第27話 勘違いの行先

「アルム見つけたっ!」

「え? ああ、カレンか」


 昨日は半日ゆっくり過ごせたので、今日は様子見を兼ねて森の調査に赴いた。

 案の定、森に獣の気配はなく、痕跡も辿ることが出来なかったので、早めに切り上げて戻ってきた所にカレンを含めた友人たちに見つかった。


「アルムっ。説明して貰うからねっ」

「うん? 何を?」


 僕を待ち伏せしていたのは、カレンに加えて先日助けたミミと、友達の一人であるトムであった。

 トムは商人の家の息子で、パープル色の髪を綺麗に整え、眼鏡を掛けているからか、知的な印象を受ける。


「カレンはミミの事について聞きたいんだよ。あの時、警備隊の人たちと直ぐに行っちゃったでしょ」

「あ~、その話ね」


 確か、ミミを連れて戻って来た時に、カレンが何か言いたそうだったけど、時間も遅かったし、色々立て込んでいたから碌な説明もしていなかった。


「アル君、お話できない?」


 あの日の夜に姉さんに預けてから、忙しくて確認できなかったけど、攫われたにしては元気そうなミミが居た。攫われている間、気を失っていたので下手なトラウマが出来ていなくて良かったと思う。


「じゃあ、何時もの所でどう?」

「……ダメ。今森に入るのは禁止されてるの」

「あー、確かにね」


 ゴブリンが徘徊している森に、子供達だけで入る許可は出せない。僕が毎年申請している許可書のような物が無い限り、安全が確保されるまでは禁止されるだろう。

 特に、ミミが攫われたばかりだから、大人たちも敏感になっている筈だ。


「だから、広場に行くわよ。あそこなら邪魔がはいらないから」

「ああ、あそこね。わかったよ」


 広場と言っても、そこは人が集まるような場所ではなく、ミミの実家が保有する農具を引っ張る牛を放牧する牧草地帯の事を指す。

 一応、村の中にも広場と呼ばれる場所は有るけど、それ程広くないし、村人が露天のような物を広げているので、あまり騒がしく遊ぶわけにはいかない。

 それに引き換え、牧草地帯は滅多に人が来ないので、騒がしくしても怒られない僕たちの遊び場の一つだ。ただ、不満があるとすれば、若干牛のフンが臭いくらいだろう。


「あの、そんな掴まなくても逃げないよ?」


 広場に向かうのに、カレンを先頭に、僕の両脇をトムとミミが腕を固めて歩く。ミミなんかは慎重さもあって、偶にぶら下がって遊んでるくらいだ。


「ダメっ。アルムが話してくれるまで逃がさないんだからっ」

「いや、逃げないよ」


 別に皆と遊ぶのが嫌なわけじゃない。ただ、森から戻って来たばかりだから、一旦狩猟道具を置いてから遊びたい。

 でも、カレンの様子では、僕の要求は通りそうにないので、半ばあきらめている。


「着いたわよっ!」


 森側からしたら、丁度村の反対側にあるこの広場。

 いくら村のような小さな規模でも、端から端に移動するには、それなりの時間がかかる。

 その間、両脇を拘束された状態で歩けば、村民の視線を集めてしまう。明日にはこの話も、村中に知れ渡っているだろう。


「さあ、説明してもらうからねっ」

「えっと、何を話せばいいのかな?」


 先程から説明を求められているけど、正直カレンが何を聞きたいのか分からない。そもそも当事者であるミミがいる時点で、僕から何か聞くよりも詳しい話が聞けるはずだ。


「それは何故アルムがコロニー討伐に行く事になったかってことよっ」

「そうですね。なぜアルムが危険なコロニー討伐に行ったのか聞きたいです」

「ウチはアルムにお礼を言いに来たの。パパとママがちゃんとお礼しなさいって言ってたの」


 ああ、みんな僕の心配をしてくれていたんだ。

確かに僕も姉さんが一緒に行くと聞いた時は、怪我をしないか心配だったから、皆の気持ちは分かる。

 それが分かれば、何だか凄く納得がいった。

 ミミがゴブリンに攫われたばかりで、みんな危ない事に敏感になっている中で、僕がその原因であるゴブリンのコロニー討伐に付いて行ったと聞けば、気になってしまうのも仕方がない。


