第158幕 ジパーニグにあるもの
ソフィアからエセルカの事を聞き出した俺は、アリッカルの城から出て、更に数日の期間を費やして、ジパーニグへと入った。
あの城を抜け出す時、入る時よりもかなり簡単に抜け出すことが出来た。
道を覚えていた……ということもあるが、あれだけ騒いでいた兵士たちが静まり返っていた。
数人程度となら出会いはしたが、行きの時より明らかにこちらを見つける精度が落ちていて、楽なくらいだった。
恐らくだが『索敵』の魔方陣を使っていた奴が持ち場を離れているのだろう。
前のように魔力を目印にしてこちらに向かってくることはなかった。
そのままうまくアリッカルの城を抜け出した俺は、一度宿をとって朝を迎え……現在にいたるというわけだ。
久しぶりに戻ってきたジパーニグには、特に何も感慨深かったりするわけでもなく、むしろアリッカルやイギランスに入ったときと同じように何も感じなかった。
ただ、グランセストよりも暖かく、気候が穏やかな感じだと思うくらいか。
それでも今は寒い時期に入ってて、袖の短いものを着ていたら風邪を引きそうではあるが。
本当なら……生まれ故郷に帰ってきたわけだから、少なくとも何かを感じるはずなんだが……こう考えると、俺がジパーニグの事をただ生まれ、育っただけのような場所だと考えていることがわかるな。
もちろん、両親のところに帰れば懐かしさもこみ上げてくるだろう。
一度セイルたちと別れて合流した時なんかは、多かれ少なかれ両親のところに帰りたいという気持ちがあったわけだからな。
今回それがないのは……まあ、エセルカを助けるために来たわけだから、そんな事してる場合じゃないというのが強い。
それに、今の俺が両親に顔を会わせるということは、その分彼らを危険に晒すということだ。
なら、いっそこのまま会うことがないほうがいいだろう。
その分、あの人たちに牙が及ぶことはないと思うからな。
――
ジパーニグの領土に入ってから更に数日……俺はようやくこの国の首都であるウキョウにたどり着くことができた。
そう言えば、俺は学園に入っていたこともあって、中央都市であるルエンジャには行ったことがあるのだけれど……こうして首都のウキョウに入るのは初めての出来事だ。
周囲を見渡すと、どこか無機質な印象を抱かせる町並み。
道は綺麗に整理されていて、建物の方は機能的(?)とでもいうのあらおうか?
少なくとも、ルエンジャよりはかなり発展している。
ただ、普通の家に混じってどこかカクカクした建物は相変わらず違和感を与えてくれる。
これが本当に俺の生まれ育った町なのか? とも思ったりするほどだったけど、元々田舎の出の俺が、そもそもこのウキョウに懐かしさを感じるわけもない。
というわけで、その日はそのまま一度宿に泊まり、一日だけ、ゆっくりと休むことにした。
……本当はすぐにでもエセルカのところに乗り込んでいきたいが、そうやって焦って冷静さを欠いた状態で城に入ったとしても、余計なことをしでかすのが落ちだろう。
だからこそ、一日……というより、次の日のみんなが寝静まった夜中に行動に移すことにした。
――
ウキョウの宿で身体を休めた俺は、静かに行動を開始する。
わざと城から遠くの宿を取ったせいで、距離はあるが、そのおかげで気付かれなかったと思ったほうがいいだろう。
ということで端の方からゆっくりと姿を闇に紛らわせて進んでいく事にしたのだが……こんなにも大きな通りでシン、と静まり返っているのを見ると不思議な気分になってくる。
まるで俺のいるところだけが切り取られたかのようにさえ感じる程だ。
そのまままっすぐ通りを歩いていると……こちら側に誰か歩いてくるような気配を感じた。
咄嗟に『気配遮断』『防音』の魔方陣を構築して、一層闇の中に姿を隠してその誰かに気付かれないようにする。
仮にここで一般人……兵士じゃない人にであったとしても、あまり見つからないほうがいい。
何があって兵士たちに気付かれる原因になるかわかったものじゃないからな。
そのままやり過ごそうと息を潜めて様子を伺っていると……段々その影が大きく――。
いや、近づくにつれ、異様に小さいような気がする。
こんな夜遅くに小さな子が一人で道を歩いてる……?
普通では考えられないことだが、徐々にそれが近づいてくるごとに逆に確信を得てしまって、疑問に思ってしまう。
まず、俺がなんでここまで来たか……それはエセルカが囚われているということだから、それを助けに来たからだ。
だが……それなら何故、肝心の彼女が
今はもう目と鼻の先と言ってもいいくらい近い距離のせいで、否が応でも認めざるを得ない。
見慣れた姿、だけど……なんだか雰囲気が違うような気がする。
それが彼女に声を掛けることを躊躇わせる。
確かにあそこにいるのはエセルカなのだが……何かがおかしいと、俺の勘が囁いてくるような気がするのだ。
……仕方ない。少し予定を変更して、しばらくの間は彼女の後を付いていくとしよう。
幸い、エセルカは魔方陣を使ってるわけでもないし、こちらには全く気づいていない。
万が一何かあっても、俺が直ぐ側にいるんだから対処することだって出来る。
そうして俺は……囚われているはずの彼女がなんでここにいるのかを知るために、こっそりと尾行を開始するのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます