幕間 ~ミドリさんにチュールを~

「なんか味をしめたみたいですねぇ。心の中への乱入シリーズ」


 いきなりのその一言にギクリとする。


 さすがは編集さんだけのことはある。

 的確に私の分析をしている。

 ちょっと心の中を見透かされているようで落ち着かないが。


「……また心の声が漏れてますよ、関川先生」

「ああ、今のは聞かなかったことに。たわ言ですよ、たわ言」


「それより、どうでした? 二作目は?」

「テンションが高い感じは良かったです。ちょっと勘を取り戻してきたかな? という感想でした。でも全体的に話のまとまりがないっ! わかりづらいっ!」


 思ったよりはっきりと言われてしまった。

 まぁ自覚があっただけに。

 ちょっと膝の上のミドリさんをみつめると、彼女もまたナァーと小さな声で同意した。

 やっぱり。


「す、すみません」

「時間がないのは分かりますし、ブランク明けということもありますからね。でも面白ったですよ」


 その一言にホッとする。

 同時にまたバーグさんと会話しているような、そんな気持ちが蘇ってくる。


 うん。一年前も大変だったけれど、振り返るとやっぱり楽しかったのだ。

 それはやっぱりバーグさんがいたからだ。

 そして彼女と話していると、彼女はあの実体化したバーグさんなのではないか? と思えてくるのだ。

 

「ところで、今日はちょっと変わった企画を用意したんです」

「企画、ですか?」

 

 イキナリなんの話だろう?


「はい。実はオンライン会議というものを予定してます」


 これが噂のオンライン会議か。なんかちょっと恥ずかしい気持ちがある。

 まぁ顔を出すのは別にいいんだけど、どうも人見知りというか、うまく話せる感じがしないのだ。


「実はそう言うのに詳しくなくてですね、ちょっとハードルが高いというか」

「それなら心配ご無用です。メールに招待のアドレスを送りますから、先生はそれをクリックするだけで大丈夫です」

「そんな簡単なの?」

「あとはこっちでやっておきますから」


 ミドリさんが「ニャ」と可愛い声で小さく鳴いた。

 で、何かを期待するようにジッと見つめてきた。


「ひょっとして『チュール』かな?」


『チュール』のその一言だけでミドリさんの耳がピッと立つ。今、日本中の猫をトリコにしているという『チュール』、彼女も例外にもれず大好きなのだ。


「は? まぁとにかくメール見てくださいね。あ! そうそう次のお題ですけど」

「そうだった。それが本題だったね?」

「はい。次のお題は『Uターン』です」

「はい?」

「ユーターンです」

「なにそれ?」

「お題です」

「ユーターン、が? 意味わかんないけど」

「これ編集長の発案です。ちなみにオンライン会議も彼女の主催です」


 ……訳が分からない。

 このお題が出た時、たぶんみんなが首をかしげたはずだ。

 

 そういえばミドリさんも首をかしげている。

 おっといけない。チュールだ。


 さっそく封を切ると、ミドリさんは一生懸命に舐め始める。

 その幸せそうな顔!

 やはり美味しいものは人だけでなく猫も、たぶん犬だって幸せにするのだ。


 うん。今回は焼き鳥を取り入れよう。最近私はコレにはまっているのだ。

 そんな思い付きで書き始めて書き上げたのが、『Uターンの瞬間と焼き鳥屋さんの思い出』である。

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