「えーっと、じゃあコロニー討伐で僕がやったことを話すね」


 多分、みんなが聞きたいのは、コロニー討伐が始まってからの話だとおもうから、ある程度選別して僕の体験を話す事にする。

 移動している時の話なんて聞いても面白くないだろうから、木の上から観察していた討伐風景を、実況風味でかさ増ししておけば丁度良い物語になるだろう。


「まずはね——」


 案の定、皆引き込まれるように僕の話を聞き入った。

 トムはインテリだけど、男の子なだけあって、こういった話は好きだし、ミミも英雄譚なんかが好きだから、それっぽく話せば喜んで聞いてくれる。

 ただカレンだけは、話は確り聞いているけど、何か難しい顔をしている。

 それは兎も角、討伐後半は、シーラ姉ちゃんの救出に向かっていたから、適当に繋ぎの話を作って、貴族令嬢救出劇を大げさに表現すれば、物語としては上々。

 登場人物に、若干の変更があるけど、物語を盛り上げる為だから、そこは目を瞑ってほしい。


「——を見事救出。お姫様抱っこをして村へと帰還しました。おしまい」

「「おお~」」


 オーディエンスはスタンディングオベレーション!

なんてことは無く、トムもミミも普通に喜んでくれた。狩人に話の組み立て方を求めたらいけないね。

 なんにしても、これで僕がコロニー討伐に付いて行った理由は理解してもらえたと思う。案内人の少年として物語にも少しだけ登場しているから、僕が何していたかは理解してもらえると思う。


「……結局、アルムは何をしていたのよ?」

「えっと、殆ど見張りだよ」


 カレンは僕の正面に回ると、視線を合わせて問い詰める。

 その力強い視線に、思わず逸らしてしまいそうになるが、何故かここは逃げちゃだめだと思いとどまり、真直ぐその視線を受け止める。


「じゃあ、危ない事はしてないのね?」

「うん、ゴモンのおっちゃんがずっと近くに居てくれたからね。危ない事なんて何も無かったよ」


 実際、本当に危険な事などなかった。ゴブリンに襲われもしなかったし、シーラ姉ちゃんを助ける時ですら、僕は後方で魔糸を操るだけですべてが終わってしまった。

 多少手を出そうかとも思ったけど、殆ど瞬殺でゴブリンがやられていくので、手を出す暇も無かったという方が正しいかもしれない。


「あっそ、まあ危険な事をしなかったのならいいわ」


 カレンは、急に興味を失くしたかのように視線をそらし、そっぽを向いてしまった。

 先程まで、有無を言わせない態度は何処へ行ったのか、今度は一転顔も合わせてくれない。先程から彼女は何がしたいのか、まるで思い当たる節がない。

 正直、訳が分からない状況に、トムとミミへ助けを求める様に視線を向けると、何故か二人ともニヤケ面で、僕とカレンを交互に見ている。

 何が面白いのか、思い当たる事も無く、ほとほと困っていると、トムがにやけた面のままカレンの方を指さしたので、僕はちょっと強引にカレンの顔を覗き込んだ。


「あっ」


 僕はその顔を見て察してしまった。そこには、安堵の表情を浮かべるカレンが居たのだ。

 どうやら僕は、彼女に相当心配をかけていたらしい。

 でも納得のいく部分はある。ミミが連れ去られた時も、碌な説明をしていなかったし、次の日にはそのままコロニー討伐に出発。そして予定では日帰りと言っていたのに、諸々の事情があって一日延長することになった。

 彼女にとって、今回の騒動はずっと蚊帳の外だったのだ。その間に友達が危険な目に合い、別の友達がその原因の排除に向かったとなれば、責任感の高いカレンは何処に感情をぶつけて良いのか分からなくなってしまったのだろう。

 それがちょっと暴走して、突拍子もない行動に繋がったのだ。

 それなら、顔を覗き込んだ代償に頂いた強烈なチョップも安い代償だろう。こんなに心配してくれるなんて友達冥利に尽きる。

 だから、遅くなったけど、この言葉で答えよう。


「ただいま。カレン」

「……おかえり、馬鹿アルム」


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