第7話 普通に可愛い
「ねぇねぇお兄ちゃん、これはどう?」
ゲーセンを満喫した俺たちが次に向かったのは服屋だった。
俺はそこでさっきからこころの一人ファッションショーに付き合わされている。
「いいんじゃない?」
「お兄ちゃんさっきからそればっかり。ちゃんと選んでよー」
「だって俺が着るわけじゃないし」
「…!」
その言葉を聞いて、こころがにやっとした。
何だろう、嫌な予感がする。
「ふーん、じゃあお兄ちゃんが自分で着るならもう少しマシな反応見れるんだ~」
「…まぁ、自分で着るならちゃんと選ぶさ」
「じゃあこれ着てみてよ」
そう言ってこころは自分が今試着している服を脱ごうとしていた。
「だああ待て待て!ちゃんとカーテン閉めろ!」
俺は慌てて試着室のカーテンを閉める。
すぐにこころは元の服に着替えてカーテンを開けた。
「びっくりさせんな…。で、何だって?」
「これ、着てみてよ」
「いや、それ女物じゃん」
「うん、知ってるよ」
「意味が分からないんだが…?」
「お兄ちゃん今言ったじゃん。自分で着る服はちゃんと選ぶって」
「確かに言ったけど…。あぁ、もうどっからツッコんでいいのかわからない!」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん髪長いからちょっといじれば女の子に見えるって。ほらほら、こっち来て!」
「こころ?だぁ、おい引っ張るなって!」
***
「うわぁ…、これはなんていうか、その、お姉ちゃんって呼んだ方がいい、かな?」
「……」
「どうしよう、普通に可愛い…。おに、じゃなかった。お姉ちゃん」
「止めろ」
こころに試着室に引きずり込まれて数分後。
何故か俺は女物の服を着せられ、髪型まで変えられた。
「おかしいだろ!なんで俺がこんな格好してんだよ!」
「…うーん、こっちの色の方がいいかな…。やーでも、こっちも可愛いな…」
「聞けよ!」
「あ、ねぇねぇおに、じゃないお姉ちゃん。つぎこっち着てほしいんだけど」
「ねぇ、なんでお前が着る予定の服なのに俺が着なきゃいけないの?」
「いやー、実際に誰かが着てるの見ると大分印象違うね」
「それは服の話だよな?」
「そうだよ?はい、だから次これ」
「…もういい、わかった。確認するけど、今選んでいるのはお前が着る服だよな?」
「うん」
「…それならいいんだ、うん」
***
意外にもこころプロデュースによる俺のファッションショーは早く終わった。
終わったのだが…。
「おい」
「なぁに?おに、間違えた、お姉ちゃん?」
「間違ってねぇよ!訂正するんじゃねぇ!」
服屋を出た俺の恰好は服屋に入る前と大きく異なっていた。
「百歩譲って、いや、百万歩くらい譲ってこの格好はノータッチとしよう。俺が着た後の服着るとかお前は嫌じゃないの?」
「ちゃんと洗濯すれば平気でしょ。それにお姉ちゃんが着た服なら大歓迎だよ!」
「お前はそういう奴だったな…。てか俺を姉と呼ぶのを止めろ」
「いやね、正直女の子の恰好したお姉ちゃんがそこまで可愛いとは私も思ってなかったよ。女としてすごく負けた気分…」
負けたも何も性別が違う以上勝負の土俵が違うから比べようがないと思うんだが。
「あそうだ、じゃあ次はお姉ちゃんが着る服を私が着てあげるよ。それでちゃらにしよう!」
「別に俺服要らないんだけど…」
「いいじゃんせっかくなんだし。服ならお母さんがお金出してくれるからさ。行こ、お姉ちゃん!」
「だから俺を姉と呼ぶんじゃねぇ!」
その後入った別の服屋でこころは宣言通り男物の服を着て見せた。
だがそれは恐ろしいほど似合ってなく、こころに男装は無理だということしか得るものはなかったのだった。
次からはもっとマシな感想を言えるようにしようと、俺は思うのだった。
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