第13幕 ぶつかり合う二人
俺が吉田に完勝してすぐに始まったセイルと筋肉質な貴族との戦いなんだが……それなりに向こうも頑張ってはいるようだったが、最後にはセイルに押し負けてしまった。
恐らく今まで見た貴族達の中で一番強いだろう彼は、武器として大きなハンマーを持参していた。
振り降ろすと音を立ててリングにヒビが入ったし、特注品に見えるそれは、どれだけ地面を叩いても全く無傷の状態を保っていた。
あんな重そうな一撃を繰り出してるところを見ると、いとも容易く骨は折れるんじゃないだろうかと知覚させてくれる。
対するセイルは何を思ったのかナックルを付けただけでリングに上がっていた。
こいつが入学試験の時に使っていたのは――たしか大剣だったはずだ。それも刃が潰れていて、押し切る感じの武器。
最初は何を考えてるんだろう? とも思ったが、実際戦ってみると俺ほどではないにしろかなり動けていた。
重量のある攻撃ってのは威力は申し分ないのだが、動作の一つ一つが遅くなりがちだ。
セイルがやったのはその重い一撃を縫うように避け、二度の拳撃を当て、怯んだ隙に腹に。
そのまま姿勢を変えずに顔面に一撃。これだけだ。
強いて言うならギリギリのラインを中々見つけきれず、何度かヒヤヒヤした攻防を見せられたぐらいか。
あれがもう少し動けるやつが相手だったら完全に終わってたな。
「負けたぜ……それもあんな避け方をされちまってな……今日からお前のことを、好敵手と書いて友と呼ばせてくれ!」
「おう! また戦おうぜ!
と、お互いなにか認めあったようで、戦いが終わった後には清々しい二人の姿があった。
まるで……そう、セイルが好きな腕相撲でも始めるのか? と思うほどのがっちりとした握手を交わし、互いに笑い合う。
L組の方からもなんだか涙を流しながら「青春やぁ……熱い戦いが終わった後のこの展開……まさしく青春やぁ……」とか声が上がったり、なぜかA組の方も神聖なものを見ているような視線を向けているやつがいたりと、色々と語り継がれそうな一戦になってしまった。
――
その後、俺達は順当に勝ち進み、舞台はいよいよ準決勝。あれからもA組L組問わずに色々な奴と戦ったのだが……俺が当たったのはまさかのそのセイルだった。
「グレリア、お前とやれるなんてな……嬉しいぜ」
まるで心底心待ちにしていたかのように期待に胸を膨らませたかのような表情をしているセイルだが、彼の武器は相変わらずナックル。
「それはいいんだが……それで大丈夫なのか?」
「当たり前だ! 俺はお前と拳と拳の勝負がしたくてこの腕一本でここまで来たんだからな!」
おーおー、それは随分熱い奴だ。そういう奴、俺は嫌いじゃない。
なら俺も存分に答えてやろう。それが最低限の礼儀というやつだ。
「よし、そういうことなら望み通り戦ってやるよ。お互い、本気でな」
「ああ、胸、借りるつもりでいくぜ」
軽い調子で笑ってやると、セイルも戦うべき相手を見つけたとより一層笑みを深める。
そのまま、試合開始の合図がクルスィから告げられた瞬間――俺は一気に加速した。
――◇――
初めて試験場で見た時、正直痺れた。
剣を持った相手に何の物怖じもすることなくて、素手一本で戦えるやつ。
そんなの初めてみた。しかもものの数秒で倒しちまうんだからな。
だから、そんな奴とルームメイトになれたのがすげえ嬉しかった。
あいつは普段は何処か冷めたような態度で、あんまり笑ったりしないからそっけなく感じるけど、こっちの話を結構真面目に聞いてくれるし、感情だってないわけじゃない。俺が馬鹿やったらツッコんでくれるしな!
だから憧れたっていやぁいいんだろうか? あいつが素手で戦ってるの見て、俺もあんな風に強くなりたいって思った。
だから筋トレは毎日やったし、素手での戦闘訓練だって積んできた。
それを今日、グレリアと当たった時に活かせると思った……んだが、あいつは俺の予想を遥かに越えてやがった。
「本気でやろう」なんて言ってきたから嬉しくてつい応答したけど、戦いが始まった瞬間、俺は地面に頭をぶつけて目の前にグレリアのかかとが迫ってきやがってたんだからな。
痛がるとか、疑問に思うとか、そんな事思ってる暇なんか全然なかった。正に始まった瞬間から終わっていた。最初からクライマックスだったってこった。
――マジかよ。こんなに実力差、あんのかよ。
「はい、そこまで」
俺は乾いた笑みを浮かべて、改めてグレリアとの力の差を見せつけられたことを実感する。
俺と歳は変わんねぇのに、グレリアは遥か高いところにいやがる。それがすっげぇ悔しくて……いつかぜってぇたどり着くって決めた。
何年かかっても何十年かかっても、あいつに追いついてやる。こんなことぐらいでぜってぇあきらめねー。
とりあえず、今日からまた筋トレしまくってやる!
――そう頑なに誓って、俺のトーナメントは幕を閉じた。
次は決勝戦……グレリアとエセルカの戦いだ。
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