第67話
「空の旅、すごく楽しかったです」
ミナが嬉しそうに言ってくる。俺は何度も経験しているし、随分と慣れてはいるのだが、やはり初めの方は楽しいのだろう。俺もホーセス村で練習をしていた頃は、結構楽しかった。
「喜んでもらえたならよかったよ」
「そういや、俺ら飛行機にも乗ったことなかったからな。空の旅は初体験か」
「うん。こんな感じなのかな、飛行機も」
「飛行機はもっと高くを飛ぶし、竜車みたいに直接外を覗くことは出来ないぞ」
「そっか。でも、外の景色が直に見れるんだったら、こっちの方が楽しいのかもね」
俺達は二日かけて、隣国であるラキュールへと到着した。流石に直行で城に行くわけにはいかないので、国の入口である門の前に着地した。
この国は俺らが向かうヴァンパレス城が国家を支配しており、治安は俺らの国よりも良く、軍隊もかなり強力だ。もしもの時には援軍を要請するようになっている。
俺らの国と違って一つの都市だけで成り立っており、大きさ的には半分にも満たないくらいに小さい。
目の前の巨大な門の前に立つと、音声が流れてきた。
『どちらですか?』
「招待されたレンです。これが招待状です」
ポーチの中に入っていた招待状を取り出し、謎の声がどこから聞こえてくるかわからないので、門の上のほうへと向ける。
「すごいな、スピーカーとカメラがあるぞ。インターホンみたいなものか」
「そうだね。ここって、もしかしたら案外進んでるのかも」
『では、右手にある盤面に当ててください』
すると、シューという音と共に、門の右端に飛び出てきた盤面に招待状を当てる。すると、小さく光って門が開き出した。
「指紋認証みたい」
「やっぱりこの国、進んでるのかもな」
そして、門が開き切ると同時に、小さな人物が門前に立っているのに気付いた。気配は一切感じとれなかった。
「よく来たな、レン坊とその仲間よ」
八重歯が見立つ、銀髪で、聞いたことあるような気もする特徴的な声の少女だった。
♢
少女の案内で、俺がエルの背中に乗り、他のメンバーが竜車に乗って引かれてヴァンパレス城へと向かった。
「それで、あんたは誰なんだ?」
「後で話す、妾のことは案内役とでも思っておれ」
「はいよ」
気配はほとんど感じられない。楽しみの感情が僅かにしか感じ取れないのだ。かなりの猛者だと思うが、その戦闘力は計り知れない。少なくとも、俺では勝てないだろう。
「なんで俺の事レン坊って呼んだんだ? 妙に馴れ馴れしいような気がするんだけど」
「じゃから気にするでない。後で話す」
俺に妙に馴れ馴れしいのも気になるし、他にも一人称が妾だとか、命令形なのも気になる。それに、気配からして強者だ。ただの案内役とは思えないが──
「着いたな」
少女の呟きと共に視線を前に向けると、さっきまでの商店街のような大通りから抜けて、巨大な城が鎮座していた。華美な装飾はないが、黒で統一されたその城の容貌は、異様な迫力があった。
「これがヴァンパレス城か……」
央都の城とは、だいぶ形が違う。詳しくは表しにくいが、央都の城がブロックのような感じだとすると、この城は塔のような感じだ。
「入るがいい。そこでヴィレルから話がある」
少女の命令形に従って、開いた門から中へと入る。中も黒で統一されているが、灯りで外見ほどの圧迫感はない。しかし、魔法でもない見たことない灯りである。
「これ、LEDだよな……」
「なんであるんだろうね……」
ジュンとミナが何か言っているが、俺には理解がしがたい内容だ。多分、"ニホン"の話だろう。
「こっちじゃ」
少女についていき、階段を何階分か上がった頃、一つの巨大な扉の前で止まった。扉には、何匹かの蝙蝠のような装飾が施されている。
「入るがいい」
少女が言うと、扉がひとりでに内側に開き出した。まあ、内側からメイドか誰かが開いているのだろうが。
「ようこそラキュール、並びにヴァンパレス城へ。妾がこの城の城主であり、国の支配者であるヴィレル・ヴァンパリウスじゃ。一週間ぶりじゃの、レン坊」
なんとなく予想していたが、やはりこの少女がヴィレルだったらしい。しかし、一週間ぶり? 一週間前っていえば、確か……
「フェニックス戦の時か」
「思い出したようじゃな」
聞き覚えのある声だと思ったのは、あの時頭の中に響いた声に似てたかららしい。
「でも、レン坊ってのはなんでだ? 俺、ヴィレルさんと面識ないと思うんだけど」
「呼び捨てで構わんぞ。なあに、考えれば分かる」
「もしかして、お父さんとお母さん?」
「ご名答じゃ、エミリーよ」
「そういや、そんなことも言ってたな……」
ヴィレルは俺の両親と同僚だった。確かにそんなことをレイラが言ってた気がする。
「まあ、レン坊とエミリーには積もる話もあるじゃろうが、それは今回の件が片付いてからにしてほしい」
「今回の件……招待状に書いてた、増援とかのことか?」
「そうじゃ。現在このラキュールでは、ある事件が発生しておる。しかし、犯人は特定できていない。その事件の内容が──人間の消滅じゃ」
「……それって、神隠し?」
「そんなところじゃな」
ミナの例えにヴィレルが同意する。神隠しなど俺は信じていないが、人間が唐突に消えるという謎現象のことらしい。俺は断じて信じていないが。
「それに、特徴があるのじゃ。神隠しが起こるのは週に一回、決まった曜日。そして、消えた人数なのじゃが、一週目は八人、二週目は十六人、三週目は二十四人となっているのだ」
「……八の倍数、か」
「そういうことじゃ」
「最初に起こって、何週経ってるんだ?」
「現状ならば三週間じゃ」
つまり、今日までに既に四十八人が消えたということだろうか。
「明日が前回から一週経つのじゃ。じゃから、お主らに犯人を見極め、あわよくば捕まえてほしいのじゃ。場合によっては殺しても構わん」
「……分かった。協力させてもらうよ」
「すまんの、レン坊。お主らが色々あったばかりなのは百も承知じゃ。じゃが、今お主らの戦力が必要なのじゃ。よろしく頼むぞ」
俺を含む全員が頷く。この時はまだ、これから始まる戦いの恐ろしさを、誰も知らなかった。
♢
「レン、大丈夫なの?」
「何がだ」
「今回のクエスト、普通の難易度じゃない気がするんだけど」
「ミフィアも、同感。嫌な予感、する」
「でも、もう受けちゃったから引けないんだよね? じゃあ、お兄ちゃんを信じて戦うしかないよ」
「俺を信じられても困るんだけどな……とにかく、今回は危険なクエストなのは間違いない。敵の正体を掴むのが一番だけど、敵によっては逃げることも視野に入れておこう。この国の人も逃げれば、被害がなくなるかもしれないしな」
「そうだね……うん。私も覚悟は出来た」
「明日に備えて、今日は早めに休もう」
その後、夕飯を食べて風呂に入り、眠りに着いた。何故か部屋は宮薙兄妹と俺のメンバーで分けられたため、俺の部屋は俺とエルの男子組とレイラ、ミフィア、エミの四人一匹になった。まあ、もう慣れたから寝れないなどということはないが。
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