第67話「仮装は解かれるものです」

 着替え等が終わり、再びみんな集まると、事情聴取が始まった。まず、仮装状態を解いたムーアさんの遺体の確認をしたのち、簡単な聴取から始まった。

 ムーアさんとの関係や、事件までのアリバイを聞かれた。

 僕たちはレインさんに仮装をしてもらった後はずっと三人一緒にいたから、アリバイはある。

 ケリーさんは僕たちと会うまでは一人で行動していたみたいだけど、ムーアさんが墜落してくる瞬間には一緒にいたことと、現場にトリックが施された形跡もなかったため、おそらく犯人じゃないと思われる。

 他の四人に関しては、マリアさんに呼ばれてくるまでは一人で行動していたため、アリバイはない状態だ。みんな集合時間まで特に誰とも約束をしていなかったからこういうことになったんだろう。

 被害者のムーアさんに関しても、事件までの足取りは正確につかめていないが、墜落する十分前に山に登っていくゴーレムを見たという目撃情報はあるらしい。ただし、それが確実にムーアさんかどうかは断言できないのと、連れがいたのかも自信がないそうだ。

 また、ゴーレムの姿をした人が一人で屋台等を回っていたという目撃情報があることや、誰もムーアさんと一緒に行動していたという人がいないため、レインさんに仮装を施されて、事件が起きるまで一人で行動していただろう、と思われる。


「あ、あの、こうして話を聞かれている訳ですけど、自分たちって疑われているんですかね」


 恐る恐るといった感じでジャックさんが尋ねる。


「まあ、そうですね」


 とトウマ君がそれにあっさりと答えた。


「一つ聞きますけど、この場にいるメンバー以外で、今日あの場所に集合することとかを言った人はいますか?」


 みんな首を横に振る。


「なら、犯人はこの中にいるので間違いないんじゃないですかね。俺もさっき墜落現場を見ましたけど、被害者は自分の意思であそこの現場まで行っています。つまり、犯人に誘われ墜落現場に赴いたんだろう。もし、通り魔的な犯行なら、見知らぬ奴に人目のつかない場所まで連れていかれるわけですから、争った形跡とか抵抗した形跡があるでしょう」

「それがないってことは、犯人は被害者と顔見知りってことね」

「そう。で、さっきの時間で調べてもらったけど、あの水風船は今日出ている屋台で売られているもので、その店の人曰く、少なくともゴーレム相手に水風船を売った覚えはないそうだ」


 ちなみに、その水風船にはムーアさんともう一人何者かが触れた形跡があったそうだ。


「……ってことは、犯人がその水風船を買ったってことね」

「ああ。ゴーレムはさすがに珍しいからな。屋台に来てたら覚えてるだってさ」


 様々な種族がイベントに来ているが、ゴーレムはかなり数が少ない。


「そうなんだ。他の人は?」

「ああ。狼男とかドラキュラとか魔女とかなら分からないってさ」

「そっか。まあ、野良狼男とか普通にいるもんね」

「普通にいんの?っていうか野良狼男って」


 殺人事件の捜査のはずなんだけど、トウマ君とマリアさんのなんだか緊張感のないやり取りをしている。


「……ところで、この仮装って誰がどれをやるとかって決まってたりするんすか」

「いや、私が適当にその場のノリで決めたから、誰がどれをするとかは決まってないけど」

 

 トウマ君の質問にレインさんが答える。


「じゃあ、誰かに仮装の内容を教えたわけでもないんですね」

「会ってからのお楽しみにしようと思ってて」

「仮装していった順番は?」

「最初はケリーで、その次がマーフィーさん。そしてムーア、ジャック、シェリーちゃんで最後に小金井達だったけど……」

「その順番は何か理由が?」

「ああ、イベント会場から遠い家の人からやっていっただけだけど」

「仮装にかかる時間はどのくらいでした?」

「あー一人三十分くらいかな」


 確かに、三十分くらいで終わった気がする。僕たちは三人いるから、一時間半くらいはかかったけど。


「このメンバーで冒険に行ったりするの?」


 トウマ君の横から、マリアさんが質問する。


「まあ、そうですね。全員がそろう事はあんまりないですけど、ある程度人数が集まったらダンジョンに行ったりしますね。……えーっとこれって何か関係が?」


 年長者のマーフィーさんが代表して答える。

 ちなみに、レベルもマーフィーさんが一番高い。確かレベル30だったはず。次がムーアさんで、レインさんとジャックさんがそれに続く。ケリーさん、シェリーさんと続き、僕たちがレベル18で一番低いことになる。


「いえ、なんとなく気になったから聞いてみただけよ」

「自由か」

「ほら、ユノちゃんが帰ってくるまで暇だから、場をつなごうかと思って。トウマからは何かないの?」

「ん?あーそうだなー……」


 少し考え込み、トウマ君はある人の方を向き、


「ムーアさんを突き落としたのはあなたですよね?」


 と言った。

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