第39話「事件解決まではあと少し………のはず」

 翌日。俺は再び迷路洞窟に来ていた。

 別に現場に行ったところで、特に新しい発見もないだろうけども、なんとなく気が向いたのだ。

 ただ、前回みたいに何時間も迷うのは面倒なので、マリアのアイテム(昨日の音痴なボール)を転がして、道案内させる。

 このボールのおかげで、スライムとも遭遇することがないのだが、一応右手には剣を持っておく。

 といっても、昨日この剣を振り回したおかげで、剣先とかがだいぶボロボロになっている。あまり使いものにはならないけど、ないよりはましだ。そしてマリアは昨日と同じように俺の後ろをついてくる。


 そして、迷路洞窟に入ってから三十分ほどでゴールについた。

「でまあ、もう一度現場に来たわけだけど……棺以外にはなんもないからな」

「そうね。でも、本で読んだことあるけど、現場百万回って言うんでしょ?」

「現場百遍じゃないかな。さすがに百万回も現場に行ってたら、寿命が来ると思う」

 またなんかおかしな本で間違った情報を覚えてるみたいだ。

 そんな会話をしながら、俺とマリアは棺の蓋を開ける。中には四角い箱が入っていた。

「それはなんだ?」

 マリアの手元へと行ったそれを見ながら、聞いてみる。見た目はお菓子とか入っているような箱だ。

「これ?ゼリーの詰め合わせね」

「お中元かよ」

 聞けば、ダンジョンで手に入れられるアイテムはバラエティーに富んでおり、武器や防具だけでなく、食べ物とかも豊富らしい。でも、食べたらレベルが上がるとかそういうのはなく、ただただおいしいだけみたいだが。

 棺の中をみるが、昨日は死体から流れ出た血とかの汚れも、今はもう綺麗になっていた。マリアいわく、その辺はなんか不思議な力があるみたいだ。

「そういやさ、こういうダンジョンから、一発でダンジョンの外まで出る魔法とか道具とかないのか?」

 ダンジョンの外から中へと瞬間移動する魔法はなくても、その逆はゲームとかでもよくある気がする。

「ああ、まあ一応あるわね。でも、昨日ダンジョンの出入りを調べてもらったでしょ?もしそういう魔法とか道具をつかってたら、入った人数と出ていった人数が合わなくなるでしょ」

 そういえばそうだな。昨日ユノに調べてもらったときに、洞窟に出入りした人数に齟齬はなかった。

「で、今思ったんだけど、凶器のナイフだけ、サイコキネシス的な力で動かして、犯人がその場にいなくても刺殺できたりとかはしないよな?」

「まあ、ほとんど無理ね。エリックじゃなくて、ナイフが刺さるのが誰でもよかったとしても、魔法がかけられた痕跡がナイフに残るからね」

 しかし、ナイフに魔法がかけられた痕跡はなかった。ナイフだけでなく、エリック自体に魔法をかけたような痕跡はなかった。

 そもそも、スライムしか出てこない洞窟で、しかも魔法を使えば反響とかで自分の身が危なくなるということで、洞窟全体を見ても魔法が使われた形跡はなかったらしい。

 なお魔力を消費しない魔法は、使用されたか分からないものの、そのような魔法で人を殺害するのは不可能なため、考慮しなくて大丈夫だ。


 結局、一時間くらい迷路洞窟の中で色々行動していたが、特に新たな発見もなく、俺とマリアは街へと戻った。

 ぼんやりと、頭の中で引っかかっていることはあるが、まだ具体的な形となって出ていない。

 容疑者は三人しかいないから、何かに気づければすぐに犯人なんてわかると思うのだが。

 まあ、あんまり悩みすぎてもしかたないということで、どこかで昼食を食べようとお店を探しているとき、前の方にニッキイがいるのを見つけた。昨日とは違い、ラフな私服だったが、どこか慌てたようすだった。

「……どうかしたのか?」

 俺の存在に気が付いたのか、近くまで駆け寄ってきたニッキイにそう尋ねると、

「ああ、大変なことになって。実は……」




 

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