第85話 小夜鳴鳥は囀らない 四

 通された部屋で、あたしはひたすら悩んでいた。


 小夜さんに、小夜さんの髪もそれ以外も全部綺麗だって思ってもらうにはどうしたらいいだろう? 確かにこの時代の綺麗の基準からは離れてるかもしれないけど……でも、小夜さんのふわっとした茶髪と明るい茶色の目、それに真っ白な肌はすごく素敵なのに。


 てゆか! それで自信を持てたからって声が出るようになるのかなあ? 今日あたしが話した感じだと、小夜さんは声が出ないのを無理に押し出してるみたいな雰囲気で、突然ああなっちゃったんだとしたら、逆に病気とかも疑った方がいい気がしてきた。御典医さんは違うって診断したそうだけど……。


 だって、産まれたときからずっとあの髪色だったのに、ある日急にあの声になっちゃうって……うーん……でもそのくらい、結婚がプレッシャーだったのかな……?

 わかんないや……あたしも誰かと結婚するとしたらそんな風になるのかな? たとえば……。


 そこで不意に土屋さまの顔が頭に浮かんで、あたしの頬がぽーっと熱くなる。もし土屋さまにプロポーズされたら、ヤバい、あたしもドキドキして声が出なくなっちゃうかも……なんて、そんなんここでは不謹慎だってば! と、ふるふると頭を振る。ふざけちゃダメだね。小夜さんは本気で困ってるんだし、徳之進さんも悲しんでるんだから……。


 そんなこんなで大奥滞在一日目。とりま問題は進展なしで終わってしまった。


「寝よっかな……」


 食事も終えたあたしは、敷かれたふかふかのお布団に横たわる。

 日帰りのつもりだったけど、北邑さんに頼まれてそうもいかなくなってしまった。むしろ、もてなされてしまいました。

 てか、小夜さんお付きの年寄だった北邑さん、実はめっちゃいい人で。あたしと小夜さんの話を聞いて怖い顔になったのも、小夜さんのことを本当に心配してるんだなーっていうのが、二人ですこし話してみて良くわかった。小夜さんガチ勢だからこそ真剣になっちゃうんだって……。


 だって!


『小夜姫さまは本当にお心の清らかなお方です。あのお方がお幸せになれぬのならば、北邑は尼になる覚悟でございます』


 とまで言われっちゃったから!

 いや尼になられたら困りますから。徳之進さんになんて言ったらいいかわかりませんから。小夜さんだって気に病むっしょ。


 でもどうしたらいいかなー……。


「あ」


 目を閉じようとしたとき、ふと、名案が浮かんだ。

 あれ、アレンジしたら良くね?

 吉原でも好評だったアレ。


「うん!いける!」


 思わず笑みが浮かぶ。


「アレなら小夜さん絶対マジ可愛い」


 お布団の中でそんな独り言をつぶやきながら、あたしは眠りに落ちた__。





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