第14幕 速攻の結果
本気でやるなんて言ってしまったが、やりすぎてしまったかもしれない。
いや、なんというか俺と戦えることが嬉しいなんて言ってるやつに対してついノリで、な。
開幕先制攻撃を仕掛けていたらそれだけで終わってしまった。
セイルのやつ呆然とした後、なんか笑っていた。
一瞬壊れてしまったか? とかひやひやしたもんだが、別にそういうわけじゃなくてほっとした。
「瞬殺とは思わなかったけどよ……次は負けないからな!」
「……ああ、期待しないで待ってるよ」
懲りないやつだな、とも思ったが、それもセイルらしいと言えばらしいか。
普通だったら挑む気も起きないほど完膚なきまでに叩きのめしてしまったと思ったんだが……こういう奴だからなんだかんだで俺も居心地がいいのかもしれない。
目が覚めたら目の前で筋トレしてたとかじゃなかったらもっと良いんだけどな!
――
セイルと戦った後、決勝の相手はエセルカだった。
立て続けに見知った相手というのもなんだかなと思ったのだが、よくよく考えたらもう彼女しか残ってなかったことに気づき、なんだか褒めてやりたい気持ちになる。
彼女より強い相手なんてどっちの組にも当然いた……んだが、彼女より強い相手は大抵俺かセイルが倒してしまっていた。
正に運も実力の内と言えるだろう。
「あ、あの……よろしくおねがいします!」
丁寧に頭を下げているエセルカなんだが……どうにも気が抜けてしまう。
が、これは一応実力トーナメントの最終戦。ここで腑抜けた戦いをすれば、今まで戦った連中に対して失礼と言えるだろう。
「ああ、よろしくな」
「はい、それではお互いに準備も良さそうなので始めましょうか」
クルスィの一言に、俺の方も意識を切り替える。
それはエセルカも同じようで、いつもの下がり気味の眉が、ちょっとだけきりっとしているように……見えないこともない。
「はい……始め!」
その言葉とともに、俺は構え、一気に駆け出す。
エセルカは俺が突っ込んでくることがはじめから分かっていたのだろう。何のためらいもなく一直線の突きを繰り出してきた。
やはり剣筋から見ても綺麗な軌道だ。これで速さが伴っていれば相当なものだろう。
俺はじっくりとその剣筋を追って、最後まで突きの行動が終わったその一瞬……足を軽く払ってやる。
「ちょ、あ、え!?」
そのまま見事に引っかかって転びそうになった身体に対し、手を伸ばす。
腰辺りに手を回し、完全に倒れてしまうのを防ぎながら、頭に向かい拳を抜き放つ。
一応女性としての配慮をしておかないとな。
「ひゃ……!」
「勝負あり、だな」
エセルカの目の前には俺が寸止めした拳。
結局の所、足の方をすくって、そのまま拳を寸止めしただけの他愛ない戦いだけが続いたな……。
もう少し苦戦しても良さそうなものだが、そこはそれ、彼らも年相応の少年少女というわけだ。
俺の方は少々精神が老いさらばえてしまっているというか……身体以外はほとんどできあがっているのだからな。
こうなるのも仕方ないだろう。
「はい、それでは……今回の実力トーナメントの勝者は……グレリア・エルデに決定です」
「「おーー!」」
「「「おめでとーーーう!」」」
「「「……ちっ」」」
L組の連中は学年問わず歓声を挙げていて、A組の奴らの何人かは面白くなさそうにしているのも多い。
……まあ、彼らの気持ちも理解できないわけでもない。
何しろ俺と戦った奴は全員足を引っ掛けられ、転ばされた挙げ句顔面に向かって拳やら足やらを寸止めされるだけで終了なんだからな。
俺としてもなんとも歯ごたえのない結果になってしまったが、特にA組の連中からしてみたら屈辱のなことこの上ないってやつだ。
そこからは淡々としたクルスィの言葉を聞きながら、別の教師と思しき男が俺の方にメダルのようなものを手渡してきた。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
優しげに微笑んでいる男は、なんだかすごく嬉しそうに――いや、それと同時に悲しそうにも見える。
そのまま授賞式に行ってしまった為、エセルカとは話せず仕舞いだったが、終わったと同時に彼女もトタトタとこちらに駆け出してきて、またもや下がってしまった眉のまま、笑顔を向けてきてくれた。
「お、おめでとう! グレリアくん!」
「ありがとう……っていうか負けたのにそんなに嬉しそうな顔するなよな」
「え? だ、だって……嬉しいから……」
負けた直後によくそんな風に喜べるなと思わず苦笑いしてしまった。
俺がそれを指摘すると、あわあわと左右に身体を振って、しまいには「なんでそんな事言うの?」みたいな顔で上目遣いでこっちを見るエセルカ。
「よう! やったなグレリア! 今回はおめでとうと言わせてもらうぜ!」
セイルのように次は絶対負けない! みたいな風に言ってくれればまだ頼もしい気もするんだが……エセルカには無理ってことだな。
その日はとても賑やかな一日で、クラスの連中が総出で俺の優勝を祝ってくれた……といっても言葉をかけてくれただけなんだけどな。
俺の方も満更でもない様子でそれを受け止め、気分良く夕食を終えたその日――なんだか少し歩きたい気分になり、夜の散歩を嗜んでいたときだ。
俺は――花が咲き乱れる場所で一人の少女と出会った。
今までこの学園で見たことのない美しい少女。なぜか、だが。
彼女と満月。そして花々が作り出したその光景に、俺は少し目を惹かれてしまうのであった――。
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