Case File No.003-14

 自由の女神像は、その後、ガーランの光の剣でバラバラにしておいた。

 バラバラになったそれをみんなでさらに粉々にした。


 最初の攻撃で機能は停止したはずなので、念の為というより腹癒はらいせに近い。


 なお、熊吉とウラヌスの二人は、女神像の破壊を他のメンバーに任せ、すぐにフォスター中佐達を追ったが、湖面を飛び立つ二式大艇US-2改の姿を見送るだけだった。


「くそっ! 逃げられたか!」


 ウラヌスが悔しげに声に言って、M2重機関小銃を二式大艇US-2改に向ける。


 だが、一足違いで夜空に消えていく二式大艇US-2改を波戸はと桟橋さんばしから月明かりだけを頼りに撃っても命中させるのは難しい。


 仮に命中できたとしても、防弾仕様の二式大艇US-2改を撃ち落とすことは不可能だ。


 それがわかっているから引き金は引かない。

 でも、悔しいから照準は続ける。


「秘め事の間で倒れている男の数は十四名だった。先発隊の人数と一致する。ということは、二式のパイロットは連れ去ってないってことだよな?」


 M2重機関小銃を構えるウラヌスの横で熊吉は疑問を口にする。


「ああ、自前でパイロットを用意したんだろ。沿界警備隊ボーダー・ガードにも飛行艇乗りはいる。身内の航空隊かどうかはわからないな」


沿界警備隊ボーダー・ガードと身内、両方を疑わなきゃいけないのかよ。今回の件、一歩間違っていたら邪神討滅事案になっていたかもしれないし、この状況をどうするかも含めて頭の痛いことばかりだ……」


「無い脳味噌を使ったところで答えは出ないぞ」


 ウラヌスはM2重機関小銃を構えるのをやめ、背中に背負う。


「ま、それもそうだな」


 熊吉は夜空を見上げるのを止め、ウラヌスと共に神殿内に引き返す。


 神殿内部では正気に戻った佐倉少尉達から野中三曹が事情を聞いていた。


 他のメンバーは全員、泣きじゃくる巫女みこ達をなだめたり、事情の説明に追われたりしている。


 洗脳されていた者達は全員まだ裸のままだったので、近くにあるタオルやらシーツやらを総動員して体を覆ってもらう。


「さて、どうすっかな」


 熊吉が困惑の表情を浮かべると、ウラヌスがその背中を力強く叩いた。


「しゃんとしろ、警務官。まずは先発隊の聞き込みが先だ」


「わかってるよ」


 ウラヌスに促され、熊吉は佐倉少尉達のもとへ向かう。


 一見すると女の子のように見える佐倉少尉は、華奢きゃしゃで小柄で声もとても可愛らしい。


 でも、胸もないし、股間にはすごく立派なモノを持っている。


 昔ならちょっとかまっぽいとか言われそうなフェミニンな魅力を持つ佐倉少尉のもとには、何故なぜかこの部屋でもりすぐりの美女達が六人ほど集まっていた。


 まあ、中性的ではあるが、美しい顔立ちなので、この結果は当然だろう。


「佐倉少尉、すまないが知っていることを全て話してもらえないか?」


「わかりました」


 と、佐倉少尉は事の顛末てんまつを事細かく教えてくれた。


 それによれば、六日前、この世界にやってきた彼らは、カリュータからルタールに監視拠点セーフハウスが移転されたという通信を受け、進路をこのルタールに変えたのだそうだ。


