おれは

昨日の夢の中でおれだった

ただのおれ

つまり名前だとか

顔だとか

そんなものは存在しなくて

それでも自分から見える景色が視界に広がっていたから

やはりそれはおれだということがわかる

それってつまりおれってことだよな?

首を動かせば

その角度だけ世界は動いた

おれは夜の体育館で恋人と再会した

抱き合って喜びを分かち合っていた

感動していた

もちろん見覚えなかった

でもそれがおれの恋人だと感知していたのだ

恋人はおれの胸に顔を埋め泣いた

おれは暫くしてからその顔を覗き込んだ

黒目が無かった

白かった

そしてその表情のまま笑っていた

周りの人たちは何も気付いていなかった

「おめでとう」

既に過ぎ去ってしまった遠い再会の瞬間をまだ祝っていた


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