近所のパン屋


パン職人がパンを捏ねていた

パン職人だからパンを捏ねるのだ

バーテンダーはパンを捏ねない

パンを捏ねるバーテンダーもいるかもしれないがそいつは特殊だ

………とにかく

わたしの住む地域ではパン職人がパンを捏ねていた

そしてその姿がガラスウィンドウ越しにわざと確認、出来るようになっていた

店の前を通りがかる度にわたしは

(パンを捏ねるのは楽しそうだな………)

と思っていた

羨ましそうにその行為を眺めた

時にはあからさまに指をくわえて視線が合っても注視し続けた

だが実際にパンを捏ねてみたらきっと何の面白味も無いのだろう

それは容易に想像することが可能だった

パン職人が捏ねているパン生地の上に羽虫がとまった

わたしはその後の展開に注目した

次の瞬間、パン生地の中に羽虫は呑み込まれて消えた

パン職人の表情は何一つ変わらなかった


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る