「店内消失」解決編

第89話「消え失せた男の行先は」

「俺が一番最初に思いついたのは、どうやって、じゃなく誰が、ということからだ」

「うん」

「例えばあのディスプレイ」


 俺はカウンター壁にあるキャラクターの写ったディスプレイを指さす。


「あれ?」

「そう、あれ。あの画面、レオポルドたちがこの店に入った時からキャラが変わってないよな?」

「……ああ、そうだな。ちょうど俺たちの前で画面を変えていたからな。覚えてるぞ。確かに変わってないな」

「で、ウィザードはあの画面を三時間ごとに変えていると言っていたんだよな?レオポルドたちの前で画面を変えたのは十二時頃。だとするならば、次に変えるのは十五時になる。だけど、これが変わっていないという事は、ウィザードがいなくなったのは十二時過ぎから十五時までの間ではないか、という推理ができる」

「なるほど。……でも……」


 と、何か言いたげなマリアを制し、


「いや分かってる。これはただ単純にウィザードが画面を変え忘れた可能性もある。あくまでこういう考え方ができるってことな。これからが本題だ」


 俺がそう言うと、三人は居住まいを正す。


「さっきまでの話でもちょろっと出てきたが、レオポルドたちの尾行や張り込みは極秘事項であり、ウィザード、ケリー、モルツ、アッシュリーの四人が知っているとは考えられないんだよな。とするなら、ウィザードがこっそりと外に出るにしろ、犯人が拉致して外に連れ出すにしろ、犯人がウィザードを殺害して死体を外に出すにしろ、誰かの目を気にする必要があると思うか?人通りの多い道でもないし、正面の扉を出て少し行けば森もあるから、そこまで人の目を気にする必要があるかどうかだよな」

「……そうね。あ、でも、正面の扉に魔法石があるじゃない。あの魔法石に映らないように気をつけたんでしょ」

「そう。三人とも、魔法石に映らないように顔を隠して店を出入りしている。つまり、三人とも魔法石の存在は知っているってことだ」

「まあ、魔法石が取り付けられているのは見れば分かるからね」

「まあな。で、裏口の扉には魔法石もないし、崖に挟まれた細い道だから、店の前にある道よりも人の目も少ない。だったら、裏口から出てしまえばいいんじゃないのか?」

「まあそうね。でも、裏口の地面は雨のせいで足跡が残っちゃうじゃない」

「それはそうかもしれないが、レオポルドたちが閉店後に裏口を調べるのは犯人が予知できないことだろ」

「そっか」

「足跡から自分の履いている靴がばれると考えたのなら、誰かが通った痕跡は残ったとしても、足跡を消したりは出来るだろ」

「そうね……あ、待って。崖の上にUFOを探していた人とか、橋の工事をしていた小人さんたちがいるから、犯人は裏口から出れないって判断したんじゃないの?」

「……そうだな。でも、あの五人組は今日、急にあそこで観察を行うことを決めた。そして、あの小人があの橋で工事を行う事を今日思い立って決めた。では、裏口から出たら誰かに見つかってしまうということはあらかじめ予測することはできるのだろうか?」

「えーっと……小人さんたちは近くまで行かないと分からないけど、あのUFOを観察してる人たちは、ウィザードの店に行くまでの道を通るときに分かるでしょ」

「ああ、そうだな。犯人はウィザードの店に行く途中で、裏口のルートが使えないと判断したんだろ。で、ウィザードの店に行く道としては、A町から来る道と、B町から来る道の二つがある。崖の上に人がいることに気づくということは、犯人はA町から来た人物になるだろう」

「えーっと……ウィザード、ケリー、アッシュリーの三人はB町からやって来たから、犯人はモルツってことね」



「……よし、ウィザードが消え失せたのはモルツが関わっているということで良いと思う。で、ウィザードは生きてると思うか?それとももう死んでると思うのか?」


 これまで黙っていたレオポルドが俺に静かに聞いてきた。


「俺の考えがあっているのなら、死んでるだろうな」

「で、この店からどうやってウィザードを外に出したのよ?」

「……答えは簡単だと思うぞ。この店の出入り口は二つ。裏口は地面の痕跡や人の目から誰も出入りしていないだろうと考えられる。対して表の扉はモルツが出入りしているのは確実なんだから、モルツが店を出た時にウィザードを外に出すしか方法はないだろう」

「それは分かるけど、モルツは手ぶらで外に出てたじゃない。一体どうやって運び出すのよ」

「体の中に隠したんだろ」

「へ?」


 マリアが気の抜けたような声を出す。


「だから、モルツはウィザードの死体を食べることによって処理したんだよ。胃の中は魔法石の映像じゃ見えないだろ」

「た、食べた……」

「ああ。モルツって大食いなんだろ?自分の背丈くらいの肉を骨までぺろりと食べてしまうくらいの」

「は、はい、確かに捜査記録にそうありましたけど……」


 死体を食べるのを想像してるのか、マリアとドロシーの顔が少し引きつっている。


「……まあ、死体を食ってるとなると、殺人を立証するのは難しそうだな……とりあえず、事情聴取でもするか」


 レオポルドは部下に手短に指示を出した。

 

 数分後。部下から連絡を受けたレオポルドの表情は少し変わった。


「どうかしたのか?」

「今モルツを呼び出しに行ったやつから連絡を受けたんだが、モルツが死んでるのを発見したらしい」

「え?殺されたの?」

「いえ、それはまだ分かってないっすね。どうやら毒でも飲んだような感じらしい」

「毒……」


 俺はあることを思い出した。


「何か分かったのか?」

「ああ。ウィザードって獣人の血を引いてるんだったよな?ホッキョクグマの獣人だって聞いたが、ホッキョクグマの肝臓には毒があるって聞いたことがあるんだよ」

「……なるほどな。つまり、自分が殺害し食したウィザードの毒によってモルツは死んだことか」


 

 

「店内消失」終わり



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