第345幕 奪われた力
スパルナに魔方陣による治癒を施した俺は、手に拘束具を嵌められ、足は最低限動かすことが出来るような状態で部屋へと兵士によって連行された。
何故かグラムレーヴァは回収されなかったけど……多分、俺が暴れてもどうとでもなるという自信の現れか……次に攻撃したら、今度こそスパルナは殺される。それがわかっているからこその俺への信用かはわからない。だけど、兄貴から託されたこの剣を手放さないで良いのはありがたかった。
「スパルナの奴……大丈夫かな」
捕虜にしては普通の客人とかが使ってそうな部屋で、外に出ない限りはある程度不自由しないようになっている。軽く幽閉された感じだな。
部屋に入る時に拘束が解かれたから動くことに制限はないけど……相変わらずスパルナとは離されたままで、何をされているのかわからない始末。結局、近くに剣を置いて、適当にベッドに寝転がるくらいしかやることが無かった。
考えれば考えるほど、スパルナの事が頭の中から湧き上がってくる。あの子は今どうしてるだろうか? 治療はしてたから命に別状はないはずだけど……それもあの場に俺がいる時に限って、だ。いなくなった今では、何をされているのかわかったものではない。
そんな不安が一つ、二つと湧いて出てきて、ぐるぐる頭の中を回って離さない。そんな時、扉が開く音が聞こえて、そっちを向くと――少し前まで激戦を繰り広げていたロンギルス皇帝が相変わらずの佇まいで、堂々と部屋の中に入ってきた。
「居心地はどうだ? 可能な限り便宜を図ったつもりだが」
「良すぎて気分が悪くなりそうですよ。なんであれをわざわざ――」
「貴様は私に必要な物を持ってきた客人だ。多少の無礼を働こうと、その価値が変わる事はない。それに……あの小鳥がこちらの手の内にある以上、考えなしの行動は取る事はないだろう」
「……スパルナは、あの子は無事なんだろうな?」
「無論だ。魔方陣などで操っていない事も私が保証しよう。こちらの用事が済んだら、後で会わせてやっても良い」
「それは随分とお優しい事だ。この国の皇帝は、刃を向けた者にここまで寛大に接してくれるとはな」
「ははは、言ったであろう? 多少の無礼は許す、とな」
それはつまり、ロンギルス皇帝にとって俺たちとの一戦はその程度で済むものでしかない……そういうことだ。その事実を改めて認識した俺は、悔しくて情けなくて……目の前の男に頭を垂れるしかなかった。
「自らの弱さを嘆くな。貴様は強くなった。だが……年季が違うのだよ。たかだか十数年生きただけの小僧に、超えられては立つ瀬がないからな」
「……それでも、だ。負けられない戦いだった。負けちゃいけない……戦いだったんだ」
俺とスパルナがどれだけの想いを込めてここに来たか。どれだけの覚悟で貴方に――ロンギルス皇帝に挑んだか。
それは全て踏みにじられてしまった。死ぬかも知れない。それでも人と魔人が本格的に争おうとしている今は間違えている。そんな想いでここまで来たのに……目の前の男はそれを嘲笑って包むように受け止めた。一歩とか、二歩とか……そんなんじゃない。遥か遠い上で見下ろされた気分だ。兄貴との戦いでもここまで惨めな思いはしたことないなかった。
「セイルよ。あれは負けてはいけない戦いでもなんでもない。貴様は生きているのだからな。それが、全てだ」
お前では私の命に刃を届かせる事も不可能なのだ――そう言ってるようにも聞こえてくる。これ以上無様を晒したくなかった俺はせめて強くあろうと顔を上げて真っ直ぐロンギルス皇帝を見据えた。
「……そうだな。それで、俺はこれからどうすればいい? 必要なものを……持ってるんだろう?」
「ああ。なに、大したことではない。今から貴様に魔方陣を使う。それを一切抵抗せずに受け入れるのだ。それで……貴様の役目は終わる」
黙って頷くと、皇帝はゆっくり俺に見えるように魔方陣を構築していく。
「な、なにを……」
「案ずる必要はない。ゆっくりと、私の力に身を委ねよ。何も考える事はない。全ては我が手の内に。もう一度あの小鳥と会いたいのだろう? ならば今は力を抜くといい……」
ぐにゃりと歪んでいく皇帝の顔と、景色。ベッドに座っても治らなくて、吐き出しそうになる。そのまま、目を閉じた訳でもないのに、急に視界が暗くなって――
――
どれくらい気を失ってただろう? 目が覚めたときにぐらぐらとした感覚だけが残っていて、少し気分が悪い。
ロンギルス皇帝に何かされた事は覚えているのだけれど――
「……あ、ああ。そうか。無くしたんだな」
――『奪』の文字を使われた事を思い出した俺は、すぐに『生』の魔方陣を作ろうとしたのだけど、うまくいかない。微妙にモヤがかかってるようで……自分が今までどうやって魔方陣を使っていたのか、思い出せなくなっていた。
俺は……自分の使えていたはずの
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