#29 木に実った金髪ロリ



 夜も深まりつつある中、広大な大地を走り抜けるのはハイビーム&アクセルベタ踏みで絶賛爆走中の相棒、軽バンのヨロシク号だ。

 悪路を物ともせず走り抜ける姿には感心せずにはいられない。



 荒野を抜け、暫く走るとたちまち視界が悪くなってきた。山道に差し掛かってからというものの霧が凄くてまともに進めそうにない。


 ヘッドライトに照らされるのは目の前にたちこめる真っ白な霧だけ、か。これは朝になって霧が晴れるのを待つほかなさそうだ。


 そう判断した俺は車を停める。


「すまん、今夜はここで休もう。今、食べるものを出すから待っててくれ。」


「シロッち、悪いな。無理させちまって。」


「そんな顔するなって。折角こうしてまた会えたんだし、これでナタリアを見捨てるなんて出来るわけないだろ?」


 俺がまふもふバーガーを差し出すとバスターはそれを受け取り包装紙を開ける。

 ミルクにはポテトと小さく千切ったハンバーガーを、ミアには大量のまふもふバーガーを取り出してあげた。ミアは嬉しそうに目を輝かせて綺麗に包装紙をあけ、一口、まふもふバーガーを口に含む。


「はむ。うん、美味し!」


「お前ほんと好きだな、ハンバーガー。」


 まふもふまふもふ!


「ん、うん! だってこんなの食べた事なかったし! あ、でも記憶がないだけかも知れないけど。」


 お姫様にはジャンクフードは珍しいのかな。

 魔王の城には専属のシェフとかいたのかもな。

 そりゃ、こんな下町の味を口にした記憶はないだろう。記憶喪失云々ではなく、最初から知らないだけ、それが正解だろう。



 簡単な食事を済ませた俺達は少しばかり仮眠をとった。どれくらいの時間が過ぎたのか、ふと目を覚ますと霧は晴れ、空も明るくなっていた。


 どうやら朝まで眠ってしまったようだな。



「ふわぁ~あ、おはよ、シロ。」


 目を擦りながら起きてきたのはミアだ。いつも思うがミアは意外と早起きだ。いつも宿でも俺より先に起きては一丁前に髪なんかといてる。

 ま、女の子だし、それが普通なのかも。


 ミアが目覚めたことによりベストポジションからずれ落ちたミルクは窒息寸前で何とか這い上がり、スポン! と谷間から飛び出しては忙しなく車内を飛び回る。で、特等席のダッシュボード上でピンと伸びをして羽をパタッと羽ばたかせた。


 うん、忙しない。


「おはようございますっ! シロさま! ミア!今日も張り切って行きましょうっ!」


 寝起きからこのテンション……


 その甲高い声で目を覚ましたのは後部座席で豪快に横になっていたバスター。

 バスターは大きな欠伸をしながら両手をグッとあげ身体を伸ばす。頭のケモ耳もピンと立ち、尻尾もプルプルしている。

 よく見るとちょっと面白いな。


「ふあぁ! よく寝たぜ~! お、シロッち、ミアッちにミルクッち! 今日も張り切って行こうぜ!」


 こっちにも似たようなのがいたか。


「ねぇ、シロ?」


 ミアのこの言葉の後、食事をせがまれたのはもはや言うまでもないだろう。




 ……


 しっかり朝食を済ませた俺達は再び王都へ向けて車を走らせる。山道を登っては降りてを繰り返し、かれこれ二時間程は走った。

 すると、俺の視界に真っ赤な果実が実った木が映る。……アポーじゃないか。


 これはラッキーだ。この山にもアポーゾーンがあったんだな。少し摘んでくかな。



 ……


「シロッちのそのバッグ、いったいどうなってんだ? いくらでも物が入るじゃないかよ!?

