第40話

「いや〜、買った買った」


俺を含むパーティーメンバーはかなりのホクホク顔だった。当然だ。だってめちゃくちゃかかる金額をほぼ半額で買えたんだから。


買ったもの。まずは、レイラのロッド。これは、実際八百万コンする、この店で一番良い素材と最高のエンチャント効果らしい。そして、ミフィアの剣。これも店で一番良い素材とエンチャント効果。素材はどうやら、魔物の巣から採ってきたものらしい。金額は六百万コン。


ミフィアの防具も同じ素材だ。レイラのマントはシルクを黒く染めたもの。ワンピースも白のシルクだ。どちらもエンチャントもの。俺の上着とズボン、ミフィアの服もエンチャントに変えた。


合計、千九百万コンだ。しかし、割引のお陰で一千万ちょっとになったのだ。


「ゔぅぅ……」


まあ当然の如く、少女は泣きそうな顔をしている。そりゃ当然だわな。最高級品を半額レベルで買われたんだから。


「まあそう泣くなよ」


「うるさいですっ!」


あー……こりゃだめだ。


「えーと……そうだ。俺ら冒険者だからさ。必要な素材とかあれば言ってくれよ。無償で提供するからさ」


「……本当ですか?」


「ああ。今回よくしてもらったしな」


「それは……すごく助かります。では、一生こき使わせてもらいますね」


「う、一生か……まあ、それはそれとして……俺らもずっと定住してるわけじゃないからな。そのへんどうするんだ?」


「それなら安心してください。丁度いいものがありますので」


そう言って、少女が奥に入っていった。


「レン、ありがとね。こんないいロッド買ってくれて……」


レイラがえへへ〜、と顔を綻ばせながら言う。


「ミフィアにも、ありがとうございます……すごく、嬉しい、です」


なんだろう。すごくハーレム気分。これはこれで悪くないぞ?


「お待たせ。イチャついてるとこ悪いですけど」


少女が奥から、何かを持って出てきた。それはなにやら、ギルドにある機械と同類なのか、似たような見た目のものだった。大きさ的には小さく、手のひらサイズだろうか。


「それは?」


「なんか、"転生者"の人が作ったらしいです。いつもお世話になってるからって、ギルドがくれたんです。二つしかないですけど、これがあれば遠距離でも使えるっぽいですよ」


少女がその機械の横のボタンを押す。すると、黒かった画面が輝く。ギルドの機械と違って、画面が浮かび上がることは無いが、十分に凄いだろう。


「これを使えば会話も、文面の交換もできるらしいです。えーと確か……スマートフォンっていうらしいです」


「ふむ。スマートフォン……ありがと、貰っておくよ。ここを押せばいいんだよな」


「はい」


少女から受け取った"スマートフォン"とやらの操作法を教わる。



五分ほど説明を聞いて、大体分かった。


「よし、操作法は覚えた」


「早すぎです。私なんか一週間もかかったのに……」


「あはは……」


レイラたちは暇なのか、他の武器や衣類も物色している。まあ、今度来た時に何買うのかくらい、今決めてても問題は無いだろうが。


「よし。これでチャラにできるか?」


「出来るように頑張ってくださいね」


してくれるんじゃないのね。なるように頑張らなきゃいけないのね……


「はいはい……それじゃあ、俺達はそろそろ行くよ。この村では、武器買い揃えたらすぐ出発のつもりだったから」


「そうですか……最後に、自己紹介くらいしておきませんか?」


「それもそうだな。俺はレン、レベルの上がらない魔法剣士だ。それで、このドラゴンがエル」


「私はレイラだよ。……ほら、ミフィアも」


「……ん。ミフィア、です」


「うん。私はウェルミン。よろしくお願いしますね。これからも、武器屋レプラコーンをご贔屓に」


少女改め、ウェルミンの笑顔を受けて、俺達は武器屋レプラコーンを後にした。



武器屋を出て、十分ほど歩いた。ゆっくり歩いているが、七十メートルは軽く離れただろう。


その時だった。


「うあっ、ちょっ……! だから暴れんなって」


再びエルが鳴き声を上げながら俺の頭の上で暴れたのだ。


「ったく……今日のエルなんかおかしい……ぞ……──っ!」


俺は剣を即座に抜いた。そして、左下から斬り上げる。そして、──迫り来る土煙に吹き飛ばされた。


「ぐあっ!?」


「ちょ、レン、大丈夫!?」


後ろに吹き飛んだ俺を、レイラとミフィアが支える。エルは俺が剣を抜いた際に飛び上がっていたようで、無事だ。


「ああ、なんとか……」


未だ立ち込める土煙に、視線を向ける。


「まさか、我が剣を止めるとはな……なかなかの腕を持つものも、いたものだ」


声が聞こえた瞬間、翼で煙を払ったかのように──否、実際に翼で煙を払ったのだ。


そこにいたのは、巨大な剣を右手に持った、ツンツンした濃い紫色の髪の美青年……とでも言い表せばいいだろうか。背中には、悪魔を思い立たせる翼が生えている。


「誰だ、お前……!」


「我か? 我は魔王軍の一員、魔族のウィンブルだ。最近暇でなぁ、いい遊び相手を探しに、わざわざここまで飛んできたのさ」


魔王軍の、一員。奴はそう言った。


魔王軍。ここ数年、動きが収まっていたはずだ。なのに、今になって動き出したのか? いや、こいつは遊びだと言った。つまり、こいつが独断でここまで来たのか? いや、それならもっと前に来ているはずだ。なら、何故今、央都にも、他の村にも囲まれたこの武器の村、プラコールに来るのだ?


「魔王軍が動き出したのか──そう思っているようだな」


心を見透かされた。背中を冷や汗が伝う。間違いなく、緊張だろう。奴が放つ圧迫感は、ブラックバックの比じゃない。死すら思わせる、凶悪な圧力だ。


「ああ、そうだ。遊びに今出たのは我が独断だが、この村に来たのは、魔王様の意思あってこそだ」


今の言葉が指し示すこと──魔王軍は、動き出している。


「せっかくいい相手が見つかったんだ……闘いの場を作るとしよう」


すると、ウィンブルと名乗ったそいつは、地面に剣を突き刺した。すると、俺らの間を風が吹き抜け、一瞬の浮遊感の後に地面に足が着く。一瞬ふらつくが、すぐに体勢を整える。


「何をした!」


「周りを見れば分かるだろう?」


ウィンブルのニヤついた顔から視線をずらし、周囲を見渡す。そこに広がっていたのは、さっきまでの賑やかな商店の並んだ大通りではなく、底が平面なクレーターだった。目測、半径二十メートル近い円形だ。


「お前……周りの家は……そこにいた人達はどこにやったっ!?」


「さあな。消えたんじゃないのか、跡形もなく」


歯が割れそうなほど、強く食いしばる。目の前が真っ赤になって、ウィンブルしか視界に入らなくなる。周りが、何も見えなくなる。


跡形もなく消えた。死んだ、と捉えるものなのだろう。こいつは、ただ自分が闘いたいがために、何百人もの命を、一瞬で蔑ろにした。そして、俺はそれを止めれなかった。……いや、さっきの突進の時点で、多くの人が死んでいただろう。


「許さない……!」


今まで、多くの人の死を見てきた。しかし、こんな残酷な最後はなかった。跡形もない。こんなの、無慈悲にも程がある。


「てめぇは殺すっ!」


俺は"ルミナスカリバー"を発動し、ウィンブルへと地面を蹴った。

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