【29話】一網打尽


 組織の拠点に流れ込む冒険者達に対し、少し遅れがちに後を追いかけ、さっそく隠し通路の方へ回れ右をする。

既に戦いは始まっているようで、遠くから「魔王軍に栄光をっ!」とか「魔族の力こそがこの世界に秩序をもたらす」とか、最終決戦かなにかかと勘違いするような会話が飛び交う。


 そもそも魔王軍とか知らないだろここの人間、魔大陸にすら行った事があるか怪しい。

よくもまあ、そんな出鱈目な妄想を信じられるものだ。


「でもまあ、あっちは任せておいても大丈夫そうだな」


 状況的には冒険者がやや有利らしいので、とりあえず返り討ちに会う心配はなさそうだ。

こちらはこちらで、さっさとやる事を終わらせよう。


 そして隠し扉を剣で真っ二つにし地下二階へと歩を進めると、そこには大きな空間が広がっていた。

地下二階にしてはかなり広いし、地上に繋がる隠し通路まであるようだ。

すごい生への執念だ、この用意周到さは前任の魔族の設計思想なんだろうけど、素直に感服する。


 天井には照明の魔道具が贅沢に使われており、部屋の奥には王座のような椅子に座る男が踏ん反り返っている所を見るに、向こうはこの通路を使う気がないようだけどね。

前任の努力を欠片も考慮せず、逃げるそぶりも見せない男になぜ仕事を引き継がせたのか、疑問で仕方がない。


 ちなみに、男の両脇にはそれぞれ三名ずつ護衛の人間達が控えており、貫禄だけは無駄にでている。


「おう。まさかここまで嗅ぎつけて来る人間がいるとは思わなかったぜ。ただまぁ、無駄足になるだろうがな、どうせお前はここで死ぬ」

「なるほど」

「くくくっ、案外素直じゃねぇか。もしかして俺との力量差が分かる口か? いいねぇ、そういう奴は好きだぜ。今ここで泣いて謝れば、俺の部下にしてやってもいいくらいだ」


 男がそう言うと、両脇の人間達がクスクスと冷笑する。

どうやら相当に自信があるようだ。


 しかしこんな茶番にいつまでも付き合っていてもしょうがない。

万が一にも他の冒険者達に合流される前に、さっさと片をつけてしまおう。


「悪いがその気はない。さっさと勝負をつけよう」

「おおっ、実力差が分かっていながら尚も抵抗するか。いやぁ、勿体ねぇ、実に勿体ねぇが……、仕方ないな。おい、お前らでこいつを片付けろ。六対一になるが、俺の実力を見抜くほどの猛者だ。いい訓練くらいにはなるだろう」


 いや、自分の力に自信があるならお前が戦えよ。

そう思いつつも、それはそれで都合がいいかと思い直す。


 なにせ今回、こいつには逃げてもらわなければならないんだからね。

地下に籠っていると発覚した時はどうやって逃がそうか迷ったけど、ちょうどいい。


「あら、ご主人様がそんな事を言うなんて珍しいわぁ。でもいいの? せっかくの優秀な部下を手に入れるチャンスでしょう?」

「いい。俺は優秀な奴が好きだが、それ以上に俺に反抗的な奴が嫌いなんだよ。さっさと片づけろ」

「ふふふ、はぁい」


 側近女の一人が男と会話をし、それが終わると同時に六人がこちらに歩み出す。

敵を前に歩き出すってなんだよ、武器くらい構えろ……。


「……どう見ても素人だな」

「あら? 何か言ったかしら?」

「いいや、何も」


 相手がいくら油断していようとも、こちらがそれに付き合ってあげる理由にはならないので、サクッと倒してしまおう。

地下一階のやつらならまだしも、こいつらは幹部見たいだし情報が洩れたら大変だ。


 そして剣を抜き【連撃】五の型を発動した瞬間──、突然、背後からが現れた。


「大丈夫ですかルーケイドさんっ!? この通路はいったい!?」

「ちょ、おま」

「……ッ!? 聖剣持ちの獣人か!?」


 さっきまで地下一階の通路には誰も居なかったのに、すぐには反応できないレベルの超スピードで駆け寄ってきただと!?

俺の居場所はいずれ獣人の嗅覚で分かると思っていたが、こんな隠し玉があるなんて想定外だ、ボスの男以上にこちらの方が驚いているよ。


 青白く光る聖剣の輝きがだいぶ弱まっているので、恐らく聖剣の力を使ったのだとは思うが、それでも脅威だ。

何度も使えなさそうなのが唯一の救いかもしれない。


 だが俺のそんな困惑をよそに、【連撃】は体を自動でサポートする。


 まず一撃目──。

何の抵抗も見せる事なく、剣速に対応できない側近の首が一つ飛ぶ。


 二撃目──。

少し驚いた眼をした男が、その表情のまま胴を横凪ぎにされ、真っ二つにされる。


 三撃目──。

アザミさんの登場と、俺の予想外の戦闘力に驚いた組織のボスの顔が急に青ざめ、椅子から立ち上がる。

攻撃を受けた側近は二撃目と変わらない表情で真っ二つにされ、そのまま死ぬ。


 四撃目──。

椅子から立ちあがった男が逃げるそぶりを見せる。

ついでに、先ほど男と会話をしていた女の首が吹っ飛んでいく。


 五撃目──。

少しだけ反応できたのか、剣を前にかざして防御態勢を取ろうとするも、間に合わずに斬られる。

そして、そこで【連撃】のサポートは終了し、辺りには五つの死体が散乱した。


 とりあえずサポートが終了したのでその場から飛びのき、再度構え直す。

ボスの男は隠し通路から逃げる体制に入っていて、このまま時間を稼いでいればちゃんと逃げおおせてくれそうだ。

地上で剣を抜いて待つ、俺の達の下にね。


「なぁっ、なっ、なぁっ、何なんだよお前はぁああああっ!?」

「最後に一人残ったか」

「ひぃ、化け物ぉぉおおおっ!!」


 5連撃が終了し、側近であった男の一人が生き残るが、こいつも情報を漏洩する恐れがあるので生かしてはおけない。

という訳で、さっそくトドメを刺しに行く事にする。

覚悟してくれ、側近A。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る