【閑話】黒装束ボスの末路
俺はこの大陸に蔓延る巨大闇組織、魔族崇拝のレビエーラ拠点を任された魔族、グルガァだ。
組織の目的は魔大陸にある旧魔王軍に代わり、このヒト族共の大陸を苗床にして新魔王軍を築き上げる事。
最近の魔王様とやらはよ、あれは良くねぇ。
最強の種族たる魔族とこの大陸の家畜共との戦争以降、まるで覇気を感じねぇんだ。
会った事はねぇが、それでもやり方が穏やかになった事だけは分かる。
よううするに腑抜けちまったんだ。
だから俺達がその魔王様に成り代わり、あのお方を筆頭にしてこの大陸を乗っ取り、秩序を正す。
……そのつもりだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!! ……ありえねぇ、ありえねぇ!! なんだあの化け物はぁ!?」
俺は困惑していた。
下等種族であるとはいえ、その中でもある程度の精鋭ともいえる部下五人が、化け物の攻撃によって一瞬で消されたからだ。
なぜか一人は生き残ったようだが、それも時間の問題だろう。
そもそも、あの部下共は六人も集まれば、魔族である俺と対等に渡り合えるだけの力をもつ、それなりに使える駒だった。
まあ魔族の中でもさほど強くはない、一般人程度の俺と対等という程度ではあるが。
それなのになんだ、あのザマは。
未だに目の前で起こった事が信じられない。
俺は一体、……何を敵に回しちまったんだ?
「逃げなきゃ、逃げなきゃぁぁ……」
事前に用意されていた非情通路から這う這うの体で逃げ出し、街の外へと駆け出す。
この出口は港町レビエーラの城壁の外に繋がっており、万が一の時のために前任の魔族が残してくれたものだ。
優秀だったと評判の前任にしては、家畜共如きに何を臆病な事をと思っていたが、今回はそれが功を奏した。
次に会う事がれば、前任を少しだけ侮っていた事を謝り酒でも奢ってやろう。
今はとにかく、走り続けて生き延びなければならない。
生き延びて、あの化け物の事を報告しなくてはならない。
ヒト族の中に、ソウ・サガワ以外の脅威が居るという事を。
「……死んで、たまるかよ」
いくらあの化け物といえど、森の中を自由に走り回られては後から追いつくのは困難だろう。
一分でも時間が稼げれば、こちらの勝ちだ。
まだ勝機はある。
するとそんな希望を打ち砕くかのように、どこからともなく誰かが前方から歩み寄ってきた。
……あれは、
ビビらせやがって、あいつがもう先回りしていたのかと思ってヒヤヒヤしたぞ。
だが、こいつら程度ならすぐに片づけ、生き延びる事ができる。
再度、瞳に意志の力が宿り、生への執着が芽生える。
「──おいおい。どんなクズ野郎かと思えば、案外良い目をしてるじゃねぇかよオッサン。だけど残念だったな、ここから先は行き止まりだぜ」
「くすくすっ。あんなに怯えちゃってー、ルーくんってば脅しすぎだよー」
馬鹿が、この魔族様を相手に油断しすぎだ。
「悪いな家畜共。お前らにこれといって恨みは無いんだが、あの突入組の別動隊だとしたら話は別だ。死ねやぁ!!」
まず最初にヒト族のメスを狙って剣で切りかかる。
杖を持っている所を見るに魔法使いである事は丸わかりだし、近接戦闘能力は極端に低いはず。
向こうでは一般人程度とはいえ、それでも物理に秀でた魔族である俺の攻撃を止める術は持たないだろう。
戦士の方は無理して相手をしなくても遠距離攻撃がないだろうし、逃げるのに脅威となる魔法使いを仕留めればそこで終わり。
俺の勝ちだ。
……しかし、ここでも俺の期待は大きく裏切られることになる。
「ふわぁ……。欠伸がでるわぁー」
「なっ!?」
バカな、こちらの攻撃が掠りもしなかっただと!?
い、いやマグレだ、そうに違いない!!
次こそは──。
しかし何度斬りかかろうとも躱され、あるいは杖で弾かれていく。
「これはー、ディーが出るまでもないわねー。ディーがちょっと攻撃したら死んじゃいそうー」
「だなぁ。しかしこいつ本当に魔族なのか? 見た感じ出来損ないの鬼族って感じの角が生えてはいるが……。もしかしてゴブリンと間違えてないか?」
「ば、ばかな……」
嘘だ、嘘だろこんなの。
何かの間違いだ。
「私もー、訓練を積んだ魔族がこの程度だなんて、ちょっと意外だったけどー。でも、おかげ様で準備は整ったわー」
「おう、ご苦労さん」
「それじゃ行くねぇ。────、──、──闇魔法、フィアー」
「……あ、ああああああぁぁぁぁぁっ!!? 助け、助けてくれぇ!!」
魔法使いが何かを唱えた瞬間、突如として異常な恐怖が襲い掛かってくる。
怖い、怖い怖い怖い怖いっ!!!
あまりの恐怖に、心が折れそうになる。
「うんうん。それじゃぁー、今から私の質問にちゃんと答えてくれたら、助けてあげようかなぁ? 質問、答えれくれるよねぇ?」
「それでいい、それでいいから助けてくれぇ!!」
「うん。ちゃんとこの魔法からは助けるよー」
なんと、質問に答えるだけでこの地獄の恐怖から助かるらしい。
それを聞いた瞬間、俺の心はポッキリと折れたのを感じた。
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