第183話 仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その二十五

 なんやかんやあって、「超・魔導機☆」が巨大化したころ、シーマ十四世殿下とはつ江ばあさんはというと……


「えーと……、これはどういう状況なんだ?」


「ほうほう、今日は福引大会なんだねぇ」


 ……かたやヒゲと尻尾をダラリと垂らし、かたやコクコクとうなずきながら、窓辺で様子をうかがっていた。


 そんな中、モロコシが目を凝らしながら、尻尾の先をクニャリと曲げた。


「あれ? あの福引のあれ、手に何か持ってるよ?」


「みみ?」


 モロコシの言葉に、ミミも背伸びをしながら、窓を覗き込んだ。


 そして……


「みぃー!?」


 ……短い尻尾の毛をボンッと逆立てて、ぴょいんと飛び上がった。


「ミミ! どうしたんだ!?」

「ミミちゃんや! どうしたんだい!?」

「ミミちゃん! どうしたの!?」


 シーマ、はつ江、モロコシは突然の大声に驚いて振り返った。すると、ミミはピョンピョンと飛び跳ねながら、窓の外を指差した。


「ママ! ママ!」


 ミミの必死な訴えに、一同は再び窓に顔を向けて、目を凝らした。

 視線の先にはミミの言葉通り、四本腕の一つに捕らえられたバービーの姿があった。


「あれまぁよ!? ばーびーさんじゃないかい!?」


「それに、五郎左衛門さんと、樫村さんもいる!!」


「あのウニョンとしてるのは、ボウラック博士だろうな……」


 はつ江、モロコシ、シーマの言葉通り、「超・魔導機☆」の手には役場後に集合していた面々が、全員捕らえられいた。


「え……、な、なんで巨大化? そんな改造はしてない……、はず……、なのに……」


「げ、原因はとにかく、一大事なのだ!」


 わけの分からない状況に、ゴルトとプルソンもオロオロとしだす。


 そんな中、やけに落ち着いた様子の魔王が、小さくうなずいた。


「うむ、こういうときは、ニュース速報を見てみよう」


 そう言いながら指をパチリと鳴らすと、部屋の中央に大型のパネルが現れた。


 一同がハラハラしながら覗き込むと……



「わー! 魔界の皆さま! これは一大事ですぞ! 旧カワウソ村で、アンアンデンティファイドでミステリィな福引のときに回すアレが暴れております!」



 ……なぜか骸骨姿に戻ったリッチーが、わざとらしく慌てながら、マイクを握りしめて状況をリポートしていた。


 一同はハラハラした表情のまま、パネルを見つめていたが、シーマだけはジトっとした目を魔王に向けた。


「なあ、兄貴、あれって……」


「ほら、シーマ! リッチーが重要情報を追加するみたいだぞ!」


「……」


 魔王に促され、シーマはジトっとした目つきのまま、パネルを再び覗き込んだ。



「なんと! 魔界随一の怪力であるオーク族と、魔界随一の戦闘センスを持つヴェロキラプトル種のリザードマン族と、魔界随一の忍術使いである柴崎家の五男と、魔界随一の掴みどころのなさを誇るスライム族の方々が、やすやすと捕まっていますぞ!」


「きゃー、助けてー」


「うわー、困ってしまったでござるー」


「え、えーと……、大変なことに、なっていますー……」


「……助けてくれ」


「これは危険! あの巨大な福引のときに回すアレ、ものすごく危険ですぞ!」



 わざとらしく慌てるリッチーと、棒読みで助けを求める四名の様子を受け、シーマは再びジトっとした目を魔王に向けた。


「なあ……、兄貴さぁ……、やっぱりあれって……」


「ほら! シーマ! またなんか動きがあるみたいだぞ!」


「……」


 またしても魔王に促され、シーマはジトっとした目をパネルに向けた。



「おっと! どこからか、羽音が聞こえてまいりましたぞ! あ、あれは!?」


「そこのデカブツ! バービー姐さんを放しやがれ!」


「柴崎! 今助けるでおじゃるよ!」


「樫村様はお館様の古くからのご友人、これ以上の狼藉は許しませんわ!」


「な、なんと! 直翅目最強と謳われるムラサキダンダラオオイナゴと、伝説の直翅目ウスベニクジャクバッタと、実は地味に有能なミズタマシロガネクイバッタが勇敢に立ち向かっていきます!」


「ごめんね! そのお願いは叶えられないよ!」


  ガラガラガラ

  ポヒッ


「うわぁー!?」

「あーれー!?」

「きゃー!?」


「あぁっと! しかしながら、勇敢な直翅目たちは、『見た目は派手だけどダメージなく適度な距離に吹き飛ばす光弾』を受けて、飛ばされてしまいましたぞ!」


 

 リッチーがやけに詳しく実況をする中、モロコシが耳をペタンと伏せながらシーマに顔を向けた。


「殿下、どうしよう……、ミズタマさんと、カトリーヌさんと、ヴィヴィアンさんが……」


「あー、モロコシ、心配しなくても大丈夫だ。全員絶対に無事だから」


「うん……、みんな強いもんね……」


「あー、それもあるんだけど……」


 不安げなモロコシから顔をそらし、シーマはまたしても魔王にジトっとした目をを向けた。


「兄貴、本当にさぁ……」


「ほら、シーマ! このフェーズでの最後の動きがある……、みたいだぞ!」


「……そうか」


 シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らしながら、パネルに顔を戻した。



「テメェ! よくもヴィヴィアンを……! 覚悟しやがれ!」


「ヴィヴィアンをいじめちゃダメー!」

「ヴィヴィアンをいじめちゃダメェ!」


「おぉっと! あちらは素早さに定評がある、バッタ屋さんの面々ですぞ!」


「皆さんを解放してください!」


「それに、相撲力に定評がある水道局の緑川女史も駆けつけてくれましたぞ!」


「ごめんね! そのお願いは叶えられないよ!」


  ガラガラガラ

  ポヒッ

  ポヒッ

  ポヒッ

  ポヒッ


「うわぁっ!?」


「わーっ!?」

「わぁっ!?」


「キャァッ!?」


「なんと! 『見た目は派手だけどダメージなく適度な距離に吹き飛ばす光弾』はバッタ屋さんの素早さをもってしても避けきれず、緑川女史の土俵に踏み留まる根性をもってしても堪えきれないとは! このままでは、魔界が超ヤバいですぞ! いったい、どうすればいいのでありましょうか!!」



 大げさに嘆くリッチーの姿を見て、シーマが深いため息をついた。


「……で、どうやって収拾をつけるつもりなんだ?」


「ヤギさんや、なんとかならないのかい?」


 ジトっとした目のシーマと心配そうなはつ江に尋ねられ、魔王……


「二人とも、大丈夫なのだ!」


 ……ではなく、なぜかプルソンが自信満々な表情で胸を張って答えた。


 そして、プルソンは胸を張ったまま……


「魔界のみんながピンチのときは、絶対にバッタ仮面がきてくれるのだ!」


 ……わりと、誰もが予想していたであろう言葉を口にした。


 そんなプルソンの発言を受け……


「うむ、プルソンの言う通りだ」


 魔王は師匠っぽい面持ちでうなずき……


「そうだね……! バッタ仮面さんなら、あのおっきな福引のあれからみんなを助けてくれるよね!」


「みー! みみみみー!」


 モロコシとミミは目を輝かせながらピョインと飛び跳ね……


「そうだぁね。ヤ……、バッタ仮面さんならきっとなんとかしてくれるだぁよ」


 なんとなく事情を察したはつ江は優しく微笑み……


「バッタ……、仮面……?」


 ゴルトは訝しげな表情で首をかしげ……


「ああ……、うん……、まあ……、そうなる、よな……」


 ……シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らした。


 かくして、最終決戦に予定調和の展開が訪れたのだった。

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