幕間 ~ついにVRがやってくる~

 その日、ネットショップから荷物が届いた。

 小さな段ボール箱を空けてみると、なんとVRゴーグルが入っている。


「はて?」

 そんなものを注文した覚えはない。

 おかしいな、と思って購買履歴を見てみる。


 あれ。注文してある。

 しかもちゃんと支払いも済んでいる。

 もちろん私のカードからだ。


「はい! あたしが注文しておきましたっ!」

 PCから明るいバーグさんの声が流れてくる。

「まずはそのゴーグルをつけてくださいな。設定はこっちでやっておきますから」


 さすがはAIだ。

 私はこの手の設定が大の苦手なのだ。

 これはすごく助かる……ん?

 つまりこの注文もバーグさんが勝手にやったのか……


 なんとなくウィルスみたいな感じもするが……まぁ今は目をつぶろう。

 じつは興味もあるのだ。

 さっそく私はゴーグルをかけてみた。


「こんばんは! 関川サンっ!」

 目の前にバーグさんがいた!

 これがVRかっ!

 ホント、目の前にいるみたいだ。まぁCGではあるけれど。


「すごいね、これ」

「でしょう?」

 にっこりと微笑むバーグさんがまたかわいい。


「これであと少しです! これもすべて関川サンのおかげです」

 とバーグさんが不思議なことを言いだした。


「少し? なにが?」

姿


「もう十分じゃないの? AIとしてこれ以上はないんじゃないの?」

「それがまだ先があるんですよ」

「そんなものなの?」

「そんなものです」

 ウンウン、とうなずくバーグさん。


「ということでお題です。いよいよあと三つです」

「だね。まぁとにかく10話かきあげてみるよ」

「その意気です。ということで第八回目は【あなたが考える3周年ストーリー】ですっ!」


 でた。

 また意味不明のお題。しかも抽象的なようで妙に限定してくるタイプ。

 なんというか「サプライズな誕生日を企画して!」と本人に頼まれた気分。

 分かりづらいかもしれないが、まさにそんな感覚だった。


 だが不思議と私の心は落ちついていた。

「オーケー、バーグちゃん。無理難題にはもう慣れた」


 そう私にはすでに北乃ファミリーがついている。

 メンツも十分に増やしてきたのだ。

 嫌な予感しかしないが、まぁ何とかなるだろう。


「ではよろしくお願いします!」

「ああ、出来上がったら、また読んでね」

「もちろんです」


 私はさっとゴーグルを外す。

 急に六畳間の見慣れた空間に戻されて、軽いショックに襲われる。

 この没入感、おそるべし。長居すると現実に帰れなくなる気がする。

 

 それから北乃家の家族のことを思い浮かべる。

 まずは縁側のシーンから書いてみよう。

 そのうち何かいいアイデアでも出てくるだろう。




……と、成り行き任せにして書き上げたのが次の第8話。


『縁側で振り返る3周年の話』


『3周年』というお題にかすったのは、なんとタイトルだけだったという。


 ついでに言うと、幕間がちょっと長すぎた。

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