30 正当な評価

「いいぞーアリサー!」


「っしゃあ!」


 アリサの無双っぷりを見て手を叩く俺に、自分の事のように喜んでガッツポーズするリーナ。

 そして、最早語るまでも無いとばかりに無言で腕を組み頷くグレン。


 そうやって俺達は目の前で繰り広げられたアリサの無双っぷりに各々自然な反応をした訳だが、この場においてそういう反応をした俺達は異端だったらしい。


 起きた出来事に周囲は困惑したように静まり返り、まともに反応を見せたのは俺達だけ。

 ……誰もが目の前で起きた出来事を唖然として見ている。


 肩慣らしとでもいうように軽々しく一瞬で、Aランクの試験という難関を突破したんだ。

 ……何も知らなければ誰もが驚く。

 誰も知らないから誰もが驚く。


 そして沈黙はやがて歓声へと変わる。


「うわ、大盛り上がりっすね!」


「そりゃな。こんなもん前知識無しで見せられたらそうなるわ。なんというか、自分の事じゃねえけど気分良いな。お前もそう思わねえか? クルージ」


「ん? ……ああ、そうだな」


 ……やっと正当に注目を浴びた。


 これまで悪い意味で注目を浴び続けてきたんだ。

 俺と関わりだしてからはもう徐々にそういう注目は弱まっていたけれど、だからと言ってアリサが正当に見られていた訳じゃない。

 皆アリサの事を良く知らない。

 それを今日証明した。


 アリサという女の子は凄いんだって事が今、証明された。


 ……うん、良い。

 本当に良い気分だ。


「……ほんと、最高の気分だよ」


 自分と親しい人間が色々な人から認められるというのは、本当に嬉しい。

 しみじみそう思うよ。


 と、そんな事を言う俺の表情をどこか優し気な笑みを浮かべて二人が覗き込んでくる。


「どうした二人共」


「いや、別に」


「なんでもないっすよ」


「……?」


 絶対何かあるだろ。知らんけど。

 ……まあいいや。


「で、次はSランクのテストか」


「そうっすね。どんなの出て来るかちょっとドキドキするっすね」


「とりあえず強敵なのは間違いねえだろうな……っとクルージ。お前応援するのも良いけど、ちゃんと見とけよこの戦い」


「見るけど……改めてどうした?」


「日ぃ跨いでも同じ相手と戦う事になるかは分からねえが、ほら、お前も怪我完治したら試験受けさせられるんだから……多分」


「あ……そ、そうだな」


「その時負けるにしてもある程度喰らいついてカッコ良く負けられるようにしとかないとっすよ」


「お前はなんで負ける前提で話してんの?」


 ……いや、さっきのAランクの試験見た時点でアレより上とか現状絶対無理じゃんとは思ったけど。

 うん、本当に無理だ。

 イジりのネタとして投げられる位に。

 それをネタとして受け止められる位に。

 普通に無理。


 此処に居る俺達じゃ現状、あれより上はまず間違いなく無理だ。


 ………まあ見えないけどそこに居るであろう誰かの力を借りたグレンや……使わせちゃいけない力を使えた場合のリーナなら話は別だろうけど。

 とにかく今は無理。


 だからこれから。

 Sランクのテストなんて軽々超えていくようなアリサに追いつけるように頑張る。

 その心持ちだけは無くすな。


 それを無くさなければ。

 甘い考えかもしれないけれど、今はそれでいい。



 そして俺達の頼れる仲間の戦いが再開する。

 少し驚いたような試験官とスタッフと話していたアリサはやがて再び定位置に戻りナイフを構える。

 そしてスタッフがアナウンスする。


「ではこれよりSランクのテストを開始します!」


 思わぬアリサの実力を見せられて、少しテンションが上がった様子で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る