第42幕 勇者会合
闘技場の中に入ると、場内にはカーターやソフィアといった勇者たちと、その護衛を含めた者達が集結していた。
さらに上の観客席の方から、見下ろすように各国の王だと思われる人たちが集まっていた。
その中には恐らく俺達の国の王の姿もあるのだろう。
俺自身は会ったこともないどころか、名前すら知らないのだからわからないのだけれど。
「こほん、よくぞ参った勇者諸君。わしはイギランスの国王エンデハルト。
知らぬ者もいるだろうから左から順に紹介しよう。
ジパーニグの王クリムホルン。ナッチャイスの女王ミンメア。
アリッカルの王アスクード。シアロルの皇帝ロンギルスだ」
王の中の王を意味する皇帝を冠するだけあって、黒を基調とした荘厳な鎧のようなものを身にまとい、ものすごい風格のあるロンギルス皇帝。
ジパーニグの王であるクリムホルン王はロンギルス皇帝の姿には劣るものの、明るい茶色に赤みのさしたようなブロンドの髪に、薄い黄色の目の壮年の男性。全体的に赤と金の装飾が施された衣装を着ていて、中々に様になっている。
他にも王にも目を向けようかと思ったけど、再び話しだしたエンデハルト王の方に視線を移した。
「【英雄召喚】により喚ばれし異世界の勇者達よ。今回おぬし達を呼び寄せたのは至極簡単。
まずはおぬしたちの顔合わせ。万が一知り合いがいれば、会わせてやりたいというのもまた心情だろう」
そう言うと聞こえは良いが、簡単に言えば喚ばれた勇者たちの戦力分析の面が多いんじゃないかと考える。
単なる顔合わせなら、わざわざ闘技場なんかになんか呼ばないだろう。
なんて邪推をしていたら、案の定次の言葉がまだあった。
「次に各国の王たちにそれぞれの勇者を紹介するついでに、力をアピールしてもらおうと思ってのことだ」
「力を? 何のために?」
「この世界はアンヒュルと呼ばれる邪悪な種族によって危機に陥ろうとしている。
魔王と呼ばれる者の出現。それにより勢いづいた者たち。
我らも知りたいのだよ。他の国が喚んだ勇者達の力を」
すうっと目を細めて何かを図るように司やカーターを見るエンデハルト王なんだが、いかんせん外見がまるっこいふくよかな男性のせいで迫力がない。むしろどこかのお土産屋に並んでいても違和感がないほどだ。
恐らく、他の王達がいなければ誰か吹き出したんじゃないだろうかと思ってしまうほどだった。
「はん、俺は別にいいぜ? だけどよ、当然相手を選ぶ権利くらい、あるよなぁ?」
そんな風に声を上げたのはカーターだ。
あまりにも熱っぽくギラついた視線を俺の方に向けながら口の方はにやりと邪悪に嗤っている。
まず間違いなく俺をいたぶりたいんだろう。
公衆の面前で俺をぼこぼこにして、半殺しに……いや、殺したいというのが本音だろうな。
実に野生児のような醜悪な面構えをしたあの男らしい。
「ふむ……出来れば勇者同士のほうが良いのだが……」
「良いではないか」
さっきまで黙っていたロンギルス皇帝がゆっくりと、重苦しい口調で笑うように言葉を紡ぐ。
「ロンギルス皇帝……しかし……」
「エンデハルト王よ。やりたいようにやらせればよい。
実力がわからぬのであれば、もう一度戦わせればよいこと。違うか?」
「う、む……」
「こちらはそれでも構わぬ。そこの勇者殿はどうやら、こちら側の者に執心しておるようだからな」
クリムホルン王は俺とカーターが視線を交差させていたところを見ていたのだろう。
俺の方に視線を向けてなにやら含みのある笑いを向けてきていた。
……これは俺にぼこぼこにされろって言ってるのか?
それともこの歳で護衛についていることになにかあるとでも踏んでいるのだろうか?
一つだけわかるのは、俺とカーターの戦いを国王達が認めた、ということだ。
「相わかった。ではおぬしは……」
「アリッカルのルイス・カーターだ」
「うむ、ではカーター殿。おぬしの所望する相手を言うと良い。
その者と望む戦いをさせてやろう。
クリムホルン王、アスクード王。それで良いか?」
「異議はない」
「こちらもだ。
互いに手を抜いていないのであれば、それはそれで面白かろう」
クリムホルン王にう続いて声を上げたのは白髪に立派な髭を蓄え、濃い水色の目をしている比較的筋肉質な体型の男――アスクード王で、彼も深く頷いていた。
白いファーが付いていて、赤い毛皮のようなマントを羽織ったその姿は、ロンギルス皇帝とは違った形で立派な姿をしていて、腕を組んで俺達を見下ろす姿は威風堂々と言っても差し支えない。
「はっ、そうこなくっちゃなぁ! なら俺様は、そこのチビと戦わせてもらうぜ」
ニヤついた表情で指さしたのは――やはり俺だった。
その事に俺は文句はなかったのだが、抗議の声がアリッカル側の英雄であるソフィアから上がった。
「ちょっと待った! そんな事認められるわけ――」
「黙ってろよ! ザコはよぉ!
俺様はな、別にあそこのメスガキをいたぶってからあいつにしたって良かったんだぜ?
こっちのガキだけで済むんだから、むしろ感謝してほしいほどだけどなぁ!」
「ああ、そうだな。認めてくれた王様達には感謝しきれないな」
ソフィアが再び声を上げる前に俺が大声でそれを遮る。
一斉に視線が俺の方に集まるが、そんなものは気にしない。
見世物にされる? 問題ない。俺もこいつには頭にきてたんだからな。
「教えてやるよ、お前みたいなのは英雄じゃない。ただの粋がってるザコだってことをな」
「て、てめぇ……上等だ! 覚悟しろよ!!」
馬鹿にしたような笑みを浮かべて煽る俺に対し、耐性が著しく低いのか、青筋を浮かべながら睨みつけてくるカーター。
こうして勇者会合での力試し、最初の戦いは俺とカーターの戦いに決まったのだった。
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