第377幕 スラヴァグラード潜入
地下都市への道は結構あっさり見つかった。位置的にアリッカルで探した時と全く同じだったからな。地下へと続く道をまっすぐ進み、地の底よりも更に奥深くを目指す道中、何か仕掛けてくるかと思ったのだけれど……そんな事は全くなく、ただひたすら暗い道を歩く羽目になってしまった。
「グレリア様、まだつかないんですか?」
「……まだだな」
最初は好奇心に任せてきょろきょろしていたルッセルだったが、次第に暗い道に飽きてきたようで、少しうんざりとしたような口調で聞いてきた。
「まだですか?」
「ああ、まだ掛かるな」
少なくともこれで四度目くらいになるだろうか。ルッセルの言葉に段々とうんざりしながらも、返事をすると、ルッセルは後ろの方でどこかしょんぼりしたような声を上げていた。
「まだですかね?」
「……まだだ!」
薄暗く、冥界に続いているんじゃないかというほどの暗い道。いつまで続くのかわからない上に、時間の感覚すらわからなくなってきて……精神的にかなりクルものがある。それに加えてこのルッセルの存在だ。
定期的に何度も『まだですか?』と呪文のように呟いてくるこの男は、いい加減鬱陶しい。普段ならこんなことで怒りはしない。だけどこうも問いかけてくると……な。
早くも一緒に連れて行く人選を間違えたか? と後悔しそうにもなるが、考えても仕方ない。まずはこの都下通路を一刻も早く抜ける事。それに集中して、ルッセルの問いかけには答えないようにした。
――
どれくらいの時間が経っただろうか? 最初は何度も聞いてきていたルッセルも、途中から疲れたようで『まだつかないのか?』 という催促の声が上がることはなかった。その一点についてはこの馬鹿のように長い道に感謝するところもあるけれど……いい加減、俺の方も嫌になってきた。そんな時だ。
「……ルッセル。見えるか?」
「ええ。ようやく……出口ですね」
やがて少しずつ出口の方に光が差し込んでいるのがわかると、言いようのない感動に俺たちは襲われることになった。やはり、何度通ってもこの暗闇の道をひたすら進んでいくってのは慣れないものだ。
「ルッセル。ここを抜ければいよいよ本番だぞ。覚悟はいいな」
「……ええ。出来てます。それに……一刻も早くここから脱出したいです」
ルッセルの言葉の端には切実な思いが宿っていた。結局帰り道もここを通る事になるんだろうが……それは今ここでいう必要もないと思って、黙っておくことにした。
――
「ここが……地下都市スラヴァグラード」
長く辛い薄暗い場所を抜けて飛び込んできた景色に、ルッセルは心を奪われたかのように驚嘆の声を上げて感動していた。出来ればもう少し余韻に浸らせてあげたかったが、俺たちがここに来たのはロンギルス皇帝を殺し、戦争を終わらせるためだ。あまり不必要なことはするべきではない。
「ルッセル。わかってると思うが……」
「ええ。浮かれないように、ですね。わかってますよ」
わかってるならそのそわそわした様子で辺りを見回すのはやめてほしい。田舎からやってきた若者状態なのに、余計に目立ってしまう。本当にわかってるんだろうか?
「それじゃあ、ここで一旦別れるという事でいいですか?」
「ああ。一日……いや、半日で合流しよう。場所はここでいいな?」
「はい!」
この返事だけは元気が良いのはどうにかしてもらえないだろうか。仕方ない。これでも実力は銀狼騎士団の中でもかなり上の方だからな。強いのはいいのだけれど、その分癖が強い。正直な話、俺にこの男を完全に制御出来るような気がしない。
とはいえ、俺の事を尊敬してくれているみたいだし、きちんと言えばある程度言うことを聞いてくれる。今はそれで良しとするしかない。
ルッセルと別れた俺は、ひとまず服を着替え、適当な場所を歩き回る。情報収集をするにしても、誰かに聞き込みをして下手に怪しまれる訳にはいかない。地図を買って、それを見ながら周囲の地形や建物を実際に確かめてみるのが一番だろう。
アリッカルでもそうだったが、地下都市ってのは大体広い。迷う者も多いからか、地図を持ち歩く者もいる程だ。本屋に行けば他の地下都市の地図も売ってるくらいだ。あの時の俺は、スラヴァグラードに行くことなんて頭になかったからな……当然、ここの地図は持っていない。ヘルガの『空間』の魔方陣があったなら、ちょっと行って買ってくるという事も出来ただろうけどな。
なんにせよ、まずはこの都市で最も重要な施設を知るのが先だろう。その後は……ルッセルと合流して情報交換。動くのはその後。機械や魔方陣を駆使して地上の太陽や月を可能な限り再現しているから……丁度夜辺りになるか。
「はぁ……あまり考えたくはないが……少し憂鬱になるな」
俺が心配しているのは、他でもないルッセルの事だ。彼本人、というよりも……彼が下手なことをして俺たちが潜入した事がばれたりしないか……ということだ。
こればっかりは彼の事を信じるしかない……のだけれど、潜入前にも関わらず元気な声で返事をしてきたルッセルの事を思い出すと、不安が募ってくる。仕方がない。いくら何を思ってもどうしようもないし、俺も行動に移すとしよう。
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