第18話 コロニー討伐、遭遇⁉
鼻水を垂らしながら泣く女の子、綺麗なスカイブルーの髪を短く切り揃え、その言動に見合う幼い顔立ち、その名は——。
「あっ、アルム君であります」
「久しぶり、シーラ姉ちゃん」
彼女はお隣の村、パディー村を治める領主家の娘、所謂貴族令嬢だ。
何故貴族令嬢であるシーラ姉ちゃんが、ゴブリンに簀巻きにされていたのか謎だが、取り敢えず今は目下の問題を解決しよう。
「取り敢えず、これを羽織ってね」
「? ローブでありますか?」
「うん、女子がそんなに肌を出してちゃいけないよ」
「え? ……っ!?」
今、シーラ姉ちゃんが来ている服は、至る所が破かれていて、その隙間から下着が覗いている。何故こんな姿になってしまったのか用意に想像できるけど、兎に角今はその姿を隠す必要がある。
「こういったのを扇情的って言うんですかねー?」
「……俺に聞くな」
「か、重ね重ね、感謝するであります」
僕からローブを引っ手繰るように受け取ると、シーラ姉ちゃんは素早くそれを羽織って身体を隠した。
貞操を重んじる貴族の女性にとって、複数のひとからその素肌をみられたなど醜聞でしかないので、ここは口を閉じておくことが皆が幸せになれる唯一の方法だと思う。
「さて、色々とシーラ嬢に聞きたい事もあるが、今はこの場所から離れよう」
「ですねー、血の臭いで何が寄ってくるか分かりませんしねー」
「だね。シーラ姉ちゃん動けそう?」
「はい、自分は大丈夫であります」
それから、手早くゴブリンの魔石を回収して、僕たちはその場を離れた。
尤も、元の位置に戻って来ただけで、それほど現場から離れた訳じゃない。未だにコロニー討伐は続いているので、持ち場を長く開ける訳にはいかないからだ。
ただ、先程まで聞こえていた剣戟の音は、聞こえなくなっている。僕たちが簀巻き——シーラ姉ちゃんの救出をしている間に、コロニー討伐が終わったのかもしれない。
「ケリー、コロニーの様子はどうだ?」
「そうですねー。制圧は終わってるみたいです。解体作業に入ってますねー」
「そうか、引き続き周辺警戒をしてくれ」
「了解」
ケリーさんは再び木の上で警戒任務に就く。コロニーのゴブリンを殲滅したからといって、帰還してくるゴブリンが居ないとも限らないからだ。
「ところで、なんでシーラ姉ちゃんはゴブリンに捕まっていたの?」
「そうですな。隣村の貴族様がなぜこの村の近くに居るのかも気になりますので、ご説明頂けますか?」
こちらの有無を言わせない迫力に、先程までゴブリンに捕まって疲弊した心のシーラ姉ちゃんに抗う術はなく、どういった経緯で捕まったのか話してくれた。
「……分かったであります。実は——」
その話を纏めると、事はシーラ姉ちゃんの実家が治めるパディー村の近くに、ゴブリンたちがコロニーを築いた事に始まる。
ただ、そのコロニーの発見が遅れたせいで、一度だけゴブリンに村が襲われてしまったらしい。その時に、村から幾つかの武器を持ち出されてしまい、その事実を重く受け止めたパディー村の領主は村を上げたコロニー討伐に乗り出したようだ。
結果から言えば、コロニーの討伐は成功したのだが、その時に少なくない武器を持ったゴブリンを取り逃してしまったらしい。
その為、パディー村の警備隊は日常業務を変更して散って行ったゴブリンの討伐に奔走した。しかし、結果的にゴブリンたちは森深くに散ってしまい、全てのゴブリンを討伐することは出来なかった。
しかし、ゴブリンたちに再びコロニーを築かれてしまっては、元も子もないので一部の警備隊から有志を募ってゴブリンの探索をしていた。これに、シーラ姉ちゃんも志願して森深くまで探索している時に、ゴブリンに不意を突かれて部隊は壊滅、その数を減らす事には成功したが、シーラ姉ちゃんは捕まり、他の人は殺されてしまったらしい。
シーラ姉ちゃんが無事なのも、女性であったことと、おそらく散って行ったゴブリンたちは、既にここにあったコロニーに吸収されて、帰属先が変わった為に運ばれてきたのだろう。実際、森深くまで探索していたとは言え、捕まってから丸二日運ばれていたらしい。
その間、泥水の様なものは飲まされていたが、殆ど何も口にしてなかったようで、かなり衰弱しているように見える。
今回、ウッドランド村周辺のゴブリンが増えたのも、この逃げてきたゴブリンたちが合流した事で爆発的に数を増やして一足飛びに拡張行為に及んだのであれば、これまで姿を見せなかったゴブリンが大胆に動いていたのにも説明がつく。
「おそらく次の定期船にて、今回のコロニー討伐の話が伝わるようにしていたのであります」
「成程な。伝達よりも早くゴブリンが力をつけちまったって事だ……」
本来、人の脅威となるゴブリンのコロニー討伐などが行われれば、周辺の村に注意勧告も兼ねて報告をする事を義務付けられている。前回僕が関わったコロニー討伐でも、周辺村へ散って行ったゴブリンたちの事を警戒するように連絡をしている筈だ。
それが、今回パディー村のコロニー討伐は、報告に手を抜いて数日後に出発する定期船で済ませるつもりだったらしい。僕たちのウッドランド村とパディー村の間には大きな湖があるので、定期的に船でのやりとりをしているので、それを利用して報告するつもりだったようだ。
尤も、それで報告が数日おくれることになり、ウッドランド村は何も知らない状態でコロニー討伐に出るはめになったから、何かしらのペナルティーは発生するだろう。まあ、それは上の人たちの仕事なので僕には関係ないけど。
「あー、状況は理解した。俺では判断できないから領主様に託すしかねーな。悪いがシーラ嬢をこのまま送る事はできねーから、一旦ウッドランド村に来てもらうぜ?」
「理解しているであります。お手数を掛けますがよろしくお願いするであります」
まあ、こちらのコロニー討伐は順調だし、元々ウッドランド家とパディー家の関係は良好なので、それ程大きな問題にはならないだろう。
定期船での交流があるので、僕もパディー村の知り合いもいる。だから二つの村が険悪な仲になるのは避けたい。
それに、パディー村では僕の大好きな物を作っているので、それが手に入らなくなるのは何としても阻止しないといけない。
「ゴモンさんー、コロニーの解体が終わって火を付けたみたい。そろそろ集合だよー」
「おう、わかった。ケリーも降りてきてくれっ」
コロニー討伐も佳境に入り、そろそろ僕たちも移動しないといけないのだが、体力が低下しているシーラ姉ちゃんは満足に歩く事が出来ない。
先程の戦闘をした場所から、この元の場所に戻るのにも、かなりの無理をしていたようだったので、正直集合場所に移動するのも大変そうだ。
そうなると、村までのシーラ姉ちゃんの帰還方法を考えないといけない。
「「じー……」」
「え? なんで二人してワタシを凝視するのー? 惚れた?」
「「はぁ」」
「えっ、失礼じゃないー!?」
自力で歩けないなら、誰かに運んでもらうしかない。ゴモンのおっちゃんも同じ考えに至ったようで、同性であるケリーに視線で訴えたのだが、どうやら伝わらなかったようだ。
「自慢じゃないですけどー、ワタシ力は弱いのでシーラさんを担ぐなんて無理ですよ~?」
「……そう言えばそうだった」
「じゃあ、ゴモンのおっちゃ「「それはダメっ!」」ん、え?」
ケリーさんが駄目だとしたら、選択肢は無いので、ゴモンのおっちゃんを推薦したら、シーラ姉ちゃんとケリーさんに食い気味に拒否された。
「解せぬ」
「あ、それゴモンのおっちゃんが云うんだ」
セリフを取られました。
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