第298幕 不可侵領域
様々な銃火器を持っている兵士を従え、アスクード王は堂々とした佇まいで余裕な笑みを浮かべていた。
「ここに来て王、ですか。しかし、私が知る限りではあのような能力は持っていなかったはずですが……」
ヘンリーの驚きに歪む表情を見る限り、彼には秘密にされていた事の一つなのだろうと容易に想像する事が出来た。
何かの壁……俺たちには全く見えないそれは、確かに爆風を阻んでいた。一体どういう魔方陣なんだろうか?
「グレリアの攻撃が効かないんじゃ、私たちの魔方陣も届くかどうか……」
「あれをどう見ますか? ただの
まず間違いなく
「どうした? 貴様たちの力は、その程度で終わりか?」
そんな風に頭の中で悩んでいると、通常では考えられない大きさで響く声……『拡声』の魔方陣を使ってるのだろう。
「ならばここで死ぬが良い。我らが栄光の為にな!」
アスクード王が剣を抜き、振り下ろしたと同時に銃撃が再開され、俺たちは再び死の嵐に身を晒す事になる。
「くっ、このままでは……不味いですね」
「ど、どうするの? グレリア……」
「情けない声を出すな。二人とも、しばらくの間だけ持ち堪えられるか?」
「……私とシエラさんの二人で一人分の防御の魔方陣を作ればなんとか」
「ちょ、ちょちょちょっと待ってよ! それじゃあ、効果範囲も……」
「ええ。一人分です。密着するしかないですね」
「いや! 絶対嫌!」
こんな時にお前たちは何を言ってるんだ……思わず呆れ返ってしまったが、ある意味ではシエラらしい。
「何を悠長な事を言ってるんですか。このままでは、私とシエラさんは死んでしまいますよ?」
「う、うぅー……」
「ここまで来て、グレリアさんの足手まといなる訳にはいかない、でしょう?」
「……わ、わかっ、た」
嫌々ながらなんとか承諾したシエラはヘンリーと出来る限りくっつかながら魔方陣を同時に展開している。
それを見届けた俺は、すぐさま
発動させるのは『神』に『雷』の文字を使った魔方陣だ。これで周囲の敵を一気に無力化することにした。
「ふん、無駄だ!」
相変わらず『拡声』を使ったままとは随分余裕だ。この一撃で目を覚まさせてやる。
構築後した瞬間に発動させた魔方陣から無数の雷が出現して、流れるように周囲に拡散していく。そしてそれは――
――アスクード王の魔方陣によって阻まれてしまった。
「嘘…….」
後ろの方からシエラの声が聞こえる。信じたくないという感情の吐露を聞きながら、アスクード王の
組まれているものは『結界』『壁』の二文字。間違いなく前者がそれだろう。
俺が生み出した雷は、その全てが透明な何かに遮られ、兵士たちに届く事はなかった。
「ふ……ふふ、はーっはっはっはっ!! その程度の攻撃で俺の魔方陣を突破出来ると? 甘い。貴様らはここで、朽ゆく運命なのだ!」
何をそんなに勝ち誇っているのかはわからないが、たったこれだけの事を防げたからといって子どものように笑わないで欲しいものだ。
冷静に分析すると、俺の攻撃を受け止めた時、壁には僅かな揺らぎがあった。なら、より強力な魔方陣は止められないだろう。突き破るには『焔』の時のように形状に留め、力を集約させるしかない。
「シエラ、ヘンリー。まだ大丈夫そうか?」
「ええ。問題ありませんよ。貴方は存分にやってください」
「大丈夫じゃないと思うんだけど……」
「ふふっ、そういう減らず口を聞けるなら大丈夫ですよ」
ヘンリーは随分余裕そうな口を聞いてるが、本音はかなり切迫している状態なのだろう。今すぐにでも弱音を吐いてもおかしくない。それでも笑顔でいるのは彼の矜持なのだろう。悪くない。なら……それに応えるのは俺の役目だ。
「行くぞ……!」
「死ねっ! 愚か者どもぉぉ!」
大きな弾がこっちに撃たれたと同時に爆風が辺りを包み込む。熱で肌がちりついて、髪を僅かに焦がすような感じがする。
マシンガン、ロケットランチャー……そのどれもが未だこの世界では到達し得ない技術を集めたものなのだろう。
「グレリア! 防御の魔方陣!」
シエラは叫ぶように訴えかけて来ているが、問題ない。自分に飛んでくる弾丸だけは最低限防いでいる。それに……今からは本気で戦う。出来る限り、俺の本来の戦い方、でな。
『神』『速』の二つの文字で
「ふん、いくら何をしようとも――」
「はああああっ!」
次いで『神』『拳』の
一瞬の静。そこから響き渡るのは陶器の割れるような激しい音。
「な……に……!?」
「覚悟はいいか!? アスクードォォッ!!」
驚愕の表情を浮かべているアスクード王に、不敵な笑みを浮かべてやる。たかだか『結界』で……俺の行手を阻める訳がないと教えてやる……!
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