 その後、通信の誘導に従って湖面に着水し、この内殿の横にある波戸はとに機体を横付けした。


 深夜にもかかわらず、桟橋さんばしには向井少佐の他、数名の部下達がいて出迎えてくれた。


 彼らに案内される内殿に入った佐倉少尉達は、神餐しんさんの間で歓待を受けたのだが、そこで急に眠気ねむけを覚え、気がつくとこの部屋で女の子達と遊んでいたのだそうだ。


 それから今まで仕事のことはすっかり忘れて内殿での生活を満喫していたらしい。

 至れり尽くせりの生活は本当に天国だったと佐倉少尉達は口々に述懐じゅっかいした。


「まったく、い御身分だな」


 全てを聞き終わった熊吉は、嫌味半分に笑ってみせる。


面目次第めんぼくしだいもありません」


 小さくなる佐倉少尉を見て、女の子達が熊吉を睨む。


 微妙に腹立たしい熊吉だったが、とりあえず無事で何より、ということにしてい怒りを腹に収めた。


「さて、この達をどうするかが問題だな……」


 再び頭を悩ませる熊吉。


「この部屋の結界は、おまえがぶっ壊したからいいとして、このまま放置ってわけにもいかないだろうな」


「名探偵ウラヌスさん的には何か意見はないんですか?」


「その名で呼ぶなって言っただろ!」


 ちょっと意見を聞いただけなのに、いきなり蹴りが飛んできて吹っ飛ばされた熊吉の体を近くにいたミラウが受け止めてくれる。


「大丈夫か?」


「ああ、大丈夫だ。ありがとう。それより、元騎士団長としてこの状況に対する意見を聞きたいんだけど?」


「彼女達をどうするか、ということだろ? 正直言って、このまま見なかったことにして逃げれば、遠からず同じ目にわされるだろうな。この部屋に施されていた結界は相当古いもののようだから復元は不可能だ。となれば、今度は他の方法でその意思をねじ曲げられることになる。それが苦痛を伴わないという保証は何処どこにもない」


「見逃せば酷い目にう可能性は高いということか……」


「ではあるが、貴様らには関係のない話でもある。このまま私と娘達を残して逃げることの方が賢明ではある」


「そこまで非情にはなれないよ。というより、そういう不幸を起こさない為に俺達がいるんだ」


「聖剣を折ったり、結界を壊したり、貴様は一体何者なんだ?」


「ただの宮仕えさ。それ以上でも以下でもない」


「面白い奴だな」


「よく言われるよ」


 結局、対策はみんなで話し合って決めた。


 それぞれが意見を持ち寄って議論した結果、全ては教団の不正を暴く為に行われた、というシナリオが完成した。


 大司祭ラファルトことフォスター中佐に全ての責任を押しつけ、彼は全てが明るみに出るのを恐れ、出入りの商人であった向井少佐の手引きで逃亡したことにした。


 無論、聖ファルナート皇国の歴史に泥を塗る事実は全て隠蔽。


 巫女みこを各教区から差し出させていたのは大司祭ラファルトの企みであって、教会はこれに関与していないという形で納める代わりに、巫女みこ達を解放し、賠償金を支払うこと、そして、今後一切、このような行為は行わないことを条件に、教皇と直談判じかだんぱんすることも決まり、その役に元騎士団長であるミラウが選ばれた。


 ただし、彼女一人では危険なので、事情を騎士団員に話して協力を仰ぐ。


 と同時に、協力してくれそうな教会関係者に根回しし、一夜にして騎士団主導のクーデターにまで話が発展。


 そして、夜が明けた頃、大神殿内をほぼ制圧したミラウ達は、教皇と謁見えっけん


 その後、ミラウ達の直訴じきそを受けた教皇は枢機卿すうききょう会を交えて会議を実施。


 全ての結論が出たのはその日の夕方だった。


 結論から言うと、教皇側は降伏し、こちらの要求を全て受け入れた。その上で、現在の枢機卿すうききょうを全て解任。


 枢機卿すうききょう会を中心とする政治体制の刷新さっしんまで約束してくれた。


 教皇自身も、秘め事の間については心を痛めていたらしい。


 どうにかしてめさせたいと常々考えていたそうだが、世襲の枢機卿達が強固に反対しただけでなく、選挙で選ばれた枢機卿達にも翻意をうながされたのだそうだ。


 しかし、自らの命を省みないミラウの行動に心を動かされ、ようやく枢機卿すうききょう会と戦う決意をしたのだということだった。


 ミラウは教皇から直々じきじきに感謝の言葉を告げられ、今後とも神殿騎士団長として職務に励んで欲しいと頼まれたが、当人は辞める気満々だったのでこれを固辞。


 騎士団長ミラウ・ゼルアル・ディーフェは、教皇への直訴嘆願じきそたんがんを求め、不正の情報を集めていたが、大司祭ラファルト・ヴァーロの奸計によって殺害されてしまったということにして欲しいと願い出た。


 教皇は恩賞の代わりに、と言ってこの願いを聞き入れてくれた。


 そして、彼女に協力した熊吉達に特別な褒美を与え、港町カリュータまでの馬車を用意してくれた。


 事件はこうして幕を閉じたかのように見えたのだが……。

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