第157幕 彼女のいる場所
「それで、エセルカは今どこにいる?」
「……ふふっ、随分彼女にご執心なのね。ちょっと妬けちゃうくらい」
どこか放心したように笑って、俺を見上げている。
何故か、俺を憐れむような目を見ているけど、今はエセルカの方が優先だ。
「悪いが、これ以上話をしている場合じゃない。
さっさと答えろ」
「ふふっ、怖い怖い」
笑い声をあげているが、彼女の目は一切笑っていない。
むしろどこか空虚さを感じる程だ。
以前……勇者会合で出会った時みたいな、大人の女性の魅力を全く感じない。
これが……本当にソフィアの姿なのだろうか?
「……エセルカちゃんは今、ジパーニグにいるわ」
「ジパーニグ? なるほどな……」
「あら、驚かないのね?」
「当たり前だ」
元々、くずはたちがアリッカルでカーターに襲われたときから、ジパーニグとアリッカルが手を組んでいるかもしれないということは考えていた。
それに、俺の勘の方はジパーニグの方が怪しいと考えていたからな。
結局、アリッカルに向かったのだけれど……逆にソフィアの言質は取れたのだからそれでいいだろう。
「ふふっ、なんでもお見通しってことね。
でもね……行かないほうが良いわよ?」
「はっ、そう言われて引き下がると思ってるのか?」
俺の目的は『エセルカを救出すること』だ。
肝心の彼女がジパーニグにいるというのに、『行くな』と言われて止めるわけがない。
俺の覚悟が伝わったのだろう、どこか諦めたような顔でソフィアはゆっくりと首を横に振っている。
「無理よ。いくらわたしを完膚なきまでに圧倒した貴方でも、勝てるわけ無いわ。
たった国二つ……それだけが相手じゃないことぐらい、わかってるでしょう?」
ソフィアの言うこともわかる。
アリッカルとジパーニグを『たった』と言い切れる……ということは彼女は裏で暗躍している奴らのことを知っているのだろう。
それを踏まえて、俺に忠告しているのかもしれない。
これ以上関わるな……と。
だが……それで『はいそうですか』と言って引き返すほど、物分りのいい質ではない。
例え何を敵に回しても、自分の意思を曲げるつもりはない。
「いいや、わからないな。
『勝てるわけがない』……そう思うのはソフィア、お前の自由だ」
「ふふっ、グレリアくんにはわからないよ。
せっかく苦しい思いをしないように教えてあげてるのに……無駄なようね」
「ああ、俺はあいにくそんな言葉を素直に聞くほど、お利口さんじゃないからな」
痛みの伴わない道は楽だ。
だが、一生痛みのない人生なんてありえないように、時には敢えて自ら傷つきに行くことも大切なのだ。
ソフィアはどこか自嘲気味の笑みを浮かべて俺を見上げるだけだ。
「……忠告はしたわ。後は貴方の好きなようにしてちょうだい」
「そうか、なら俺は今からジパーニグに行く。邪魔するなよ?」
「……わたしに止めを刺さないっていうこと? 後悔するわよ」
「ははっ」
後悔するって? そんなもん、するわけないだろう。
その時は俺の判断が甘かっただけだ。
それに……ソフィアには勇者会合の時にカーターと戦いになりそうだったのを止めて貰った借りがある。
それを今返すだけだ。
「次、俺と戦うことがあったら……その時は覚悟してくるんだな。
二度目はない」
「ふふっ、じゃあ、貴方に全部捧げるつもりで向かってあげる。
そうだ……最後に一つ言わせてちょうだい」
暗に『また戦うことになる』と言い切ったソフィアは、去っていく俺を引き止めてきた。
そのまま無視しても良かったのだが、わざわざ忠告までしてくれたのだから……と足を止めてしまった。
「何だ?」
「ジパーニグにはアスクード王もいるわ。
それに、ここよりずっと警備は厳重よ。
今のこの国のようにザルじゃないから」
「……そうか。ありがとう」
ソフィアに礼を言って、俺はその場を後にした。
なるほど、アリッカルの王はジパーニグにいるわけか。
今の警備がザル……ということはこれ以上に索敵の魔方陣や兵士たちの巡回が激しいということだろう。
いや、下手をしたら、他の国の勇者も出張ってきてるかもしれないな。
可能性があるとしたらナッチャイスの
一番面倒だと思うヘンリーがいると考えてジパーニグではより一層警戒を強めた方が良いのかもしれない……。
そんな風にこれからどう動くか? ということを考えながら、俺はそれ以上アリッカルの城を探索せずに、さっさと切り上げることにした。
ソフィアが出てきた先に続く道は気になるけど……今回の目的はあくまで『エセルカ救出』だ。
階段もそうだし、どこか無機質に感じるこの空間に加え、あの奥は明らかに異質な雰囲気がした。
この世界の歪さの原因があるような気もしたのだけれど……その事に関わって、今一番しなければならないことが疎かになることはやってはいけないことだ。
というわけで帰る時も細心の注意を払い、無事に城を脱出することに成功した俺は、一度宿でゆっくりと休んでから今後の日程を立て……ジパーニグを目指すことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます