第14話 コーヒーを作ってみたのです

 うふふふふふふ。


 きれいに処理されたたんぽぽの根の山を見てるとなんとなく悪役っぽい笑いがこみあげてくる。


 この時代の一日分としてはかなり大目の賃金を払ったおかげで、男衆は大量のたんぽぽの根っこの泥とひげ根を落とし、あとは刻むだけにしてくれた。


 そう。たんぽぽの根を煎って煮出すとコーヒーそっくりの液体ができるのですよ


 ウェルカム一年分のコーヒーの素!ありがとう大自然!


 あ、そういえば、今まで怒涛の毎日で考える暇もなかったけど、あたしが属する巳千歳みちとせは大見世に限りなく近い中見世。昔は相当に羽振りが良かったようだけど、今ではそうでもないらしい。


 あたしはそこの見世昼三みせちゅうさん。花魁にもランクがあるんだよねー。


 ちな、見世昼三花魁は、時代劇によく出てくる格子の中に座って客引きをしなくていいの花魁なので、遊女的ランクはほぼトップなんだけど、悔しいことにランク的にはさらにその上の花魁がいる。


 それがあの有名な花魁道中をする呼出よびだし花魁。


 もうこの時代だと揚屋はないけどやっぱ道中したいじゃん?

 引手茶屋まで推しを送迎したいじゃん?


 悔しいけど、まずはナンバーワンになるための目標がそこかな。


 でもそれならなんで天下の山吹とかよく言われるのかがイミフ。

 あとあたしの客筋があんなにいいのもイミフ。


 あたしの馴染と言えば、伊兵衛みたいに裕福な町家、あたしでもわかるお武家、それに中大名とはいえ譜代の土屋さま……!!


 ま、いいや。


 難しいことはケーキとコーヒーを飲んでから考えよう。

 とりま見世には出なくていい高級花魁なのはわかったしね。






                 ※※※





 飯炊きに借りた包丁とまな板であたしはざくざくとたんぽぽの根を刻んでいく。

 その様子を桜と梅は微妙に震えながら凝視してる。


 高級遊女になるために育てられてるこの子たちは料理なんかしたことないから、まず、あたしが根を刻むのを納得させるまでが大変だったよ……うん……世界の終りみたいな顔で包丁取り上げようとするんだもんなあ……。


「飯炊きに任せてくだしんす」って言われても、コーヒー用にたんぽぽの根を刻むなんて飯炊きの人にできるわけないじゃん。ぶつ切りにされてもささがきにされても困るし!

 自分でやった方が早い!


「ふう……終わりんした」

「山吹どん、手は、手は大事だいじありんせんか?!」

「何事もござんせんよ」


 自炊、いちおうしてたし。

 むしろ、料理、好きだったし。


「……ようござりんした……山吹どん……」

「あれあれ、梅、泣いては白粉が取れんすよ。ほんに花魁になれば桔梗のような女もおりんす。度胸もなくては名流めいりゅうになれやしやんせん」

「あい……わかりんした……」


 梅の涙を懐紙で拭って、ついでに懐紙に包んだたんぽぽの根を渡す。


「では、これを飯炊きに渡しんしてかまどの灰の中に入れるよう頼んでくんなんし」


 本当は刻んだたんぽぽの根を乾かすのに数日天日干しにするかレンジでチンするんだけど、天日干しで乾くまで待てないし、江戸時代に電子レンジはない!って、あーもう!マ?!


 だから当座飲む分だけ、かまどの残り火がくすぶる灰の中で乾かしちゃおうってわけ。


 だってだってだって!!!


 目の前には卵のふわふわと卵の白身が到着してる!


 我慢できなくてはしっこをかじってみたけど……名前の通りふわっふわでとろけそうで生ドーナツみたいで感動したよぉ……!!!


 早く!早くこれをコーヒーと一緒に食べたい!!

 メレンゲと金平糖でデコって!


「あと必要なのは薬研やげん炮烙ほうらく、桜の塩漬け……」


 思わずゆらっと立ち上がったあたしを桜が必死で押し留めた。

 これ以上何かやらかされたらたまらないと思ったんだろう。


「それはわっちが整えんす!山吹どんは馴染への文など書いてお待ちなさんせ!」


 あー……えーと、素直にごめんなさい。

 ケーキの魔力に我を失いすぎました……。






<注>

中大名:十万石以下の大名。土屋氏は最終的には九万五千石

薬研やげん:石、根っこ、種など固いものを細かくすりつぶすための道具

炮烙ほうらく:ゴマや茶葉を煎る素焼きの片手鍋のような道具。ここでの炮烙は炮烙の刑とは関係ないです

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