第172話 仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十五
旧カワウソ村入口にたどり着いたはつ江ばあさん一行は、魔界水道局の作業着に着替えたのだった。
「魔法でお着替え用の囲いを作れるなんて、蘭子ちゃんはすごいんだねぇ」
「本当でございやすねぇ。囲いを作る魔法は、なかなか難しいもんなのに」
はつ江とチョロがしみじみと感心すると、蘭子はワタワタとしながら首を横に振った。
「いえいえ、た、大したことないですよ! 私も水道局で働くために必須だったので、なんとか覚えたような状態ですし……」
「ほうほう。水道局で働くには、囲いを作る魔法が必要なのかい?」
はつ江が問い返すと、蘭子はコクリとうなずいた。
「はい。水道管の点検など、住民の方が近づくと危ない作業も多いので……、苦手な魔術ではあったんですけどね……」
「周りの安全のために、苦手を克服するなんて、やっぱり緑川のお嬢はすげーでございやす!」
「あ、え、えーと、ありがとう、ございます……」
そんなこんなで、はつ江、チョロ、蘭子の三人が和やかな会話をくりひろげた。すると、水道局の紋章がついた帽子を被ったミズタマが、ミミの頭の上でぴょいんと跳ねた。
「そんじゃあ、着替えも終わったし出発……、なんだろうけど、まずはどこに行きゃいいんだ?」
ミズタマが首をかしげると、わりと話が合っていた緑ローブがポリポリと頬をかいた。
「あー……、じゃあ村の受付け的なところには、私が案内するから」
「本当か!? ありがとうな、緑色のねーちゃん!」
「緑のお姉さん、ありがとう!」
「みみみみみー!」
ミズタマに続いてモロコシとミミも頭を下げると、緑ローブは気まずそうな表情を浮かべた。
「とりあえず、受け付けで話は合わせるけど……、それ以上の協力は難しいと思う……」
どこか申し訳なさそうな声を受け、はつ江がニッコリと笑った。
「大丈夫だぁよ、話を合わせてくれるなら、すっごく助かるだぁよ」
「そうでございやすよ! アッシらだけじゃ、村にいれてもらえねーかもしれねーですからね!」
「そうですね、水道局の調査をかねているといえども、住んでいる方の許可がない限り、強行突破できる法はありませんから」
はつ江、チョロ、蘭子のフォローを受け、緑ローブはどこか照れ臭そうに、そう、と呟いた。
そんな一同の様子を受け、水道局の紋章がついた帽子を被ったヴィヴィアンが翅をパサリと動かした。
「それでは、話がまとまったところで、行きますわよ、皆様!」
ヴィヴィアンの号令に一同は、「おー!」、と鬨の声をあげた。
そして、一同は村への道を進み、トタンで作られた受け付け小屋の前に整列したのだが……
「あー……、うん、水道局の調査ってのは分かったけどね……」
……受け付けに控えた、青いローブの女性にめちゃくちゃいぶかしげな目を向けられいた。
「なによ、ブラウ。なんか文句あるわけ?」
緑ローブが内心冷や冷やしながらも睨みつけると、青ローブは慌てて首を横に振った。
「あ、いや、別にグリュンを疑ってるわけじゃなくてさ……、この面子で調査とかできるの? まあ、カッパの人は水回り関係に強そうだけど……」
「ならいいでしょ!」
いいどよむ青ローブに向かって、緑ローブはダンとあしを踏み鳴らした。
そして……
「たしかにまあ、一見、頼りなさそうだけど……、このおばあちゃんは、水回りの掃除の腕を見込まれて、魔界に呼ばれた人だし!」
「流し台は、お酢を使うとピカピカになるだぁよ!」
「このトカゲの人は……、えーと、人気の童話にいる煙突掃除屋のトカゲのモデルになったひとだから、水道管のつまり掃除とかも得意だし!」
「おう! 詳しくは分かんねーでございやすが、煙突掃除や排水管掃除ならよく親方から任せれてるんで、お手のものですぜ!」
「それと……、この仔猫たちは……、えーと……、フカフカで大人気な水道局のマスコットだし!」
「うん! ぼくたちすっごく、フカフカだよ!」
「みみん!」
「あと、この、デッカイイナゴと小さいバッタは……、なんか、こう……、わりとすごい能力もってる系だし、しかも喋れるし!」
「アタクシに任せていただければ、この鍛え抜いた肉体で、万事華麗に解決して見せますわ!」
「あー……、まあ、頼りなく見えるかもしれねえが、一応、水道管に亀裂が入ってないかとか、水に有害な重金属が混じってないかとかは、調査できるぞ?」
「……というかんじで、わりと優秀な人たちなんだから!」
……わりと、大半が水道局の仕事に関係ないかんじの紹介をした。
すると、青ローブは頭をかきながら、ため息をついた。
「あー、まあ……、水玉のバッタの人は本当にすごい人っぽいし……、水回りをないがしろにすると、色々と面倒なことがおこるし……、とりあえず、入って適当に作業してて」
投げやりな言葉に緑ローブは胸を撫でおろし、他の一同はニッコリとほほえんだ。
「それじゃあ、お邪魔するだぁよ!」
「はいはい、ご随意にどうぞー」
カワウソ村の受け付けには、はつ江のハツラツとした声と、青ローブのやる気のない声がひびいた。
かくして、ミズタマの能力が地味に水道局で大活躍しそうなことが判明しながらも、はつ江ばあさん一行は村への潜入に成功したのだった。
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