サバイバルライフへ


修学旅行の帰りにおれたちの乗った船が転覆した

「てんぷく」

口に出してみればその語感の含む意外な可愛さに気付くだろう

荒れ狂う海面

波にさらわれそのまま帰って来なかった田中くん

「田中くうーん」

おれたちは叫んだ

おれたちが流れ着いた先の無人島で田中くんと呼ばれていた物体がビーチにちんぽまるだしで横たわっていた

カニが田中くんを捕食していた

「やめろよ!」

おれはカニを素手で引き剥がした

そして叫んだ

「カニ、ゲットだぜえ」

クラス中から惜しみない拍手が送られた

やればできるのだこのおれは

「ようし、この勢いを保持して田中くんを餌にしてどんどんカニを獲ろう!」

非人道的な手段も生きるために肯定されなければならなかったのだ

おれたちの中で何かが壊れた

そしてあの激しい煮えたぎる夕陽のようなものが心の内に芽生えた

視界の先に並べ立ててある物の意味が一瞬で変容した

田中くんの頭上ではハゲタカがぐるぐると旋回している

「奪われてなるものかよ!」

おれは誓った

見張り役に常時、一名がカニ集め器と化した田中くんの側につくことになった

「くせえしやだよ」

そう言う者も中にはいた

おれたちは班に分かれそれぞれに割り振られた行動を開始した

修学旅行の引率だった教頭先生は茫然とし

今、見ればそれはただの役立たずの爺さんだった

貝を拾いに行かせたが三個しか拾って来なかった

少ない夕食を分け合い皆で食べた

勿論、ただの爺さんなんかに食わせてやる食料は無いので向こうの方で一人ぽつんと体育座りをさせている

弱肉強食

(その暗闇の向こうでは田中くんも黙っていた)

何か言いたいことでもあるのか?

おれたちは焚き火を燃やして暖をとった

必ず生きて帰ると誓った

揺らめく炎に照らされたおれの表情は生徒会長として皆を守ってやらねばという強い使命感で少しこわばっていたのかもしれない

就寝前に皆を集めて言った

「おい、女子は必ず一ヶ所に集まって寝るんだレイプされるぞ」

このクラスのことは誰よりもおれが知っている

規律を乱す行為に及んだ者には制裁が加えられることになった

その後、無事救助されるまでの間に眼球に枝が刺さった人間は七名に及んだ

おれは一本

教頭先生は三本

教頭先生は言った

「………あんなロリータエンジェルズが同じ島にいるのかと思うと年甲斐もなく興奮して夜も眠れなかったですよ」

わたしの方が被害者だとでも言わんばかりの言い草

だがこれにはおれも同感だった

帰り際、救命艇の中でがっちりと握手を交わし合った

先生と生徒という垣根を越え本物の絆がそこに生まれたのだ

だが帰還し普段の日常生活に戻ると教頭は再びおれたち生徒に対して残虐な本性を現し始めた

「早くお道具箱を整頓しなさいこのボケナシュども!」

あの日の絆は一体、何処へ行ってしまったのだろう


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