第146話 ビックリな一日・その六
魔王とプルソンは、シトリーの報告を受け、ビックリしたりキョトンとしたりしていた。
「シトリー! なんでもっと早く教えてくれなかったのだ!?」
プルソンが耳を反らして尻尾を縦に振ると、シトリーは耳を伏せてしょんぼりとした表情を浮かべた。
「申し訳ございません、私もついさっき報告を受けたもので……」
「そうか……、それなら仕方ないのだ。しかし、困ったのだ……、彼女が来るならちゃんと準備をしないといけないのに……」
そう呟きながら、プルソンも耳を伏せてしょんぼりとした表情を浮かべた。そんな二人を見て、魔王が訝しげに挙手をした。
「あー、プルソン、ちょっといいか?」
「うむ。なんなのだ?」
「セクメトさんって、熱砂の国の貴族のご令嬢だよな?」
「ああ、そのとおりなのだ」
「そんな重要人物が、なぜ連絡もなしに遊びに来ちゃったんだ?」
「それは……」
プルソンが口ごもると、シトリーが尻尾の先をピコピコと動かした。
「それはですね、セクメト様はプルソン様の婚約者なのですよ」
シトリーの答えに、魔王は胸のあたりでポンと手を打った。
「ああ! そう言えば、そうだったな!」
「はい。それで、えーと……、プルソン様はセクメト様がいらっしゃるときは、準備に準備を重ね、威厳に満ちた振る舞いをなさるのですが……」
シトリーは、気まずそうに言葉を止めた。すると、魔王も気まずそうに頬を掻いた。
「まあ……、なんとなくだが、話は読めたぞ」
「はい。ご察しのとおり、セクメト様は『飾らないあなたが見たいのに』と、常々おっしゃっているのです。だから、今回のように不意打ちで遊びに来ちゃうことが、結構あるのですよ」
「あー……、ねー……」
魔王とシトリーは、ため息を吐きながら、ジトっとした目をプルソンに向けた。すると、プルソンは耳を反らして、尻尾を縦に大きく振った。
「な、なんなのだその目は!?」
「い、いえ、別になんでもございません!」
「こら、プルソン。部下を怯えさせちゃダメじゃないか」
「人をジトっとした目で見る方が悪いのだ! まったくもう。しかし、本当にどうしよう……、すぐに威厳に満ちたデートプランなんて思いつかないし」
プルソンは腕を組むと、ブツブツと独りごとを言いはじめた。その姿を見て、魔王は深くため息をついた。
「なんだよ、威厳に満ちたデートプランっていうのは……」
「そんなの、我が輩の威厳を示せるデートプランに、決まっているのだ!」
「あのなぁ……、デートっていうのは、格好つけるのも大事かもしれないが、基本的にはお互いが楽しめるようにプランニングするもんだろ? なんか、こう、水族館とか行ったりして」
「うっ……、うるさいのだ! デートをしたこともない人見知りの引きこもりに、プランニングについてとやかく言われたくないのだ!」
「な、なんだとう!? お、俺だって魔王になる前にはデートの一回くらいしたことある、かもしれないと考えたりはしなかったのか!?」
「その言い草だと、やっぱりしたことはないのではないか!」
「う、うるさいな! そう言うお前だって、デートで格好つけすぎてるから、セクメトさんがアポなしで来ちゃうんじゃないか!」
「そ、そんなことないのだ! 多分!」
二人がわりと低次元な言い争いをしていると、シトリーがヒゲと尻尾をダラリと垂らした。
「お二人とも、ひとまず落ち着いてください。デートなんて、日々の会話で行きたい所をリサーチして、その付近にあるロマンチックな飲食店を見繕っておけば、楽しめるし適度に格好をつけられるでしょう?」
シトリーの余裕のある言葉に、人見知りな引きこもりと、カッコつけマン(死語)は、そろってムッとした顔を向けた。当然、シトリーは耳を伏せて、ビクッと震えた。
「シトリー! そんなことがサラリとできたら、苦労はしないのだ!」
「そうだぞ、シトリー君。世の中には、どこどこに行きたい、という話題まで、会話が続かないやつだっているんだぞ」
「そうですね……、申し訳ございません……」
理不尽に叱られながらも、シトリーは深々と頭を下げた。
大人たちが不毛な会話を繰り広げているころ、一方のシーマ十四世殿下とはつ江ばあさんはというと……
「ほうほう、綺麗な緑色の宝石だねぇ」
「そうだろう! これはな、風に変換しやすい魔力が結晶になった、風石っていうんだ!」
「ほうほう、そうなのかい! シマちゃんはものしり、だねぇ!」
「べ、別にこのくらい、みんな知ってるし、大したことじゃないよ」
「そうかい、そうかい。でも、シマちゃんと一緒だと色んなこと教えてもらえるから、すっごく助かるだぁよ!」
「そうか! それなら、分からないことは、どんどんボクに聞いてくれ!」
「ありがとうね、シマちゃん!」
……宝石博物館で、わりといい感じのデートっぽいやりとりを繰り広げていた。そんな中、二人の背後から、タシタシと足音が近づいてきた。
「あの、すみません……」
かけられた声に、二人は振り返った。そこにいたのは、スカーフを頭巾のように被りサングラスをかけ、白いワンピースを着たライオンの女性だった。
「はい、どうしましたか?」
「どうしたんだい? ライオンのお姉ちゃん」
二人が声をそろて尋ねると、ライオンの女性は苦笑を浮かべて、折り畳みのパンフレットを差し出した。
「えーとですね、この『道を拓く宝剣』を見にいきたいのですが、迷ってしまって……」
パンフレットを覗き込むと、シーマは尻尾の先をピコピコと動かした。
「ああ、それならボクたちも今から見にいくんで、案内しますよ」
「え、よろしいのですか?」
ライオンの女性が問い返すと、シーマとはつ江はニッコリと笑った。
「かまわねぇだぁよ! 一緒に行こう、ライオンのお姉ちゃん!」
「連れもこう言っていますし、旅は道連れですよ。一緒に行きましょう」
二人の言葉を受けて、ライオンの女性はニコリと微笑んだ。
「お二人とも、ありがとうございます」
「いえいえ」
「どういたしましてだぁよ!」
そうして、三人は「道を拓く宝剣」の展示場所に向かって歩き出した。
かくして、大人たちがワチャワチャする中、シーマ十四世殿下とはつ江ばあさんは、お約束な展開を迎えたのだった。
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