第182話 仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その二十四
シーマ十四世殿下一行の話がなんとなくまとまってきたころ、村役場跡では……
「えー、皆さま。本日はお集まりいただき、まことにありがとうございました!」
……燕尾服を着た銀髪ポニーテールの美女が、「超・魔導機⭐︎」を前に、芝居めいたお辞儀をしていた。
「いえ、こちらこそ、ご足労いただき、まことに、ありがとうござい、ました……、あ、でござる!」
変身薬の効果が切れた五郎左衛門が、ぎこちない動きで姿勢を正すと、おなじく変身薬の効果が切れたバービーが、心配そうに首をかしげた。
「ちょっと、ござる大丈夫? さすがに緊張しすぎじゃない?」
「そういうバービー殿は、緊張しなすぎでござるよ……」
そんな二人のやり取りを見て、合流した樫村がポリポリと頭をかきながらうなずいた。
「まあ、緊張するのも無理ねぇよな」
樫村の隣で、ポバールが同意するように、上下にぷるんぷるんと震えた。
「ええ、まったくです。なんたって、魔界一の大魔法使い、リッチー・徒野猊下の、よりによってフルパワー姿の御前なんですからね……」
一回ひっぱたわりには、予想どおりの正体が発表されると、リッチーはカラカラと笑いだした。
「ははははは! お気遣いや、緊張は無用ですぞ! たしかに、フルパワーではありますが、反乱分子たちや、ましては皆様をおどかすために、やってきたわけではありませんから!」
「それじゃあ、猊下はなにしに来たの?」
物怖じせずにバービーが尋ねると、リッチーは不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ、それはですな、バービーさん……」
リッチーは、勿体ぶりながら深く息を吸い込んだ。
そして……
「この『超・魔導機⭐︎』を敵度に暴走させに、参ったのですぞ!」
……そこそこ物騒な言葉を口にした。
当然、一同は……
「な、なんだってー!? で、ござる!」
「え、ちょっと待って!? なんでさ!?」
「なん……、だと……?」
「え、あ、あの? えーと、えーと……」
……わりとバラバラなかんじで、ビックリ仰天した。
そんな慌てふためく一同を見て、リッチーは再びカラカラと笑った。
「はっはっはっ! いやぁ、皆さま! いい驚きっぷりですな!」
「そりゃ、驚くだろ……、なんだってそんなことするんですか?」
樫村が尋ねると、リッチーはコクリとうなずいた。
「それはで、ありますな……、皆さまちょっとお耳を拝借」
手招きをされ、一同はリッチーのもとに集まった。
「じつは、かくかくしかじかで……」
役場跡には、テンプレートなかんじで省略された説明と、ふんふん、という一同の相槌が響いた。
一方そのころ、村長宅の屋上では……
「それにしても、先ほどの蘭子さんの撞木反りは、本当に見事でしたわ!」
「うむ! まったくでおじゃるな!」
「やっぱ、河童の相撲力は半端ねえな……」
「へぇ! そいつぁ、是非ともこの目で見たかったでございやす!」
「蘭子ちゃん、もう一回やってみてー!」
「蘭子ちゃん、もう一回やってみてぇ!」
「えーと、その……」
……直翅目トリオと、忠一忠二を拾って再合流したチョロに褒められ、蘭子がタジタジとしていた。
「あの、撞木反りはかなり激しい技ですし、緊急事態以外は土俵の外で使うわけには……」
冷静さを取り戻した蘭子は、拘束した頭巾たちを治療しながら、恥ずかしそうに答えた。すると、チョロが歯を見せながら、ニカっと笑った。
「強い上に優しいなんて、緑川のお嬢はいい嫁さんになりそうでございやすな!」
「あ、あの、ええと、その……」
蘭子が頬を染めながらワタワタとすると、忠一忠二が顔を見合わせて、コクリとうなずいた。
「ユーたち、つきあっちゃいなよー!」
「ユゥたち、つきあっちゃいなよぉ!」
二人が囃し立てると、チョロが目くじらを立てながら、尻尾をピシャリと振った。
「こら、お前ら! 緑川のお嬢をからかうんじゃねぇ! すっげぇ困ってんだろ!」
「あ、あの、困っているというか、その……、それよりも、チョロさんが合流したということは、また新しい作戦があるんですか?」
蘭子がドギマギしながらも話題を変えると、チョロがハッとした表情で手を打った。
「おっと、こいつぁいけねぇ! 実は、親方からの伝令で、ことが起こるまでここで待機するよう言われてやして」
「みんなで待機ー!」
「みんなで待機ぃ!」
チョロと忠一忠二の言葉に、直翅目トリオと蘭子は首をかしげた。
「お館様から、待機命令ですの?」
「それが新たな作戦でおじゃるか?」
「まあ、それなら待つけどよ……」
「……いったい、いつまで待機すればいいのでしょうか?」
直翅目トリオと蘭子に尋ねられ、チョロは困り顔で頭をかいた。
「それが、『動くタイミングは、ひと目見ればわかるわよ!』、と話を切られちまいまして、アッシにも詳しくは……」
詳しくは分かんねぇんでさぁ、とチョロが答えようとした。
まさにそのとき!
ゴゴゴゴゴゴ!
バキバキバキバキッ!
ドサドサドサッ!
轟音とともに、役場跡の建物が崩れ、土煙が上がった。
そして……
ガラガラガラガラッ!
「ごめんね! そのお願いはかなえられないよ!」
ガラガラガラガラッ!
……その煙の中から、巨大な福引のときに回すアレこと、「超・魔導機⭐︎」が、四本の腕と日本の脚を生やした姿で現れた。
「な、なんですの!? あの巨大な物体は!?」
「『超・魔導機⭐︎』が進化したでおじゃるか!?」
「カトリーヌ、形態をかえることは、進化じゃなくて変態だぜ……」
「これが、親方の言ってた、動くタイミングっつーやつか……」
「間違いなく、そうでしょうね……」
「なんだか福引したくなってきたー!」
「なんだか福引したくなってきたぁ!」
割とわかりやすい動くべきタイミングに、一同は慌てふためいたり、ツッコミを入れたり、固唾を飲んだり、呑気な発言をしたりした。
かくして、旧カワウソ村でのイザコザ、最終決戦が幕を開けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます