14 そこに居る誰かに敬意を
それからすぐに地震は収まり、不可解な現象だけがそこに残る。
なんだ……何が起きている?
なんで箱が宙に浮いて止まってるんだ……?
混乱する思考の中でまず真っ先に辿り着いた可能性はリーナだ。
今のリーナがあれから何か新しい魔術を覚えているかどうかは不明だけれど、あれより前。
読み切った読み切った初心者向けの教本に、物を浮かせる様な類いの魔術があったのではないかという可能性。
だけどリーナの方に改めて視線を向けて、それは無いと否定する。
「う……浮いてるっす……」
リーナもこの状況に困惑しているようだった。
だとすれば考えられるのはアリサだけど……アリサもリーナと同じく困惑の表情を浮かべていて。
では一体何がそうさせているのか。
その問いに対して俺達は、もう一つの可能性を提示する事ができる。
そしてその可能性を、アリサが口にする。
「まさか……その……お茶用意してくれたりした……」
……そう、此処には多分もう一人いるんだ。
悪い存在ではないのであろう、誰かが。
……だとすれば、本当にその仮説が当たっているのかどうかは分からないけれど。
そこに居るのか。聞こえてくれているのかは分からないけれど、言わなきゃいけない事がある。
「……ありがとう、助かった」
そこにいる誰かに対して、ちゃんとしたお礼を言わなければならない。
多分端から見れば滑稽な光景に見えるのかもしれないけれど、此処まで色々してくれたのならば、最低限これ位はしておかなければならないだろう。
そして二人もそれに続いてくれた。
「あの……お茶にお茶菓子……ありがとうございました」
「えーっと……その、無茶苦茶怖がっちゃって、すいませんっした!」
俺達の言葉に、そこにいる筈の何かは反応を返さない。
ただ受け止めてくれた箱を、元の位置に戻しただけ。
そんな誰かに、最後にこれだけは言っておきたい。
俺は軽く一呼吸置いて、それから言う。
「グレンの事……よろしくお願いします」
アイツはきっとこれから色々と大変だろうから。俺もサポートできる事はサポートするつもりだけれど、そういう事ができる奴は多いに越した事は無いから。
名前も顔も性別も。一体どういう奴かすら分からないけれど……きっと悪いようにはならない筈だ。
俺の親友の事を助けてくれる筈だ。
と次の瞬間、肩にポンと手が置かれるような感覚があった。
一応振り替えるがアリサとリーナではなかった。
だとすれば誰がやったかは明白で。
正直その現象事態は無茶苦茶怖いんだけど、その反応は任せろと言ってくれているみたいで。
……少し安心できた。
そしてそれからグレンが戻ってきた。
「いやー揺れたな。お前ら大丈夫だったか? ……ってどうした、なんかスッキリした顔してるけど」
「いや……なんでも。良い物件契約したなって。そう思っただけ」
「都ってますね」
「そうっすね。都ってると思うっす」
「お、おう……ありがとう」
グレンは少し困惑気味でそう言葉を返してきた。
ああ。ほんと……いい物件だよ。
……とはいえ少し疑問が残る。
此処にいる誰かが敵意を持っているような。所謂悪霊のような存在では無いのだとすれば。
「いやー事故物件って言ったら何か起きるようなマイナスイメージあるけどさ、何も起きなくて家賃安くてこんなにいい感じの所なんだから、ほんと良い所だよな。ハハハ」
なんでグレンはこんなにアルティメット鈍感馬鹿野郎になってんだ……?
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