! お兄ちゃんにこれとかいいんじゃない?」「これ可愛い……買っちゃおうかな」「良いにおい! 見に行こうよ!」



「そんな服着ねぇから!」「確かに似合う……てか、たけぇな。おっちゃんいくらまで安くできる? それだけ? なら買わねぇ」「飯は後で食いにいくんだから腹は空かしとけって」





 あちらこちらと目移りしてしまうが、久しぶりの賑やかな市場だとこちらの気分も上がる。



 途中でお互いに臭いに負けてしまいつまみ食いも挟んでしまったものの、ふらふらとしている間に良い時間にもなって来た。



「そろそろ行くか」



 酒場は、宿から歩いて15分ほどかかるかどうかの場所。





 多くの飯屋が並ぶ通り、日も落ちてまだそれほど時間も経っていないというのに、賑やかな人の声がそこら中から聞こえてくる。



 そこから1つの店舗を目指す。



「久しぶりだけど結構覚えてるもんだな」



「ここ?」





 店はすでに埋まりかけているのか結構な声が中から聞こえてくる。



 店の名前と営業時間が書かれた看板が店頭に置かれており、午後からも開店しているため、早い者だと昼から飲んでいるものもいるだろう。





「よし、入るか」



「私も果汁酒あったら飲んでもいいかな?」



「確かあったはず。程ほどにな?」





 2人は酒場に足を運ぶ。

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