#34 自転車の彼
王都でフリルの服を購入した俺達は時間まで作戦を練りながら腹ごしらえをしていた。
フリルにはミアと似たようなワンピースを買ってあげた。髪の色に合わせて赤っぽい綺麗なオレンジ色のワンピースだ。
ま、すぐに蒸発してしまうのだが。
それはそうと、
「これはまた食費が増えそうだな。」
まふもふまふもふ!
まふもふまふもふっ!
凄まじい勢いで、まふもふバーガーを頬張るのはミアとフリルだ。二人共この勝負、一歩も譲る気はないようだ。そもそも、勝負ではなく食事だが。
次々と消滅していくハンバーガー達。ミアはいつものように包装紙を綺麗に畳みながらも一歩リードといったところだ。
ここは先輩、もとい姉の意地だな。
フリルもフリルで必死に追い付こうと奮闘している。勿論、包装紙を畳む余裕などなく、放り投げたゴミは俺とバスターの頭にはらりと乗っかる始末だ。やれやれと俺達も腹ごしらえをしていると、ミルクがフロントガラスの向こう側を指差した。
「シロさまシロさまっ! あ、あれを見て下さいっ!」
パタつく妖精の指さす方を見てみると、何やら凄い勢いで奴隷市場に近付いていく影が見えた。
ソレは砂埃をたてながらまだ営業中の奴隷市場へ迫っていく。
「あれは……自転車、か?」
よく見ると、ソレは自転車に乗った若い男のようだ。目を凝らすと、肩に妖精らしき生き物が。
自転車、自転車……そうか。確かオネエの神官の所で見たな。あの時いたプレイヤーの一人か。
俺が白、ユウヒちゃんが赤で、あのネロの奴が黒のプレイヤーだっけ。で、あと一人が……
「シロさま! あれは青のプレイヤーと見て間違いないと思われます! 見て下さい、肩にガイド妖精がっ! あのお団子頭は間違いありません!」
お団子頭まで見えるのか。ミルクって視力いいんだな。それはそうと、あの男、どういうつもりなんだろうか。まさか奴隷でも買いに来たのか?
いや、俺の第一印象的ではそんな奴とは思えないんだが。なら、何であれだけのチャリンコダッシュを?
そんな事を考えていると、青のプレイヤーが攻撃魔法を発動させたのが見えた。見たところ水属性の遠距離攻撃魔法といったところか。
俺のフォトンみたいに片手で撃てるタイプのスキルだ。青はそれを数発撃ち門番を牽制する。
髭面の門番二人は慌てて応援を呼び青のプレイヤーを迎え撃つ体制をとる。まぁ、そりゃそうだろうな。いきなり攻撃されたら迎撃されるのは分かり切った事だ。
「あっ! 危ないし!」
門番と警備兵達は一斉に自転車目掛けて銃を撃つ。火縄銃のような少し古めかしいタイプの銃口から煙が上がると同時に、銃声が夜の空に響き渡る。
流石にあれだけの銃弾の雨をかわす事は不可能だ。……馬鹿な事を。
助けてやりたいが、これはどう考えても間に合わない。俺はミアに目を閉じろと促し、フリルの目を片手で覆う。あまり凄惨な場面を見るとトラウマになるかも知れないからだ。
しかし、
「シロッち! 見ろ!」
「なっ、嘘だろ!? 避けた? 全弾回避?」
あろう事か、紺の白ラインが入ったジャージにピチッとした所謂ピチTを着た自転車の彼は、その銃弾の雨を器用にかわしながら距離を詰めていく。
あり得ない、避けられる訳がない。
そして遂に門前まで辿り着いた青のプレイヤーは自転車を停めてメニューを開く動作を見せた。
その瞬間、地面から間欠泉のようなものが噴き上がり、門番共々、警備兵達を一掃する。
あれは水属性の範囲魔法か?
激しく宙を舞い、あえなく落下した警備兵達は全員気絶してしまったようだ。勿論、憎たらしい門番達も情けない格好で伸びている。
「あ、ありゃ何者だ? シロッちの仲間か?」
「いや、仲間かどうかはわからない。だが、奴隷市場に敵対しているのは間違いなさそうだな。」
するとミアはゆっくりと目を開けて言った。
「シロ、もしかしてこれってチャンスかも。」
「……チャンスか。確かに今なら、青のプレイヤーが警備を引きつけて混乱している今なら。
逆にアイツのせいで夜に侵入する作戦がめちゃくちゃだ。よし、バスター、皆んな! この混乱に便乗して俺達も突入する! こうなったらやるしかない!」
「わかったぜ、シロッち!」
「フリル、頑張る!」
「気合い入ったフリルもかわゆし! 私だって頑張るんだし!」
予定変更、これより奴隷市場へ潜入、ナタリアの救出作戦を決行する。
ミルクは頭の水泳帽の位置を整え、俺の胸ポケットへ。
「さぁ、行きましょうっ!」
車を降りた俺はビジネスバッグにヨロシク号を保管して、大天使の翼を発動させた。
フリルもフェニックス化して身体を低くする。
ミアとバスターはその背中に乗りしっかりと掴まった。
「フリルッち、重くないか?」
「だいじょーぶです! しっかり掴まっていてくださいね~? 飛びますよ~!」
フリルは大きな翼を広げる。ミアはギュッと身体を小さくして深呼吸をする。これから空に飛ぶわけだから、高所恐怖症のミアには堪えるだろう。
こうして俺達は予定より早く奴隷市場へ潜入することとなった。成り行きで正面突破みたいになってしまったが。
こうなった以上、やるだけやってみるしかないだろう。後のことは後で考えよう。
ここ、異世界だしな。
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