第300幕 王城決戦
アスクード王は一度剣を引き、俺から少し距離を取る。先ほどの様子とは打って変わって、腹を決めた男の顔だ。
「この男、グレリアは俺が必ず討ち滅ぼす! 兵士たちよ、貴様らは人を裏切った勇者ヘンリーと魔人の小娘を殺せ! 戦えぬ者は銃を置いて逃亡する事を許す! 各々、冷静に事態に対処せよ!!」
一瞬騒ついた兵士たちの中には、アスクード王の赦しを得て、当然のように逃げる者、戸惑い判断をつけられない者、戦い果てる覚悟を決めた者と……かなり分かれた。
「良いのか? そんな事を言って」
「戦えん兵など、いない方がマシだ。そして……ここで兵を盾にしてしまえば、後に支障が出る。足を引っ張るようなら、必要ない」
言い放ったアスクード王は、最早問答は不要とばかりに斬りかかってきた。それをすかさずかわして、魔方陣を彼に突き付ける。
「それが貴様の
「お前程ではないさ」
発動と同時に放たれる炎の矢は、アスクード王の顔前で全て弾かれてしまう。間違いなく『結界』で発動させた魔方陣だろう。流石、
「どうした? それが貴様の力か?」
「……調子に乗ったらまた後でまた酷い事になると覚えておいた方が良い」
「はっ! 生憎、最早侮りはない。貴様の力は十分承知しているつもりだ!」
距離を取って魔方陣を構築しているのを確認する。向こうの
「くっ……!」
「どうだ? 防御の上から攻撃される感覚は?」
なるほど、俺の魔方陣と結びついて素通りしてくる……というわけか。予想以上の攻撃をまともに浴びた俺は、水によって生み出された鋭い攻撃に合わさった雷で痺れてしまう。
「これまでのようだな!」
アスクード王は俺に迫り、剣を振り下ろしてくる。これで終わりだと言わんばかりの顔をしているが、甘く見られたものだ。高々この程度で勝ちを確信されても困ると言うものだ。
俺は『神』『速』の魔方陣を発動させ、アスクード王の攻撃の途中で無理やり割り込むように体当たりをかます。突然の事で対応出来ずに一緒に転がるアスクード王の右手に『衝撃』の魔方陣をぶち当て、剣を弾く。
「くっ……
倒れ、自分がどうなったのか確認したアスクード王の魔方陣が、俺の頭を覆うような『結界』を生み出した。一瞬、何の意味があるのかと思ったが、それを理解したのは割とすぐだった。
「……!」
上手く呼吸が出来ず、とっさに離れ、『神』『拳』の魔方陣でその『結界』を打ち破る。
「くっ、はっ……」
『結界』でこんな事が出来るとは……恐らくある程度予測してないと出来ない芸当だ。あれである程度自動で合わせる事が出来るのなら、もっと早く使っていただろうからな。
アスクード王は弾かれた剣の元に走っていたようで、調子を取り戻したような笑みを浮かべていた。見つけた瞬間、二つの魔方陣を発動させる。
一つは『神』『速』で、自分の脚力を強化する。そして二つ目は……『地』『泥』『沼』の三文字。
「なっ……に!?」
アスクード王の困惑した声が上がると同時に、彼との距離を詰め、右手に『神』『拳』『剣』の
「きさ、まぁぁぁっ!」
「終わりだっ……!」
丁度、アスクード王の足を捕らえるように作られた小さい沼は、見事に彼の動きを阻み……その隙に俺はアスクード王の胸の鼓動を貫き、刈り取った。
「がっ……はっ……」
先程『結界』で一泡食わされたのだ。これくらいはして当然だろう。
「く、口、おし、や……我が、じん……せい、ここで……とぎ、れる、とは」
静かにアスクード王の胸から手を引き抜き、血に濡れた腕を気にもせず、倒れ伏した彼の最期を見届けた。
「……勝敗は決した! これ以上の戦いはこちらも求めない! 素直に降伏するのであれば、命は奪わないと約束しよう!」
俺の言葉に兵士たちは一瞬止まり――自分たちの敗北を悟ったかのように武器を捨てていた。
「おい! まだ戦え――」
「馬鹿か、アスクード王が死んだのに戦える訳ないだろ!」
一部の兵士はまだ銃を構えようとしているようだが、落ち着くのも時間の問題だろう。
……こうして、俺たちの戦いの一つは幕を下ろすことになった。ひとまず、アリッカルの脅威が消えつつある事を伝えてもらうため、シエラには一度グランセストに戻ってもらうことになり、ここでしばらく足止めを買うことになった。
――この後、ヘンリーが城内を掌握して、兵士たちを使って地上に残っている兵器を上手く手に入れる事が出来たのは、また別の話。
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