第130話 華燭ノ典狂騒曲 七
さて、ケーキは出来上がった。
あたしの目の前には牡丹の花飾りでいっぱいの真っ白なウェディングケーキが、季節外れの雪みたいにその姿を見せてる。
もう、めっちゃ頑張ったから!
慣れない木綿の布で作った絞り出し袋でアイシングを丁寧にパイピングして、パールの粒みたいにちょんちょんとちりばめたり、レースみたいに細かい模様を描いたり……ちょっとしか練習できなかった割には、かなりいい感じになったと思う。現代にいたときに動画で見た、ザ・イギリス!って雰囲気のウェディングケーキによく似てる。
……一段だけだけど。本当はイギリスのウェディングケーキは三段にしないといけないんだけど、さすがにそれは許していただきたい……。倒壊する未来しか見えない……。結婚式なのにしょっぱなからそれは縁起悪すぎでしょ、マジで。
じっくりケーキを眺めて満足したあと、あたしは取り寄せた紗を手に取った。白くて薄くて透けるような上質の紗。
これは縫子さんに頼んで、あるものに加工するんだ。牡丹さんは白無垢を着る予定だけど、そこにチェスターさんの国の要素を入れたらすげいよくない?って。
牡丹さんもチェスターさんも喜んでくれるかな……結婚式プロデュースは任せてもらえたから、あとはどんだけ二人に喜んでもらえるか、サプライズを仕込めるかがカギになる。……もちろん、列席者のみんなも楽しめるような式にして、ね。
「山吹殿、入ってようおりんすか」
「あ、桔梗殿……ようおりんす」
すこし考えてあたしは答えた。
いまの座敷の中を見せたらいろいろバレちゃうけど……桔梗なら、一緒に参列してもらうのもいいかな、と思って。
徳之進さんも「信頼できる者なら好き勝手に呼ぶがよい」って言ってたし……桔梗はあたしの信頼できる人だから……。
「失礼いたしんす。茶でも飲もうか……と?! これはいかがなさんした?」
「牡丹殿の婚礼の用意でおりんす」
「ああ……。……? それがなぜ山吹殿の座敷に?」
「実はの……」
こんな感じあんな感じ、とざっくり説明してたら、もとから色の白かった桔梗の顔がさらに白くなっていく。
「そそそ、それはまこと……」
「まことでおりんす」
「いないないな、悪ふざけはほどほどにしなんし」
「ふざけてなどおりんせん。ほんに公方さまの御城で牡丹殿の婚礼を行いまする」
「……あれ」
一言だけつぶやいて、桔梗はその場にへたり込んでしまった。
「桔梗殿、桔梗殿」
「あ……ああ……ああ……気が遠く……」
「それは大ごと! なにやら気付けでも持ちなんすか」
「あ、熱い茶を……」
「あい、ちょいと待ちなんし」
それからあたしは、急いで飯炊き場であつーいお茶を分けてもらい、桔梗のもとに戻る。
その湯飲みを手にした桔梗が、そこに息を吹きかけてから、すこしずつ口に運んでいく。
「はあ……一息つきなんした……」
「心の臓は大丈夫でおりんすか?」
「なんとか……」
桔梗はそのまましばらく、ふう、ふう、と呼吸を整えていたけど、やっと落ち着いたみたいで、いつもみたいにきりっと座り直した。
「山吹殿はいつも嘘のようなまことを生きておりんすなあ……」
そして、ちょっと遠い目をしたあと、あたしに視線を戻した。
「その話、詳しくお聞かせなんし」
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