【30話】ひとまず決着


 最後の側近に攻撃をしかけようとすると、それを見ていたアザミさんから待ったが掛かった。


「待って下さいルーケイドさんっ! その男は情報のために一旦生かしておいて下さ──」

「【連撃】一の型」

「なっ!?」


 だが当然の如くアザミさんの制止を無視し、一撃で男の首を跳ねる。

よし、これで俺達の情報が漏洩する可能性は消えたな。


 問題は彼女の命令を無視した事だが、さて、どうしようか。

とりあえず誠意を込めて謝り、問題ない程度に正直に話そう。

くだらない嘘をつくと、以前みたいにすぐにバレる可能性がある。


「ごめんアザミさん。でも、こいつらを生かしておく事はできない、絶対に。本当にごめん」

「…………っ」


 そう言うと、彼女の肩がビクリと震え、唇を噛みしめて俯いてしまった。

よく俯くなこの子、メンタル弱いのだろうか。 


 それからしばらく、お互い無言の状態が続くと、次は彼女の方から切り出してきた。


「……なぜ、ですか。拉致された人がいるのも、放っておけば多くの犠牲者が出るのも分かります。でも、あなた程の実力者なら殺さずに捕まえておく事もできたはずです。それをなぜ……」

「なぜ、かぁ。……敢えて言うとすれば、私情って奴だね。どうしても放っておく事は出来なかったんだ。これは俺も、俺の仲間の二人も同じだよ。今逃げて行ったあの男だって、逃がすつもりは毛頭ない」


 少しの間、再度沈黙が続く。


「…………。……そう、それであんな。そういう事だったんですね。貴方は、怒っているのですね? それも凄く、凄く深く怒っている。私と変わらない程度の歳のあなたが、こんな剣技を身に着けてしまうくらいに」


 それだけ言うと、アザミさんは涙を流し始めた。

え、ちょっと、何も泣く事ないじゃないですか。

誤魔化す事には成功したみたいだけど、なんか酷い勘違いを引き起こした気がするぞ。


 話し合ったおかげで向こうにいる親友達の時間が稼げたのは大きいけど、なぜかもっと事情がこんがらがって来た気がするのは、俺だけだろうか。

いやまあ、この組織に怒っていたのは事実だけど。


 しかしアザミさんの涙は止まることなく流れ続け、地下二階の大広間には彼女のすすり泣く声だけが響いて行く。

正直言って、とても居ずらい。


「…………あー、ええっと。まぁ、こちらの事はそこまで気にしなくていいから。俺達の勝手な事情だし。アザミさんが泣くような事じゃない」


 傍から見たら女の子泣かしているみたいだしね、ちょっとマズいですよこれは。

すると、そんな俺の祈りが届いたのかなんなのか、俯いていたアザミさんがバッと顔を上げた。


「……決めた」

「はっ?」

「私、決めましたっ!! 今日からルーケイドさんについて行きます。ええ、ついて行きますとも。それはもうこれでもかってくらい、付きまとわせて頂きます。断っても無駄ですよ? 私が勝手にやる事ですからね、誰にも止められません。それに同じパーティーに入れてくれなかったら、この聖剣が暴走してルーケイドさんを襲ってしまうかもしれませんね。ああ、困りました」


 ちょっとぉ!?

ストーカーだ、ストーカーが居るよここに!

この国の法律的にそれは大丈夫なのかっ!?


 いや、中世レベルの文明度しかないこの時代に、そんな事に対応する法律があるとも思えない。

やばい、詰んだかもしれない。


「ど、どうして急に……、困るんだけど」

「困っているのは私ですっ! あなたを放っておいたら危なっかしくて見ていられませんっ! どこかで暴走しちゃう前に、私がしっかりと見張っていなくてはいけないんですっ。そう、たとえ食事中だろうとも、どこであろうともっ」


 監視機能付きかよぉおおっ!!

本格的だな!?

とんでもない事を真顔で言えちゃう君に敬意すら感じるよ。


「いや、それは勘弁して欲し──」


 そう言いかけると、突然、フワリとした感触に襲われた。

アザミさんがこちらに倒れて来たのだ。


「あ、あはは……、すみません、ちょっと聖剣の力を使い過ぎだみたいです。いきなりルーケイドさんの匂いが遠ざかったから、嫌な予感がしてやり過ぎてしまいました」

「…………」


 聖剣の力、ね。

なるほど、これがこの剣に備わっている能力か。


 まあ聖剣というくらいだから能力が一つとは限らないけど、それほど強くもないアザミさんがあの身体能力を得るだけの効果があるとしたら、おそらくこれがメインとなる能力になるのだろう。


 これは良い事を聞いた。

ここから察するに、他にも聖剣があったとしても、その力を使うにも代償があり、常にフルパワーで戦えるという物でもない、という事だ。


 まあそれはそうか、そんな無尽蔵に力が使えたら魔族だって太刀打ちできないからね。

こちらの種族は武器の性能を以てして、魔大陸と渡り合えるという事なのだろう。

 

「まあ、なにはともあれ、これで拠点の一つは潰した。ボスの方は残念だったけど、次に尻尾を出したらその時に捉えればいいよ」 

「そうですね。ここであの魔族相手に深追いするわけにもいかないでしょう。ルーケイドさんなら互角に戦えるかもしれませんが、私が居ては足手まといになります」


 まあ、次に尻尾を出す事なんてありえないんだけどね。

洗いざらい情報を吐いてもらって、あとはサクッと首が飛ぶだろうからだ。


 ディーはともかく、サーニャとかはこういうの容赦ないからなぁ。


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