 そ、そういえばこの前だってそのバッグからヨロシク号を取り出してたし!」


「いや、これは説明すると色々面倒でな。とりあえず凄い物とだけ認識していてくれ。

 それはそうと、どうだ? ミア、とれそうか?」


 向こう側でアポーの果実を摘んでいるミアは大きな瞳をパチクリさせながら呆然と立ち尽くして何かを見上げている。

 因みにミルクは谷間に収納されている。

 そんなミアの視線の先に目をやると、俺の視界にも妙なものが映り込んだ。


「おっ、シロッち! 変わった果実があるぜ?」


「いや、これは果実っていうか女の子じゃね?」


 木に女の子が実っていた。



 なんだ、このデジャヴは。


 まさにあの時と同じパターンだ。木の枝に女の子が引っかかっている。その上、高さもあの時と同じで極めて低い位置。


 金色に輝く綺麗なロングヘアは先の方になるにつれてピョンと内に跳ねている。

 まるで絵に描いたような大きな瞳とまつ毛、その色も金色。正直、見ているだけで眩しい。


 そして直感で感じ取れるのが、

 この幼女がただの幼女ではないということ。


 しかしだ、

 それでも助けてあげた方がいいよな。


 俺は幼女の両脇を掴む。

 すると抵抗するわけでもなく少女はピクンと身体を震わせ、頬を赤らめて口元を緩めた。


 気にせずサクッと枝から降ろしてやると、幼女はピョンと跳ね、クルンと回転してみせた。

 真っ黒な丈の短いワンピースがフワリとなびき透き通るような白い太ももが覗く。


 幼女はその小さな、小さ~な胸を張り俺を上目遣いで見上げては不敵な笑みを浮かべる。


「ふむ、ありがとなのじゃ。自分で降りようと思えば降りれたが、やはり殿方に降ろしてもらう方が気分も良いというものじゃ。ご苦労じゃったな。礼を言うぞ。」


 か、変わった言葉遣いだな。というか、降りれたなら降りろよな。


「ん? どうしたのじゃ? 儂の顔に何かついておるのかの? あまり幼気な幼女の顔をジロジロ見ていると、変質者と間違われるぞ?」


「あ、いやごめん……何でもないんだが。それよりお前、なんで木に引っかかってたんだ?」


 金髪の幼女は少し驚いた表情で、


「お、お前ときたか……ま、まぁ良い。儂は寛大じゃからの。何故かと聞かれるとじゃな。ちょっと色々あっての、うむ。

 それはそうと、お前は儂を命の危機から救ってくれた。本来なら何かお礼をせねばならんが、あいにく今は持ち合わせがないのじゃ。じゃから、

 代わりと言っては何じゃが、儂のことを好きにしても良い権利をやろう。

 さ、好きなように愛でるが良い。」


 金髪幼女は目を閉じ両手を後ろに組む。そして口元を緩めながら頬を赤らめている。


 今、俺の目の前に幼女の皮を被った変態がいる。好きに愛でろとか普通におかしいだろ。


「いや、お礼とかいいよ。」


「何じゃ、つまらんの。まぁ、今ので儂の身体に触ろうものなら、お前を一生軽蔑していたがな。」


 幼女はやけに艶っぽく口元を緩め、俺の胸ポケットをなぞるように細く白い指先を走らせる。


「それでは儂は行くぞ。命の恩人様よ。」


 幼女はそう言って、テクテクと小さな歩幅で森の奥へ去ってしまった。

 その去り際に幼女はこう言い残す。


「儂はいつでもお前達を見ておるからの。くれぐれも忘れるでないぞ? 命の恩人様よ。」


 不思議な幼女だった。最後の言葉はどういう意味が込められていたのだろうか。


 俺が考えに耽っているとミアが谷間に挟まった妖精を指差しながら言った。


「シロ、見てみて! ミルク寝てるし!」


「マジか。緊張感のないガイドだな。起こしておいてくれるかミア。地図を出してもらわないと困るしな。」


「うん、わかったし。えいっ!」

「あぶばばっ!?」


 ミアは眠るミルクの首根っこを掴み取り出して、逆さまにして再び谷へと落とした。

 あれは強烈だ、窒息必至の大技だわ……


「ぁ……」「あぶべぶっ!」


 何だろう……

 ミアから溢れる声がやけに色っぽいのだが。


「んっ……」「びぶればっ!?」


 いつも思うが、ミルクが暴れている時って、もしかして気持ちいい、のか?



「はぁんっ」 (ここから脳内再生)


 いやいや俺よ。いつから俺はロリコンになったのだ。ミアはまだ子供だろーが。


「ミルクっ、だめっそこはっ……」(絶賛妄想中)


 ミアは子供だ。ミアは子供だ。

 いやしかし、アポーが……


「シロッち? どったの?」


「あ、何でもない。」


 良かった。バスターのおかげで帰って来れた。



 流石のミルクもこれには起きざるを得ない。命からがら飛び出したミルクは俺の肩に退避して息を整えるように大きく深呼吸する。


「よし起きたな。皆んな、車に乗ってくれ。

 そろそろ出発する。今日の内に山を越えて、明日には王都近郊を目指す。」


 俺が言うと、皆は順にヨロシク号へ乗り込んで行く。ミルクはダッシュボードの上でタブレットを取り出す。


「あぅ、頭がボーッとします。ふぅ、シロさま、地図の読み込み完了しました~」


「おっけい、なら行きますか!」


 ……

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