ex 手繰り寄せた成果
単純に結界を直撃させる戦法が全く通用しなかった時は、一瞬どうすればいいのか分からなくなったが、それでもすぐに気持ちを切り替える事は出来た。
焦りながらも今自分がやれる事を再認識し、その中から勝つ手段を。
この戦いに勝利する為の策を再構築する。
その策が、大型の結界を天井に作る事だった。
今使っている結界の魔術は、地面などを伝って壁の様な結界を作る魔術。
そして天井へは壁から観覧席。観覧席からその壁。そして天井と辛うじて繋がりがある。
故に実践運用など到底できない速度ではあるし、非常に難易度も高いが理論上結界を天井から生やす事も可能。
そしてその結界を更に時間をかけて硬度も大きさも引き上げ、効力の発動時間が終わり結界が消滅する直前が、結界が育ち切り最大火力の出せるタイミングだ。
(今……ッ!)
それまで壁の近くを走り回っていたリーナは此処で方向転換し、中央目掛けて走り出す。
そしてそれを追うように幻覚も迫ってきて……そこでリーナは地面に触れた。
天井を媒体に出現させた結界を媒体として出現させた結界。
その内の一つ。
シャンデリアを吊るすように、天井と物体を繋いでいた一つを消す為に。
そして次の瞬間、リーナ目掛けて棍棒を振り上げた巨体の脳天目掛けて、分厚く重い巨大な鉄板のような結界が落下する。
そして直撃。
激しい音と共に……幻覚の巨体が消滅する。
「ケホ……ケホ……」
結界を落下させた衝撃により発生した土煙で思わず咳き込み苦い表情を浮かべるリーナだが、それでも内心安堵する。
(や、やった……うまく行った……!)
正直、自信は無かった。
そもそも自分に自信を持てた事があまりなかった。
それでも今、かつてのように無茶苦茶な成長速度ではなく、地道にやれる事をやって得た成果で、自分でも純粋に驚けるような成果を出せたのは、自信を持って自分の価値を積み上げられたような気がして。
「っしゃあ!」
自然に勢いよくガッツポーズをする事が出来た。
驚いた表情を浮かべながらも各々自分に対して嬉しそうな表情を浮かべてくれる人達に、気持ちよくピースサインで笑みを向ける事が出来た。
そして観覧席の三人と、後いつの間にか見に来ていた魔術の師匠を視界に入れながら考える。
(とりあえずこれで最低限の事はやったかな)
これでBランク。
グレンがAランクでそこを基準に仕事を受けるとするならば、一つ下のランクを取れれば四人で一緒に仕事ができるんじゃないかと思う。
だからこれで最低限、やれる事はやった。
……どうしても最低限という言葉が引っ掛かるけど。
「凄いね今の。おめでとう、これでキミはBランク以上確定だよ」
「どうもっす」
試験官の術者にそう相槌を返した後、スタッフの人が聞いて来る。
「それで……どうします? Aランクの試験は受けますか? さっきの人のテストを見てたら分かると思うけど、更に難しくなるから良く考えて。ほらこの試験難易度調整結構無茶苦茶な所あるから。ねえ試験官さん」
「それは基準設けた上の人間に言ってくれ……現場に立ってりゃ分かるわ俺だってそんな事。全部上が悪い。馬鹿しかいねえ。でもそも謝っとくわごめんなぁ」
そんな謎のやり取りを見せた後、試験官が改めて聞いて来る。
「で、どうする嬢ちゃん」
「やるっす」
二つ返事で、迷うことなくそう答えた。
「最低限の事はやったつもりっすけど、やるなら最後まで、全力でやってみる。そう決めたっすよ」
正直今のギルドのランク制は無茶苦茶な要素が多くて、とてもじゃ無いが褒められた物では無い。
自分はともかくとしてアリサが最低ランクを付けられている時点で酷い物なのだ。
だけどそれはそれとして、分かりやすい肩書を得られるのは悪い気分じゃない。
分かりやすく、自分の中で自分の価値を確立できるのは、あまり悪い気分じゃない。
だからやれる所っまでやりたいと思う。
後、もう一つ。
改めて、観覧席に居る仲間達に視線を向ける。
そこにいるのは自分をちゃんと見ようとしてくれる人達だ。
ランクだとかそんな分かりやすい指標がなくても、ちゃんと見てくれる人達だ。
そんな人達に……自分がどこまでやれるのかを、最後まで見て欲しい。
だからこそ、Aランクのテストに挑む。
……一つ大切な事に気付かないまま。
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