第十三節 銀狼騎士団・始動編
第223幕 魔人に寄り添う者
ミルティナ女王との話し合いを終え、くずはの記憶がはっきりと元に戻ったあの日から二年の時が過ぎた。
その間色々とややこしいこともあったが、今となってはいい思い出だ。
ミシェラとエセルカが妙に気が合って、度々なにかやらかしていたり、くずはがA級に所属して色んな生徒たちと交流を深めたり……。
俺の方も一年前にレグルやルルリナとの関係がある程度修復した。
少なくとも普通に食事が一緒に出来る程度の仲には戻ったかな。
エセルカは相変わらず俺の側にいたがったが、一年もすれば少し落ち着いてくれて……俺の方はなんと言えばいいのだろう。
少し嬉しいやら寂しいやら……複雑な気分になってしまった。
放課後の道場みたいなものも結局最後までやった。
すっかり恒例行事になってしまってやめられなかったというのもあったけどな。
そして……俺はリアラルト訓練学校を最後まで通い続け、首席の成績を残して卒業。
次の日には女王に呼ばれるような形で首都の方へと赴き、銀狼騎士団へと入団することになった。
今年の入団者は俺を含めて七人だそうで……女王のはからいでそこにはエセルカやシエラが組み込まれていた。
くずはも入団予定者にはいるはずだったのだが、彼女は自ら断ってしまった。
「あたし、弱いからさ。そんな分相応な場所にいてもついていけないよ」
と弱々しく首を振っていたのがやけに印象的だった。
それまでの彼女の強気だった口調も一切なりをひそめて、完全にしおらしくなってしまったのだ。
そういうわけでくずはは騎士ではなく、俺のお付きとして自らを鍛えながら行動を共にすることになった。
……そして、入団当日。
俺たち三人はくずはを置いて首都アッテルヒアのエテルジナ城へと行った。
玉座の間の近くまで進んだ俺たちは四人の新人の他に、アルディやジェズといった見知った顔の騎士も集まっているのを見た。
そのまま指示通りに一人ずつ玉座の間に入って横に一列に並んでミルティナ女王の前で跪いて頭を下げる。
二年経ってもまるで成長していない彼女は、立ち上がって隣にいる大臣のゼネルジアから礼装用の剣を受け取り、一番左で跪いている新人の騎士に対して洗礼しているようだった。
「汝の意思、力、魂の一片も残さず余に捧げ、永遠の忠誠をここに誓え」
「……はっ、私の全てはこの国の為に。女王陛下の為に」
気になるからといって顔を向けて確認するわけにもいかないから、会話のやり取りを聞いているだけだが、流石に堅苦しい。
次々と忠誠を誓っていく中、やがて俺の番が来る。
剣の腹が左、右、頭の順番でトントンと叩かれるように置かれていく。
そして先程から聞いた同じ言葉をミルティナ女王が問いかけるように放たれ、俺は――
「我が道は常に貴女様と共に。この命ある限り歩み続ける事を誓います」
「良かろう」
という言葉を口にしていた。
一瞬、ミルティナ女王に心酔しているであろう騎士からピリピリとした空気が流れたが、ミルティナ女王が初めて満足そうに言葉を呟いたおかげで霧散してしまった。
むしろ羨ましいというかのような視線すら向けられている。
それだけで彼女がどれだけ騎士団員に忠誠を捧げられているかわかるというものだ。
その後の進行も何の邪魔もなく終了し、全ての新人の洗礼が終わり、ミルティナ女王は再び剣をゼネルジアに預け、ゆっくりと腰を下ろした。
「これにて今日の洗礼の儀は全て終了した。銀狼騎士団は我が剣にして盾。
愛すべき国と魔人を守るため、一層の努力を怠らぬように願う。以上!」
ミルティナ女王の短い言葉とともに俺たちは玉座の間から一人ずつ退出する。
……これから俺たちは銀狼騎士団の一員として行動することになるだろう。
正直、二度目の人生で誰かの下につくことになるなんて思っても見なかった。
魔王との戦いに赴いた時、俺は最終的に一人だった。
もちろん支えてくれた人はいたし、俺もそれには応えられたと思っている。
だけどこうして国の一戦力として組み込まれたことなんて一度もなかった。
なんというか……不思議な気分になる。
「おい」
そんな風に思いながら玉座の間から出た俺は、エセルカやシエラと合流しようとした……んだけど、突如として行き先を遮るように一人の男が現れた。
金髪のオールバックに藍色の目が印象的な青年。少なくとも俺よりは年上だろう。
俺より頭一つ分高くて、銀狼騎士団に特有の白銀の鎧を身に着けた彼は睨むように見下ろしていた。
「なんですか?」
「貴様……新人の分際であの御方によくもあんな口の聞き方を……!」
苛立つような視線を俺に向けてくる彼は、恐らくあの時俺に噛みつかんばかりの視線を向けてきた一人だろう。
ミルティナ女王には悪いが、心酔しすぎている者がいるのはあまり良くないと思う。
こういう風にちょっとした言葉でも突っかかってこられても困る。
「私はただ本心を言ったまでですよ?」
「我らが女王陛下が貴様と道を共にする訳がなかろう! 思い上がるな!」
「思い上がるなどととても……」
よほどミルティナ女王の事を敬愛しているのだろう。
ちょっと行き過ぎな気がしないでもないが……さてどうしたものか。
「シグゼスさん、どうされたのですか?」
何を言っても問題が起こりそうなこの状況で、ちょうどよく救いの手を差し伸べてくれたのは俺も知っている男……アルディだった。
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