第132幕 どうしようもない差
俺たちはヘルガの攻撃に翻弄されるかのように振り回されているけど、このままじゃまずい……。
エセルカはあらゆる角度から厳しい攻撃を受けて、周囲を防ぐことで精一杯だ。
くずはの方はわざと見えるような位置からの光線による銃撃を回避するのに必死で……こっちもまた他にかまけている場合じゃないだろう。
対する俺は……その両方を合わせたような攻撃を受けている。
くずはのようにわかりやすい位置から魔方陣が展開されて、銃身を出現させていく。
それらから放たれる光線を避けていると……今度は俺が気づきにくいような位置や角度から攻撃が飛んでくる。
おまけに致命傷になりうるところは狙ってこないから、防ぎようがない。
防御の魔方陣も常に張り続けていたら魔力の消費が激しいし、出来ることならしたくはない。
……が、このままだと攻撃も出来ずに好き放題されてしまう。
肩に受けた傷が痛むが、今はそんな事を言ってる場合じゃないだろう。
俺は自身を覆うように防御の魔方陣を構築していって、ヘルガの攻撃を掻い潜りながら向かっていく。
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
身体強化の魔方陣を三重に展開していって、光線を防ぎながらヘルガの元に向かっていく。
そのまま右拳を振り上げ、軽く一撃を見舞ってやろうとしたんだが、逆に避けられ、ヘルガの横顔を素通りしてしまった。
ヘルガはそのまま俺の懐に潜り込んで、思いっきり肘鉄を食らわせてきた。
「くっ、ぐっ……」
あまりに強烈な一撃に思わず俺は腹を抑えて少々後ろに下がってしまったが、ヘルガはその隙をつくように右足を軸にして半回転して、後ろ蹴りを食らわせるように左足を俺の胸元に叩き込んできた。
もちろん、今の俺にはそれを回避する術などなく、強い一撃を無防備に受けてしまった。
「が……はっ……!」
そのまま肺に溜まった空気を吐き出しながら、受け身も取れずに倒れてしまう。
勇者会合の時よりも動きが洗練されていて、流れるように決められてしまった。
「くっ……」
「……弱い男」
吐き捨てるように俺を見下しながら、ヘルガは更に魔方陣で銃を召喚して、追撃してくる。
まだまともに立ち上がれるような状態じゃなかった俺は、多少無様になりながらも転がって回避して、なんとか戦える状態まで持ち直す。
「セイルくん!」
「げ、げほっ……エセルカ!? お前……大丈夫なのか?」
「う、うん。セイルくんのおかげでなんとか」
どうやらヘルガの気がこっちに逸れたおかげで、エセルカの方の攻撃が後回しにされたようだ。
ちょっと腹や胸が痛むが、少なくとも攻撃を受けただけ……なんてことは避けられたようだ。
「エセルカ、二人であいつを倒すぞ」
「でも……」
「逃げる場所がない以上、ここでなんとかするしかないだろ!」
さっきまでの攻撃を思い出したのか、若干怖気づいているようだけど、ヘルガは簡単に見逃してくれるようには見えない。
しかも、捕まえると言っていた割にはかなり容赦のない攻撃をしてきている。
くずはの方はまだ持ち堪えているようだけれど、それも時間の問題だろう。
「行くぞ!」
「う、うん!」
ヘルガと俺とじゃ能力の差が大きすぎる。
向こうは二重で、こっちは三重の強化をしているのに、土台が違うせいで若干こっちが押し負けてしまってるんだ。
それなら、こっちは数でそれを補うまでだ!
「すぅー……はーっ……」
一度、ゆっくりと深呼吸をして更に魔方陣を重ねて展開する。
相当集中して四重。それが今の俺がギリギリ扱うことが出来る限界だ。
――だが、これで多少は……!
ヘルガはなにを思っているのか、ただそこに立っているだけだ。
俺は再びヘルガに向かって攻撃を仕掛ける。
今度も最速で彼女のところに辿り着いたが、ただ同じ攻撃をしただけではまた前の繰り返しになってしまうだろう。
どんなに速く動けても、軌道がわかっていれば対処も容易だ。
ヘルガも既に大体の動きが予測出来ているようで、俺が目の前に躍り出ても、じっとそれを観察するだけだ。
「はあああああっ!」
魔方陣を起動してそれを腕に纏わせる。
そのまま俺は地面を踏みしめ、腰を捻り、下から上へ突き上げるようにヘルガの腹部めがけて一撃を繰り出す。
「行け!」
その瞬間、エセルカの魔方陣が俺から見て左側から出現して、土色の鎖がヘルガを捉えようと襲いかかるが……それをひとっ飛びで避けてしまった。
それと同時に俺の拳も避けられるのだが、こっちの方は心配ない。
繰り出した拳は空振っても、纏った風がそのまま斬れる刃となってヘルガに向けて襲いかかる。
それを――まるで知っていたかのように防御の魔方陣を展開してきた。
「なっ……」
「やっぱり、弱い男ね。
あの人の足元にも及ばない」
俺は空振った姿勢のまま……今度は左腕を掠めるような鋭く、焼けるような痛みを感じる。
この攻撃。当てようと思ったらいつでも出来た……そういうかのような攻撃だった。
そして――
「――! ――!!」
「くずは?」
気付いたら向こうから聞こえた光線の音が止んでいた。
それに嫌な予感がした俺はくずはの方に視線を向けると、そこには苦悶の表情を浮かべて倒れ、動けなくなった彼女の姿があった……。
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