第382幕 予想外の魔方陣
エンデハルト王が言っていた場所――兵士たちの訓練所には、どう考えてもおかしいと思えるほどの兵士たちが配置されていた。
「これは……一筋縄ではいきませんね」
「そうだな。だがこれで逆に確証が持てた」
「ええ。ここに間違いなく……ロンギルス皇帝はいます」
『それも』だろうな。もっと他に言えば……ここにいる兵士たちは外よりも内側の事に関して意識を向けているように見える。まるで何かを逃がすまいとしているかのような……。
だからこそ、ここには何かが起こっている。それも、今一番重要な何かが。ロンギルス皇帝やヘルガがそこにいると確信を得るには、それだけでも十分だ。
「さて、どうしようか」
俺は悩みながらこの訓練所の内部にどういう風に侵入しようかと考える事になった。
まずは敵兵の量。これだけ多いと、『隠蔽』の魔方陣もそれ相応の魔力を消耗することになる。ロンギルス皇帝との一戦が控えている以上、それは避けたい。
それに『隠蔽』の魔方陣で姿を隠している以上、他の魔方陣は一切使えない。当然、発見された時のタイミングによっては命取りになりかねないだろう。
かといって魔方陣を使わずに潜入するとなると……技術や能力のない俺たちではあっさりと見つかるだろう。気配や殺気を察知するのは得意だが、魔方陣無しにそれらを消すことは出来ない。それが俺の限界とも言えるがな。
「魔方陣を使って潜入するしかないのでは……?」
心配するような声で窺うような視線をルッセルは俺の意見を待っているようだった。
「……仕方あるまい。『隠蔽』の魔方陣を使おう」
――結局、俺が取ったのは最終手段だった。どうあがいてもこれで切り抜けるしか思いつかなかったのだ。
「でしたらその魔方陣、僕が使います」
意気込んで宣言してきたルッセルに、俺は思わず目を見開いてしまった。ルッセルに使わせるなんて、考えが至らなかった。彼はどちらかというと騒がしい部類に入るからなぁ……。
『隠蔽』を使う部類の魔人ではないし、想像もつかない。
「大丈夫か?」
「これくらい平気ですよ。お任せください!」
どんと胸を叩いて誇らしげにするルッセルに少し不安を感じるが、なにかあったら俺が補助に回ればいいか。
「よし。頼むぞ、ルッセル」
「はい!」
ルッセルは『隠蔽』の魔方陣を構築して……かなりの魔力を込めて発動させた。気持ちはわかるが、ちょっと魔力を込めすぎだな。確かにその分性能は上がるが、必要以上に消費すると後々大変になる。
「ルッセル、少し抑えろ」
「ですが……」
「今のままの勢いでは、後の戦いまで持たない。気持ちは嬉しいが、自分が戦い、生き残れるようにするんだ」
「こんな状況でも僕の事を考えてくださるなんて……感動です!」
一々大げさすぎる反応だが、まあいいか。ともかくだ。ルッセルの魔方陣の発動を確認した俺は、静かに動き出した。『隠蔽』の魔方陣を使ってしまった以上、迅速に動かないといけないからな。
――
訓練所……と言っても大きな建物がいくつか存在していた。どれも同じような建物で、これといって目立つような特徴はない。
「グレリア様。どこから向かいますか?」
「……手前の――いや、中央にある建物から向かおう」
最初は一番近い建物から向かおうと思っていたのだけれど……なんとなく俺は中央の方に向うことにした。勘……それは曖昧なものだけれど、それでも信じる事にした。
中に入ると、そこは質素――というか殺風景といった方が良いような場所だった。
いくつかの扉と階段や左右に分かれている道がある。ぱっと見た感じでは兵士はいないようで、外の様相とは全く逆と言ってもいい。
「なんだか、思ったよりも随分と静かですね」
「気を付けろよ。誰がどういう風に見ているかわからないんだからな」
予想以上に敵がいないことに少し気が緩んだようなルッセルは、慌てて気を引き締めていた。
あまりの兵士の少なさに、これなら手分けをして探した方が良いかもしれない……そんな風にも思えてくる。
「極力二人で行動するぞ。出来る限り魔方陣を維持してくれ。魔力切れだけは注意して、な」
「任せてください!」
流石に気を使ったのか、小声で自信満々に頷いてくれたルッセルを横目に、訓練所の中の探索を始めた。最初、分かれている部屋は宿舎の代わりなのかとも思ったが、武器が収められていたり、事務作業をする場所だったり……資料室だったりと、想像とは大分違う場所だった。
ロンギルス皇帝の事が無ければ、少しは見てみたいが……そんな時間が無いことぐらいはわかっている。
「グレリア様、奥の方を見てください」
通路の奥の方を偵察していたルッセルに言われた通り、そちらの方に向かって見ると……何の変哲もない扉がそこにあった。
……いや、少し様子が違う。よく見ると小さな魔方陣が刻まれている。『結界』『強』の二文字だ。
「馬鹿な……」
思わず何度も見直したが、それが余計にこの事実を再認識させる。
これは……間違いなく
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