第118話 11/15 書籍2巻発売日記念番外編~絵草子・桔梗と山吹~

「ありがとうござりんした」


 そう言って、あたしの前に座った桔梗が、深々と頭を下げる。

 その横に積みあがっているのは、2冊目のあたしたちの絵草子。前回の絵草子が好評だったんで、2巻目が出たんだ。まあそれはうちらのお話がウケたってことで、マジ嬉しいよね。

 で、桔梗が頭を下げてる理由は……。


「桔梗殿、お顔をおあげなんし」

「されどこたあ華麗な絵姿、まっこと礼の言いようもなく……」


 実は、表紙イラストがヒロインのあたしじゃなくて、サブヒロインの桔梗になったからなんだ。

 見返り美人風に描かれた桔梗はめっちゃ綺麗で、これだけでもこの絵草子は売れそうだな、なんてあたしは考えてる。


「礼なぞ。桔梗殿の名も高うなりんしたならば当たり前のこと。版元も、桔梗殿の絵姿を是非に、と」


 そう言うあたしに、顔を上げた桔梗が照れたように目線を反らす。

 あー……デレた桔梗は可愛いなあ……。


「いないな。元は山吹殿の絵草子。それにわっちの絵姿を使うてくだしったのは山吹殿のお声掛かり。自らの誉れを捨てて他人のことを考えなんすなぞ、並みの器量ではできんせん」

「それもこれも1巻がよう売れたからでありんす。その売れ行きも桔梗殿あってのことでありんすからなあ。桔梗殿の昔語りはほんに評判が高く……」

「あれ、あのような土臭い小娘の戯言、恥ずかし」

「なにを言いなさる。巳千歳自慢の桔梗花魁のまことの胸の内、読めば泣けてたまらぬという人はあまたおりんした」

「恥ずかしと言っておりんすに……。椿の話の方がわっちにはよほどようおりんすよ。みな、幸せになる、これほど良いことはありんせん」

「さよでおりんすなあ……」


 ちな、今回は桜と梅が幸せになります。

 版元に頼み込んで、ラストにはあたしの大好きなハピエンを入れてもらったんだ。

 てゆか全編ハピエンだけどね! あたしが関わる世界はみんな幸せになるの。誰が決めた? あたしが決めた!

 あとは……あたしのちょっと苦い恋のお話とか……吉原一を競う絢爛バトルとか……将軍の妹の縁結びとか……。ファミレスのメニュー並みにバラエティに富んだ話が収録されてる。あたしの正直な気持ちもたくさん書いてもらったから、たくさんの人に読んでもらえたらいいな。


「……夜見世がひけたら、下り酒を持ってきまする。ごしゅを召しつつ絵草子を開きなさんせ。わっちも付き合いますえ」


 桔梗がめずらしくいたずらっぽく笑った。

 そして付け加える。


「月の光で読む絵草子も、また乙なものでありんしょう」



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