【23話】そして追跡者


 謎の黒装束をその場に放置してきた俺は、あらかたのギルドの調査を終えてディーやサーニャと合流していた。

現在は宿の食堂でテーブルを囲み、どのギルドに所属するのが良いか話し合いを行っている所である。


「という訳で、調査の結果やはり冒険者組合が一番活動しやすそうだ」

「そうなのか? まあ俺は暴れるのが得意だから良いけどよ、ルーとサーニャは魔法も使えるだろ。魔術師組合だかなんだかとかいう、その辺も悪くねえと思うんだが」

「いや、三人がバラバラのギルドに所属するのは避けた方がいい。それぞれのギルドで活動の内容が違う以上、行動予定が合わせられるかは微妙な所だからだ」


 その点、冒険者組合はパーティー単位での行動が推奨されているため、行動の妨げになるような事はなく自由に活動できるだろう。

他にも情報収集を専門とした盗賊組合や、商人組合、魔術師組合、治癒院、色々とあったがどれも一長一短だった。


 もし冒険者組合がどうしてもダメだとなれば、次点では盗賊組合となるのだが、ここの仕事はどうも後ろ暗い仕事も多いと睨んでいる。

受付の人に毒や暗器などの扱いに経験があるかを聞かれた時は、絶対ヤってるだろこの人達と思ったくらいだ。

まあ、毒も魔法も剣もただの手段であり、どう使うかなんて人によるんだけどね。


 暗殺業が表の組織で認められているなんて思えないし。


「そうか。ルーがそう言うなら俺はそこで構わないぜ。盗賊組合も行動に関しては自由みてぇだけど、コソコソするのはどうも苦手だしな」

「私はルーくんが決めた所なら、どこにでもついて行くよー」


 二人の賛同も得られた事に少しほっとする。

正直、盗賊組合は俺がビビっているだけで、条件はそこまで悪く無さそうだったからだ。


 まあ組合の重複登録に関しては可能らしいので、第二候補以降はその都度必要になってからでいいだろう。

無視する必要はどこにもなく、一番自由度の高い所がベストだ。

なにせ、今の俺達はとりあえずの身分証明が必要なだけなのだから。


「よし、それじゃあ方針も決まったし、明日はギルドへ向かおう。登録後はとりあえず冒険者としてのランク上げをして、俺達の地盤を固めるぞ」


 勇者に会うにせよ、情報を集めてこの大陸で自由に動くにせよ、ギルドでの地位向上は必要な仕事の一つだ。

どこの誰とも知れない人間に、お偉いさんが動くわけないし、会う訳がない。


 ちなみにギルドには最高位をSとして、AからEまでの階級が存在する。

Eは登録したての初心者、DからCは中級者、Bは上級者、Aは準英雄級、Sは英雄といった具合らしい。

勇者に関してはEXとかいう測定不能ランクが付与されているらしいが、例外中の例外らしいので考えるだけ無駄だ。


 Sにしたって一つの国家に数名程の超・超・高ランクな訳で、ここまでくれば大国の上級貴族と同等の権力が得られる。

しばらくの目標はこのSランクって事で問題ないだろう。


 そして、その後はしばらく今後の予定を煮詰めて、方針が決まった時点で部屋へと戻り、明日に備えて一旦眠る事になった。


「じゃあ、お休み。こっちは様子をみて適当に寝るよ」

「おー、また明日なぁ。俺はもう寝るぜー」

「ふわぁ……、お休みぃー」


 今回取った宿は下の中といった安宿で、その代わり一人一人個室をとって休む事にしている。


 まあ俺とディーは別に一緒でもよかったんだけど、さすがに年ごろの女の子であるサーニャと同じ部屋という訳にもいかない。

お金が掛かるのも致し方なしといった感じだ。


 それに二人も疲れているだろうし、俺が解決しそこなっているに対処させるのも申し訳ない。

さっさと片づける事にしよう。


 二人が部屋に戻り寝静まった頃を見計らい、二階の窓から飛び降りる。


「……よっと。さて、それじゃあ要件を聞こうかな、追跡者さん」

「……ッ!!」


 飛び降りた先の物陰から、息が詰まったような緊迫した空気が流れだした。

そんなに緊張しなくていいのになぁ、こっちは要件を聞いて話し合いに来ただけなんだから。


 宿で話し合っている時から【感知】で分かっていたんだけど、この追跡者さん、ずっと俺の事を伺ってたんだよね。

黒装束の四人を倒した時には声をかけてこなかったので、もう俺には用が無いと思っていたんだけど、そういう訳ではなかったようだ。


 ただ気になるのは、一目散に逃げ出した時にはついて来る様子がなかったのに、いつの間にかこの宿の場所が割れていた事だ。

いったいどうやって居場所を突き止めたんだろう。


「そんな緊張しなくていいよ、俺はただ追ってきた理由を知りたいだけだからね。今のところ、君に危害を加える気はない。それに気になるだろう? 黒装束の人間が襲ってきた時に隠れていた人が、また追ってきたんだからね」


 すると、物陰に潜んでいた人物がこっそりと姿を現した。

よかった、どうやら説得に成功したようだ。


 出て来た人物には狼と思わしき獣耳に、フサフサのしっぽ。

背中には魔剣と思われる青白く光った大剣を背負っていた。

初めて見るけど、たぶん獣人さんかな?

見た感じ、俺と同じくらいの歳の女の子のようだ。


 初めてこの大陸の獣人さんを見たけど、月明かりに銀の毛並みが照らされててちょっと幻想的だ。

かなりの美少女だな。


「……黒装束の、ですか。そうですか、あの者達をちゃんと人間として扱うのですね。やはり今回の件は魔族崇拝者達の勝手な暴走だったようです」

「……ん?」


 なんだ、魔族崇拝者って?

急に何を言い出してるんだこの子は。

魔族って単語が出て来た瞬間、少しヒヤっとしたぞ。


 だがその俺の沈黙を別の意味に捉えたのか、狼獣人の女の子は謝罪と共に今回の経緯を話し始めた。


「ああ、失礼しました。私はとある事情で、人間の裏切り者である魔族崇拝者を追っている冒険者の、アザミと申します。今回あなたを追跡したのは、その魔族崇拝者があなたを狙って接触してきたためです」

「ほ、ほーん」


 驚きすぎて放心状態だ、ほーんとしか言えない。

つまりアレか、その魔族崇拝者って人達には俺が魔族であると思われていて、しかもその裏組織みたいな人達を追っている冒険者、アザミさんにも魔族だと疑われてた可能性があるってことか!?


 やばいやん!

いや、焦るな。

無表情だ、ポーカーフェイスを意識しろ俺!


 大陸についてから一日目でバレるとかシャレにならないぞぉ!


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