第262幕 シアロル戦車隊
『索敵』『地図』で作り出した地図で、敵の行動を確認しながら徐々に距離を詰めてきていた。
しばらく歩いた俺は、近くにある森の中に身を潜めながら、敵の反応があった場所を確認する。
何かが動くような変な音が聞こえて、二つに重なった箱がゆっくりと移動しているのが見えた。
それが十数体くらい陣形を整えているのだから、何も知らない俺からしてみたら奇妙な光景だ。
「あれは……なんだ……?」
魔方陣の表記に間違いがあったんじゃないかと、再度展開し直したんだけど、特に何の問題もない。少なくとも敵の魔方陣で撹乱されているという心配はなさそうだ。
それだと、余計にわけがわからない。あの箱自身に大きな魔力の反応があり、それに重なるように三つの人っぽい魔力の反応がある。なんとも奇妙な光景だが、それらはまっすぐ俺が来た方向……拠点にしている町に向かっているようだった。
このまま行けば、間違いなくこちらの軍とかち合うことになるだろう。恐らく上の箱から伸びてる図体の割には少々細く、長い筒から弾を打ち出すやつだと思う。他にも色んな武装がなされているが、メインはそれだろう。
あれから繰り出される攻撃が一体どれほどのものか想像がつかないが……俺も受け止められるかどうかわからない。
こんな情報が少ない状態で戦えば、間違いなくあの時のゴーレムとの一戦と同じように、甚大な被害が出るだろう。下手をしたら戦闘継続が不可能になり、撤退しなければならない可能性だって出てくる。今俺たちが拠点にしているところを制圧されてしまうと、アッテルヒアまで大きな町は存在しない。小さな村が点々としているくらいだ。
敵の進行を止めるには、今の環境を維持する必要がある。そう判断した俺は、迷うことなく大規模な魔方陣の構築を初めた。その瞬間、今まで動いていた箱たちは一斉に動きを止めてこっちの方にその長い筒を向けてきていた。
一々音を上げているのが特徴的だが、今なんでこっちの動きがわかった? あの箱の中では『索敵』の魔方陣を使っている兵士がいるってわけか?
何にせよ、このままとどまり続けるのは不味い。慌てて身体強化を発動させ、そこから離れる。轟雷のような大きな音が響き渡ったかと思うと、それと同じくらい大きな音を立てて、俺が先程までいた周辺は跡形もなく抉れ吹き飛んでいた。俺の方でも目で捉えてかわすくらいがやっとの速度だ。そしてあれほどの威力を誇っている。やはり、今この場で戦って正解だったと思う。
あの威力……あれだけの数の動く箱が一斉に放ってきたら、並の兵士では立ち向かうことすら出来ないだろう。というか、今正にそれを実感している状況だな。数多くの箱から繰り出される必殺の一撃を掻い潜るように避けていく。
兵士たちが使っている銃とは全く違う。着弾したときに発生する爆風や熱の範囲を頭の中に入れながら回避を行いつつ、魔方陣を速やかに構築していく。
いくら俺でもあれに当たればひとたまりもないだろう。それでも……これほどの激しさを受けてもなお、心が躍るのはなぜだろう? それは多分、抑圧された感情が爆発したのかもしれない。
その他にも筒の攻撃を終えた後は、兵士の銃に似たものが絶えず弾丸をこちらに向けて吐き出し続けてくるのだから厄介だ。近距離には近寄らせることすらしない。そういう気持ちが嫌というほど伝わってくる。
多分だけど、これにもゴーレムと同じ材料が使われているはずだ。これだけ強力な攻撃をして遠距離に相手を釘付けにするやり方で、魔方陣関連の攻撃に弱いというのは変な話だからな。
だからこそ、俺の構築した
それもヘルガの時に使ったものよりも魔力をより濃密に練り込んだ物だ。
完成した魔方陣を躊躇なく解き放った瞬間――周囲の物全てが何の音もなく凍結してしまう。それは一気に広がり、箱の方も為すすべなく凍りついていってしまった。一体……また一体と凍りついていくそれらは、魔方陣の範囲から逃げるようにキュラキュラという音を立てて後ろの方へと下がっていく。
追撃の魔方陣を練り上げようとしたのだけれど、まだ完全に凍っていなかった箱の方から攻撃が放たれ、更に後退しながらもこちらが近寄れないように絶えず弾幕を張り続け……侵攻は防げたが、こちらも向こうにそれほどの被害を与えることは出来なかった。
仕留めることが出来たのは五体。ゴーレムと同じ装甲だろうと考え、威力を上げるために範囲を絞ったのが災いした形だ。俺の付近にいた三体は完全に凍結。半数以上が残る結果になってしまったが、仕方ないだろう。
しばらく周囲を警戒して、魔方陣で他に不審な物はないかと確かめたが、これ以上は何も起こることはなかった。すぐに撤退してくれたのは助かったが、あそこから戦い続けたらどうなっていたのだろうか……? 若干心が冷えるのを感じながら、無事切り抜けることが出来て一段落して周囲を見回しながら……シグゼスにどう言い訳しようかと空を見上げながら考えることにしたのだった――。
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