#9 堕天使の翼



 外からの攻撃だと!?


「クソが! 二人共、窓から外に出るぞ!」


 何処のどいつか知らねーが……オレに喧嘩売るとは上等じゃねーか!


 オレは窓から飛び出してそのまま転がり岩陰に隠れ空を見上げる。何か飛んでやがるな。一、二……クソが……三体か……

 ロッジを盾に屈めと二人に指示を出す。こうなりゃ殺っちまうしかねー!


 漆黒の粒子砲……オレの作り出したこのゲーム内最強であろうスキルで。

 無数に展開した漆黒の魔法陣を黙認した奴等はオレから一旦距離を置いた。と、思った矢先、一体が急降下してオレの隠れた岩を破壊する。


「なっ……は、げ鷲……!?」


 砕けた岩と共に吹き飛ばされたオレは魔法陣を盾に体勢を整える。しかし何だあのハゲ鷲は。爪の一撃で岩を砕く鳥とか見たことねーぞ。

 いや、ここは異世界だ……それくらいのことは当たり前ってか! っ、来やがった!

 お、女の声、だと!?


「ヌガァァァ!!!! 姫を……返せぇっ!」


 なんてデタラメな速さだっ! ガードだ! とりあえずガード! クソが!

 速いっ! 何度も繰り返して攻撃してくるか。だがこのシールドは破壊出来ねーみたいだな! なら!


「調子に、乗るなぁっ堕ちろぉーー!!」


 一発! 二発! あー、全弾発射だクソがぁ!


 オレは魔法陣全てから漆黒の粒子砲を放つ! それを器用にかわしながら距離を詰めてきやがる! しかし、いつまで続くか。


『クガァッ!!』

「うわっ! ア、アルマゲドン!?」


 ヒット! 体勢崩したな! 終わりだ!


 オレはそのまま追撃を仕掛けてハゲ鷲を撃ち落とした。地面を滑り砂埃を立てるハゲ鷲から振り落とされた女がオレのすぐ目の前に転がって止まる。

 平べったく潰されたカエルみたいな格好で無様に地面を舐めるソイツに、オレは言った。


「何者だ? そのまま仰向けになって面を見せやがれ! おら早くしろや!」


「ひっ……」


 大声に身体を反応させた女は言われた通りに仰向けの状態になる。濃いめのグレーの長い髪に琥珀色の瞳、目つきは所謂ジト目系、そして、


「……ガキじゃねーか……」


「ガキとはなんだ! こ、この誘拐犯!」


「あぁん?」

「ひぃっ!」


 クソガキが地面で震えやがって。すると隠れていた二人がオレの元へ走ってくる。


「ネロさま強いのですわ!」

「怪我はないネロ? 大丈夫なの?」


「なんともねーよ。気をつけろ、まだ二人いるぞ。」


「……ひ、ひめ、さま……うぅっ助けて……」


 地面のガキが情けない声で魔王の娘に言った。それを見た魔王の娘がふざけた事をぬかす。


「ネロ? 可哀想だからもうやめるし。ほら、泣いてるし。」


「馬鹿かお前は? コイツはオレ達を襲って来たんだぞ? このまま殺すに決まってるだろーが! 今は後の二人の出方を見てるだけだ。

 あわよくばコイツを盾に出来るからな。」


「た、たた、盾っ……」ガクブル……


 しかし姫様か。コイツら、魔界の住人といったところか。魔王の帰りが遅いことにやっと気付いたってか。

 そんな考えを巡らせていたその時だった。


 残りの二人がオレ達の前に姿を現し、地上へ降り立った。長身の黒づくめの男とやけに際どい服装の紫の髪と瞳をもつ女。どちらも龍に乗っている。

 そのうちの男が一歩前に出る。武器は手にしていないようだな。


「我々の負けだ。……悪いが、その子を解放してはくれないだろうか。」


 落ち着いた表情でヌケヌケと。黒づくめの鎧のような服に真っ赤な鋭い眼、白と黒の混じった短髪。

 身長は軽く二メートルはある、か?

 しかし、


「解放? そっちから仕掛けておいて解放だと? 馬鹿かお前は。」


「我々は、姫を捜していた。そこの銀髪の少女が我ら魔界の王、ルシュガル様の娘、ミアレア様だ。

 何故、貴様のような人間と行動を共にしている。」


「色々あってな。」


 コイツ等は確かにこの魔王の娘の仲間、みたいだな。なら、引き渡してやれば……

 だが……待てよ……コイツ等はまだ魔王の死を知らない? それとも知っているのか?

 もしこのガキを返したら、次に魔王になるのはコイツかも知れないんじゃ……


 それはつまり、ゴッドゲームのクリア条件が、この魔王の娘を殺す事に変わるって事だ。


「我々、あまり手荒な真似はしたくない。貴様には姫は必要ないと思うのだが。

 しかし我らには魔界の王となる人材が必要不可欠だ。魔王亡き今、だからこそ!」


 ち、やはりそうか……コイツ等は魔王の死を知っている。その上でこのガキを捜し出して次の魔王に仕立て上げるつもりだ。

 つまり、あのピエロと同じ?


「お前等、何者だよ……」


「我々は魔界軍を率いる四魔人将だ。我はその一人、【ヴィネ】だ。そして、」


 男の隣にいる女がこう続く。


「【セパル】よ。可愛い坊や?」


 すると目の前でひしゃげていたチビが起き上がり、腰に手を当て小さな胸を張りやがる。


「そしてボクが【ムルムル】! あそこで伸びてる鳥が相棒のアルマゲドン!」



 自己紹介されても困るんだが。


「四魔人将、っていう割に三人か?」


 その言葉に目の前のムルムルとか言うチビが答える。


「後一人は現在行方不明。大事な仲間なんだけど魔王様の死を告げに来た後、姿を見てない。」


 道化師のことか? 多分、そうだろうな。



「姫、魔界に帰りましょう。このヴィネがお送りします。ルシュガル様の事は……どう言葉を繕っても……誠に残念です……

 我々は…今後の事を考えねばなりません。その席には姫、貴女が必要です。さ、こちらへ……」



 どうする、魔王の娘……?


 その時だった。魔王の娘の小さな手が、オレの服を掴み震えた。


「私……魔王の娘、なんか、じゃ……ないし! 帰りたい、シロのところに帰りたい! ネロ……お願い助けて……!」


 服を掴む力が一層強くなる。オレはガキの顔を覗く。ガキはオレの目を真っ直ぐに見つめて、助けろと懇願しやがる。


「……ネロさま?」


「クソがぁ! 二人共掴まれ! コイツ等蹴散らして逃げるぞ!」

「ネロ! わ、わかったし!」

「ネロさま! ラジャーですの!」



「悪いなお前ら……お姫様は帰りたくないってよ! 命までは取らねー! だが、少しの間、眠ってろや! 全員まとめてかかって来い!」



 オレは空を埋め尽くす最大量の魔法陣を展開して背中には漆黒の翼を展開する。そうだ、あの白いやつのを見てチートツールで作ったスキルだ。


 名付けるなら……そうだな、


 堕天使の翼ってところか!


 

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